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伝説の七人  作者: HITOSHI
10/18

『伝説の七人』第10章弥勒菩薩の章

第十章 弥勒菩薩の章

1,「みなさん、用意はよろしいでしょうか、今からこの部屋に未来の映像がホログラムで投影されます。一見実際その場に本当に居るような錯覚に覆われますが、これは映像です。決して戦おうなんて思わないでください。

特に須佐之男様、日本武尊様。」

香音が説明した。

「大丈夫、わらわがその時は抑えるから。」

「お願いします、卑弥呼様。」

ホログラム映像が投影されると食堂は一気に別世界になった。

そこには源平合戦から戦国時代までの映像が流された。

徳川家康が天下統一し250年程安定した世が続き、明治維新でまた天皇が世を治める時代となり、日本はそのまま日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦へと突入、しかし第二次世界大戦で日本は敗退、東京は焦土と化した。

巨大な戦艦、空母の戦いに全員が驚いていた。

特に広島。長崎に落とされた原爆の威力には驚愕した。

「ここまではざっと日本の歴史を見ていただきましたが、ここからがこの後皆さんのお力を借りることになる大事な部分になります。よくご覧ください。」

この後は、旅立ち前に湯川がアルに見せた映像が流れた。


アルが湯川に目配せし、外に出るよう促した。

「どうしたんだ、アル。」

「同じ映像見るのが退屈だったんだろう、アハハ。」

「バカ!」

湯川はまたケツを蹴られた。

「僕の部屋へ来い。」

湯川がアルの部屋に入るのは初めてだった。

「なんだこの部屋は。熊のぬいぐるみだらけじゃないか!」

「いいでしょ、好きなんだから。」

天井には日本武尊が剣を振り回す写真が大きなポスターとして張られていた。」

湯川は思わず噴き出してしまった。

「アハハ、アルお前案外ミーハーなんだな。」

「うるさい!いいでしょ、カッコいいんだから。」

「で、どうしたんだ?」

湯川はアルが何を考えているのか、さっぱりわからなかった。


2,「実は、僕はずっと悩んでいたんだ。」

そんな風には全然見えんかったけど…と湯川は思ったが、アルは言葉を続けた。

「前世の記憶で、僕は第二次世界大戦、ユダヤ人の大虐殺、原爆投下、をこの目で見てきたわ。前世の僕が死んだ後も、ヒデキが見せてくれたホログラムで、世界中でテロや虐殺、戦争、権力争いが繰り返されていた。

前世の僕は人類は地球に巣食う寄生虫のような存在で、資源を食いつくしてきっと自ら滅んでいくんだろうと思った。

でも、生まれ変わった僕が見たのは、戦争も飢饉も、犯罪もない、穏やかで平和な世界だった。この平和は本当の姿なんだろうか、僕は疑ってたよ。またどこかで独裁者が現れ争いが起こるんじゃないかと。」

「確かに、そうかもしれない。」

湯川もそう思っていた。

「そこにあのUFOが現れ、地球は破滅へと向かった。自分たちの傲慢で滅ぶんじゃなく、他惑星の侵略で滅ぼされる運命となった。」

「これは僕には許せなかったわ。長い地球の歴史の中で真の平和を初めて掴んだのに。

特に僕の核融合理論で作られた原発がUFOの成長につながった事に責任を感じた。だから次元転移装置の研究に没頭し完成させたの。」

「で、ヒデキの協力のおかげでここまで来れたわ。光も見え始めた。」

「うん」

湯川もまんざらでもなかった。

「金田一ちゃんの言葉も胸に刺さった。なによりあの過去の英雄達を見て、最初はみんな自分の事しか考えないような人ばかりだったのに、今は地球を救うため一つになろうとしてる。

卑弥呼ちゃんのおかげも大きかったけど、僕らの明るさや優しさ、そして前向きさを受け止めてくれて、少しづつ変わっていった。」

「このチームなら何とかしてくれるんじゃないかと思ったわ。」

「だからこそ、このミッションが成功した後が心配なの。」

湯川には、なんとなくアルの心配がわかった。

「未来を知ってしまった、日本の歴史を知ってしまったあの人達を元の世界に戻しても大丈夫なのか心配しているのか。」

「そうよ。ヒデキ。」

「確かに、未来を知れば自分の権力を広げる事はたやすいだろうな。」

「でも卑弥呼ちゃんなら人の頭に入って、記憶を消す事ぐらいできちゃうと思うの。」

「うん、多分できるだろうね。」

「全てが終わった後、その判断をヒデキがして欲しいの。」

「えっ、なんで?アルがすればいいじゃん。」

「もしヒデキと僕も記憶消されたら?」

「それは嫌だな…」

「僕も絶対嫌!あの人達との記憶も消えちゃうんだよ。それを逆に考えたら、そんな事絶対無理!だってみんな一生懸命だし、僕らの未来のために戦ってくれてるし、何より優しいし…」

アルは大粒の涙をぼろぼろこぼした。

「わぁ~~~ん。」

アルは号泣しながら湯川に抱きついた。

「どうしたんだ、アル。」

「みんなの事が大好きなの。卑弥呼ちゃんも、スサノオちゃんも、タケルちゃんも、清明ちゃんも、小角ちゃんも、将門ちゃんも、勿論ヒデキと香音ちゃんも。」

「そうだな、そうだな。」

湯川は優しくアルの頭を撫ぜたが、なんで俺だけ呼び捨てなんだとふくれた。

「グスン、グスン。」

アルも少し落ち着いたようだ。

「アル、わかった。俺が判断するよ。って言うかみんなの記憶を消さなくて済むように努力するよ。」

「うん。」

「だからもう泣くな。アルが泣いてる姿なんて誰も見たくないぞ。」

「わかった、もう泣かない。」

湯川はこの時のアルの涙をはき違えていた。

後にそれを後悔する事になるのだが、今の湯川には想像もつかなかった。

「さ、そろそろホログラムも終わる頃だ、食堂に戻ろう。」

「うん。」


3,湯川とアルが戻ると、丁度ホログラムが終わったところだった。

何故か卑弥呼が激怒していた。

「なんという体たらく、そもそも天皇家は神の血筋を引く者、それがなんだあれはただ窓から手を振ってるだけじゃないか!国民の象徴などとおだてられよって、何の役にも立ってはおらぬではないか、わらわの呪術を受け継いでおればこんな事にはなってはおらぬというのに、世界大戦でも何が『天皇万歳」じゃ、それで何人の若者が死んだと思ってるんだ。

科学などという力に頼りすぎるからこんな事になるんだ。

まあ、地球温暖化以降世界が一つにまとまり戦がなくなったのはよかったが。」

卑弥呼のあまりの口汚さに全員が固まっていた。

「まあまあ姉…、卑弥呼さん、そこまで言わなくても…。」

須佐之男が卑弥呼を諫めるといういつもの逆転現象も起きていた。

「で、アル、時間軸の崩壊は本当に弥勒菩薩様が防いでくれるのか?」

清明が話題を変えてくれた。

「弥勒ちゃんで駄目なら、キリストちゃんとか、ゼウスちゃんとか、なんとでもなると思うの。」

さっきまでわんわん泣いてたくせに、もうケロッとしてやがる、まあそれがアルのいいとこだけどなと湯川は思った。

「さすがに5億年後の旅は長いものになりそうです。その前に食料の補充をしておいてはいかがでしょう?」

香音が提案した。

「そうだな、食材はまだ十分あるけど、酒が残り少なくなってきたし、弥勒さん迎えに行く前に貯蔵庫いっぱいにしとこう。」

湯川も賛成した。

「香音、じゃあ前に仕入れに行った豊洲市場の1週間後くらいに設定してくれ。」

「あいよ。」


4,「着いたわよ。」

「早いなぁ、一瞬じゃないか。」

湯川が驚いて香音に訊いた。

「実はみんなが話してる間に移動してたの、えへへ。」

香音は頭を掻いて照れていた。

「香音もうこの市場の構造はインプットされてんだろう。」

「ええ、ヒデキ誰も居ない場所に転送するわ。」

「じゃあ、アル行こうか?」

「わしも行く。」

「俺も行く。」

「私も行く。」

「オラも行く。」

「わしも行く。」

「わらわも行く。」

「ゲッ、全員で行くんすか。」

「卑弥呼さん、絶対船から降りないって言ってたじゃん。」

「わらわも興味がある。」

湯川はこの6人が豊洲市場を歩く姿を想像して震えた。

「アルだけでも大変だったのに。」

湯川は肩を落とした。

これにはさすがの香音も予想できなかったみたいで、慌てだした。

「すぐにこの時代の服装を用意しますから、みなさん部屋に戻って着替えてもらえますか。」

「それと香音、顔バレしたらいけないんで、帽子とサングラスも用意してくれ。」

「じゃ、10分後に転送室で。あ、スサノオさん、タケルさん草薙の剣は持ってかないでくださいね。」

湯川はそう言うと自分の部屋に戻った。

湯川は手早く着替えを済ませると、転送室に向かった。

みんなが集まって来た。

香音はよっぽど慌ててたんだろなみんな同じ格好だった。

男性はみんな白のワイシャツに紺のスーツ、白地に黒帯のボルサリーノ帽、レイバン風のサングラスだった。

女性は薄い青のワンピースに紺のフレアハット、黒縁の丸サングラスだった。

「卑弥呼さん、とても似合ってますよ。」

湯川は声をかけた。

しかしこの集団は異様だな。

「まるでマフィアじゃん。」

アルは笑っていた。

余計目立っちゃうんじゃないかな。

「えっと、みなさんこれから行く所は、食い物がいっぱい並んでいますが、全てお金と交換しないと食べれません。

決して、勝手に食べないようお願いします。卑弥呼さん、くれぐれも抑えてくださいね。」

湯川は一番の心配事をみんなに伝えた。

「わかった、今の湯川の言葉みな守るように。」

「は~~い。」

小角が真っ先に手を挙げた。

おめえが一番心配なんだよと思ったが、湯川は口には出さなかった。

「仕入れが済んだら、みなさんには格別に美味しい物をご馳走します。楽しみにしててください。」

湯川の頭の中にはあの寿司屋が思い浮かんでいた。

湯川を真ん中に、この8人が横に並んで、市場への道を歩く姿はやはり異様だった。

周りの人達は何かを感じたのか、自然に道を空けてくれた。

その姿はまるでGメン75のようだった。


5,市場に着くと、アルと卑弥呼は手を繋いでルンルンとどこかへ行ってしまった。

他のメンバーも散り散りに去って行ってしまった。

一番まずい状況じゃん。湯川はどうしようと思いながら、一番心配な小角の後を追いかけた。

案の定小角は背から翼を出そうとしてたので、湯川は指で×を作り小角を抑えた。

向こうでは日本武尊がヤンキー10人程に囲まれていた。

「おっさん、肩が当たっただろうが、何だよその偉そうな態度はよお。ボコってやろうぜ。」

ヤンキーは日本武尊を囲むように輪を縮めて行った。

1人のヤンキーが蹴りを入れようとした瞬間日本武尊は「かぁぁ」と気合を入れた。

ヤンキーは全員吹っ飛んだ。

日本武尊は気合だけで吹っ飛ばしたのだった。

湯川は慌てて日本武尊の腕を取ってその場から逃げ出した。

「湯川の言った通り殺さなかったぞ。」

「そういう事じゃなくって、大騒ぎになってますよ。」

湯川はうなだれた。

須佐之男は片っ端から女性に声をかけていた。「どうじゃおぬし、わしとまぐわらぬか?」

将門はターレを追いかけながら蹴りを入れていた。

湯川はもうやってらんねえと思い、アルに連絡を取った。

「アル今どこに居るんだ!」

「卑弥呼さんと屋上の公園に居るよ。」

「その辺に清明さんはいるか?」

「え、清明さん…、あ、居た。瞑想してるみたい。わっ、ちょっと空中に浮いてるわ。」

「いいいっ、俺の力ではあの連中抑えられない。卑弥呼さんにみんな大人しくするよう呪術かけてもらってくれ。」

卑弥呼はパチンと指を鳴らした。

すると嘘のようにみんな大人しくなった。

やっとこれで仕入れができると、湯川はまた倉庫を借りに行った。

「あ、こないだのお客さん。」

倉庫の管理人が覚えてたみたいだ。

「また1日借りたいんだが」

「前の時はあの大量の荷物どうやって運び出したんですか?気が付いたら全部なくなってて、腰抜かしましたよ。」

「ああ、船を横づけして、部下に運ばせた。」

「どっかの国の王族さんか何かですか?」

「まあ、そんなところだ。」

この国の王族だがな…湯川は笑いを堪えた。

「あ、ここにまた商品が運ばれて来るから、パレットごとにこのシール貼っておいてくれるかな。」

湯川はマーカーシールを束で渡した。

それから湯川は、水や米等食材を前回の2倍くらい買いまくった。

特に酒類は前回の5倍くらい買った。その量は倉庫に入りきらないかもと思った。

よしこれでOK。

「香音お金はいくら残ってる?」

「まだ46億以上残ってるわ。」

「じゃあ、またみんなで寿司食ってくわ。」

「そう言うと思って、あの店貸し切りにしといたわ。」

「さすが香音気が利くなあ。みんなバラバラになってどこに居るかわかんねえ、めんどくさいから店に転送して。」

「あいよ」


6,突如寿司屋に8人の姿が現れた。

寿司屋の親父は口をあんぐり開けたまま、「お客さんいつの間に。」と驚いていた。

「あ、お客さんこないだの。」

「親父さんまたお世話になるよ。お任せでどんどん握ってくれ。」

「それと日本酒。」

「僕はビー…」

アルは湯川に口をふさがれた。

「この子はウーロン茶で。」

「ぷぅぅ~」

アルは膨れ、その様子にみんなが笑った。

須佐之男達は日本酒をラッパ飲みし、寿司を猛烈な勢いで口に放り込んだ。

「美味い!」

「美味い!」

「美味しい!」

「うめぇ~」

親父さんと職人は必死で握ったが全然間に合わなかった。

「こりゃ大変だ。」

親父さんは外へ飛び出て行った。

親父さんは周りの店に応援を頼んだようだった。

沢山のネタを抱え厨房は人でいっぱいになった。

「これが寿司という食べ物か。」

清明でさえ寿司は食べたことなかったようだった。

「わしは大トロが好きだ。口の中で溶ける。」

「俺はウニが気に入った。」

「わしはイクラだな。」

「わらわはアワビが気に入った。」

「オラはかっぱ巻き。」

「おめえは河童じゃなく天狗だろうが。」

アルが小角をからかった。

「えへへ。」

それを見て全員が笑った。

みんなそれぞれ好きな具を頼み、腹いっぱいになった頃、寿司ネタも切れかかっていた。

そこら中に日本酒の空き瓶が転がっていた。

「親父さん、残った寿司ネタでいいから折詰を作っといてくれ。」

湯川はまた香音を怒らせてはと、注文しといた。

「こんなに食ったお客さんは初めてですよ。」

「親父さん、勘定を頼む。」

さすがに計算に手間取ってるようで、みんなはお茶をすすっていた。

「ええと、250万になります。端数はおまけしておきました。」

「ありがとう、じゃあ、これで。」

湯川はカードを渡した。

清算を済ませると、みんなはフラフラになりながら寿司屋を後にした。


7,「香音全員転送頼む。」

湯川の目に一瞬アルが大きな紙包みを抱えているのが見えた。

湯川達の姿は消え、船に戻った。

「倉庫の食材にマーカーシール貼るよう頼んどいた。格納庫に入るだけ転送しておいてくれ。」

湯川は香音に頼んだ。

「それとこれ折詰…」

「香音ちゃん、これお土産。」

アルが紙袋から巨大なパンダのぬいぐるみを香音に渡していた。

香音は湯川の折詰を無視して、パンダのぬいぐるみに抱きついた。

「アル、ありがとう。めっちゃくちゃ可愛い。アル大好き。」

香音はアルの頬にキスしまくっていた。

「なんだよ、今度は気効かせて寿司買ってきたのに。だいたいお前金も持ってないくせにどうやって買ったんだよ!」

「内緒で、もう1枚カード作ってもらってたの、香音ちゃんに。」

「まあよい、その寿司はわしが食う。」

「スサノオさんまだ食うんですか?」

湯川は驚いた。

「湯川この機械で寿司は食えないのか?」

日本武尊が訊いてきた。

「いや、食えますよ。」

「何故それを早く言わん!」

「だって、メニューにほら、寿司って書いてあるじゃん。」

「あ、ほんとだ。」

「でも、あの寿司屋程美味しくはないっすよ。」

「じゃあ、みなさん船を5億年後の未来へ時間軸を進めます。少し飛ばしますがかなり時間はかかると思います。その間にたっぷり休養しておいてください。」

香音がそう話した。

「あ、ヒデキ食材全部は積みきれなかったわ、酒は全部積んだけど、また残り取りに来なきゃいけないわ。」

「わかった、弥勒さん救出したらまた帰ってこよう。」

「じゃ明日、弥勒菩薩様救済の計画を立てましょう。」

卑弥呼の案にみんな賛成した。


翌日、全員が集まったところで、卑弥呼が語り始めた。

「弥勒菩薩様がいつどこで出現するか占ってみたわ。だいたいの時間の予測はできたんで、香音に伝えたわ。」

「でも場所の特定まではできなかった。小角、あんたは3歳で梵字を覚えたって言ったわね。」

「ああ、なんとなくオラの頭の中に浮かんできたんだ。」

卑弥呼はまた額に指を当て、考え込むように驚くべき事を言った。

「小角、その時の匂いを思い出しなさい。」

「ああ、鬼は臭かったけど、梵字はすげえいい匂いがしたから、よく覚えているよ。」

小角の答えもまた驚くべきものだった。

「いい、梵は釈迦の次に生まれる未来仏の事よ。つまり弥勒菩薩の事。」

全員が黙って卑弥呼の話に聞き入っていた。

「香音はマイナス300℃に耐えれる宇宙服を2着作ってちょうだい。」

「小角と清明はその服を着て、宇宙空間に結界を張って待機。」

「小角が梵の匂いを嗅ぎとったら、清明は結界を解いて。すぐに船に戻って。」

「小角は結界が解けた瞬間に、瞬間移動して弥勒菩薩を抱えて船に瞬間移動、すぐに弥勒菩薩を医療ポッドに運ぶ。」

「それでも弥勒菩薩はマイナス300℃の宇宇宙空間に数秒晒されるわ。それを医療ポッドで救えるかどうかは賭けよ。」

「これしか他に方法はないわ。」

卑弥呼の計画は的確で全員が納得するものだった。


8,エスポワール号は3日程で5億7599万年後の時間軸に着いた。

そこには地球はおろか太陽の姿もなかった。全くの真っ暗闇の宇宙だった。

「ここまで来たら、かなり正確に時間の特定ができそうだわ。」

卑弥呼はまた額に指を当て考え始めた。

「香音ここから26年後の地球があった場所、そうねインドがあった辺りの4月8日10時に弥勒菩薩は降臨するわ。」

「その30分前くらいに船を移動して。」

「あいよ」

卑弥呼の指定した時間に船は着いた。

「小角、清明用意して。」

2人は宇宙服に着替えに行った。

宇宙服に着替えた2人は格納庫へ向かった。そこにはすでに医療ポッドが運ばれて用意されていた。

そして全員が集まっていた。

「小角、今回も大役だけど大丈夫?」

卑弥呼が訊いた。

「うん、オラ頑張るぞ~~。」

小角は突然体操を始め、顎を鳴らした。

こいつマジで緊張感ゼロだな、湯川は思った。

「小角ちゃん、清明ちゃん、頑張ってね。」

「頼んだぞ。」

「よろしくな。」

みんなが声をかけた。

「後、5分よ。格納庫の扉を開けるから、みなさんはコックピットへ。清明さん結界を張ってください。」

香音が指示した。

清明が結界を張ると格納庫の防気圧シャッターが降りて扉が開いた。

気圧の違いで猛烈な風が吹き荒れた、清明の結界はそんな風でもびくともしなかった。

小角は鼻をぴくぴくさせ梵の匂いを探っていた。

清明は結界を扉の外まで移動、小角の反応を待った。

「キタ~~」

小角が叫ぶと同時に清明は結界を解き、自身はジェット装置で船に戻り、また結界を張った。

その瞬間、小角が弥勒菩薩を抱えて戻ってきた。

「香音、すぐ扉を閉じて…」

清明がそういう前にもう扉は閉まっていた。

2人はすぐに医療ポッドに弥勒菩薩を乗せた。

防気圧シャッターが開きみんなが集まって来た。

「小角ちゃん大丈夫だった?」

アルが心配して訊いた

「オラは全然大丈夫だ。」

「香音、弥勒さんはどう?」

卑弥呼が訊いた。

「はい、ちゃんと息をしておられます。」

その時突然、弥勒菩薩が起き上がった。

「おお、さぶ、さぶ、風呂や風呂。」

と言いながら、部屋の方へ走って行った。

「なんか仏像の弥勒菩薩さんとは全然見た目も雰囲気も違うんだけど、あれって本物?」

湯川の疑問に誰も答える事が出来なかった。

みんな首を傾げながら食堂へ戻り、弥勒菩薩を待っていた。


9,30分ほど待つと、弥勒菩薩がバスローブ姿で帰ってきた。

「ああ、温もったわ」

「よっ、弥勒のおっちゃん。僕はアル、よろしくね。」

相変わらずアルの軽い挨拶だった。

「は、だ、誰が弥勒のおっちゃんやねん、蓬莱の豚まんみたいに言うな。」

何故か、弥勒菩薩の言葉は関西弁でみんなの耳に聞こえた。

「あ、あの…、あなた様は本当に弥勒菩薩様なんでしょうか?」

湯川は恐る恐る尋ねた。

「本物やで、お前らの活躍も上から見とったし、地球無くなったのも見とったわ、お前らが助けに来てくれる事もわかってたで。」

「しかしまあ、あんなUFOが現れるとは予想外やったし、海がのうなるなんてホンマびっくりやわ。」

「しかし、湯川とアル、こんだけすごい英雄ばっかし、よう集めたもんやな。」

「このメンツやったらあのクソ憎たらしいUFOもなんとかなるんちゃうけ。」

「時間軸の崩壊も、ワシがおったら大丈夫や。折れんように何とか超パワーで堪えたる。」

「ほんまかいな?と思っとるやろ、ワシが時間止めれるの見したろうか?」

と言うと、弥勒菩薩は時を止め、湯川のズボンを脱がした。

「ほれ見てみ、湯川の格好。」

「ヒャ~ヒャ~。」

弥勒菩薩は引き笑いをした。

「ほんでな、ワシの事、弥勒菩薩様は長すぎて言いにくいやろから、弥勒さんでええで。」

「これで、晴れてワシもお前ら伝説チームの仲間や、よろしゅう頼むで。」

全員が口をあんぐり開け弥勒菩薩の話を聞いていた。

湯川に至っては、パンツ1丁のままだった。

「ヒデキ、ズボン。」

アルに指摘され湯川は慌ててズボンを上げた。

「こんな人だったの?弥勒ちゃんって?」

アルが卑弥呼に耳打ちしていた。

「さあ…」

さすがの卑弥呼もお手上げ困り顔をしていた。

「お前ら、市場で寿司食とったやろ。あれ、ワシにも食わしてえな、腹減ってんねん。」

香音は慌てて、寿司の盛り合わせとビールを用意した。

「これが寿司かいな、ホンマ美味いな。このビールちゅう酒もええわ。」

「これ何の魚や、あ、マグロか。これ海老やな。うわっ、これサンマちゃうんか!ワシの大好物やんけ。」

弥勒は口からご飯粒をまき散らしながら喋っていた。

「わ、きったねえ!」

アルがつい口をすべらした。

「すまん、すまん、つい興奮してもうた。」


10,「香音、これで全員が揃った。そろそろ2193年UFO出現前に戻ろう。また3日くらいかかるんだろう。」

「ええ、わかったわ、ヒデキ。」

みんなそれぞれ食事を摂ると、弥勒の余りのうるささに辟易したのか、酒を持ってそれぞれの部屋に散って行った。

食堂に残ったのはアルと湯川と香音、弥勒だけだった。

「弥勒のおっちゃんは今までどこに居たの?」

アルが訊いた。

「せやな、6次元の世界と7次元の世界を行ったり来たりっしとった。」

「6次元の世界ってどんなの?」

アルが一番興味がありそうな事だった。

「そんなもん、3次元で生きてるお前らに説明したって理解できるかいな。」

「だって今4次元の世界にいるんだよ。僕ら次元の壁超えたんだよ。」

「せやな、5次元の世界は空間という認識がないって感じちゃうかな。

もうそれ以上の次元になると何もないけど、何かあるって感じ。な、なんの事かわからんやろ?」

「うん、わかんない。」

「さすがのアインシュタインの生まれ変わりでもわからんか、ヒヤァ~。」

弥勒はまた引き笑いをした。

本当にこの人がメシア(救世主)なんだろうか、湯川にはまだ信じられなかった。

「じゃあ、ワームホールってわかる?」

「あの給水器が出てきたやつやな。」

「僕の理論では、2次元の平面が2つあっても移動はできないけど、それを3次元移動させると平面の間にチューブを繋げ移動できる。それをプラス1次元したのがワームホールじゃないかと、つまり入口がブラックホールで、出口がホワイトホール。これって間違ってないかな?」

「せやな。しぇーかい。」

「それって、こっち側から破壊できないの?」

「う~ん、出口側からは無理やな。ホワイトホールは中から出て来る物以外は全て拒絶しよるからな。入り口側からしか破壊は無理や。」

「という事は、やっぱりあの光子ミサイル発射装置を破壊するしか方法は無いということですか?」

湯川が訊いた。

「せやな。まあでも、ワームホール破壊するよりそっちの方が簡単やろ。」

「このチームやったら大丈夫やって。」

アルは足を組み、右手を頬に当て考え込んでいた。

「その恰好、お前の方が弥勒菩薩の仏像みたいじゃねえか。」

「うるさい馬鹿ヒデキ。」

湯川はまたケツを蹴られた。

「ひゃ~。」

弥勒はまた引き笑いして、アルと同じ格好をした。

「どや、これが本物の弥勒菩薩像や。」

『全然似てな~い。』

湯川とアルの声がシンクロした。

「なんでやねん!ひゃ~」

手の甲で湯川の肩を叩きながら、弥勒はまた引き笑いした。

その後も弥勒は誰かれ捕まえては話かけまくっていた。

エスポワール号は一度2020年9月20日の豊洲へ戻り、残りの食材を転送し、2194年へ行き、湯川はチームのメンバー全員が集まった事、そのみんなが個性的な人ばかりであった事等を金田一長官に報告した。

金田一長官は大笑いしながら、日本州の住民全員をUFO出現前に避難させた事を伝え、ミッション成功を祈っていると湯川を励ましてくれた。

その祈り先の仏さまががあの変わり者キャラの弥勒さんなんだけどな…

湯川は心の中で唸った。

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