消しゴムの行方
やばい、消しゴムを無くした。
別に普段の授業中なら問題はない。
でも今は中学期末試験中だ。
あれ、何だか早口言葉みたいだな・・・
やかましい。
落ち着け、集中しろ。
まずいつから無いのか。
テストが始まる前は2本のシャープペンシルと一緒に置いてあった、だから持ってき忘れているわけでは無い。
だとすると、落としてどこかに転がったのか。
誰かの足元にあるのか。
本当は今すぐに確認したいがキョロキョロしていると前にいる国語担当の田中先生にカンニングを疑われる。
その上、あの先生の口癖『万全を期して臨め』に反する状況だ。
他の生徒はこんなこともあろうかと2つ用意しているのだ。
俺は1つでいいかと、もう1つは持ってきていない。
最悪授業を聞いていなくて持ってきていないと思われた場合、授業態度の評価が下がる恐れがある。
ここは何としても切り抜けなければ。
幸い、残りは1問。 最後の長文の問題さえ乗り越えたら勝ちだ。
問3
棒線部を説明する適当な文の一行を文中から抜き出して最初の五文字を書きなさい。
勝った。
これは見つけて書くだけだ。
そのまま書けばいいのだから、消しゴムは使わない。
そして答えは・・・。
よし完璧だ。
これで、テストが終わり次第消しゴムを探して万事OK。
「すみません!!」
「どうした、倉橋。」
俺の二つ前の席の倉橋が手を挙げる。
「僕の斜め前に消しゴムが落ちてます。」
「それは、倉橋のでは無いのかね。」
「違います。」
「そうか。」
教壇から田中先生が降りて消しゴムを拾う。
「この消しゴムの持ち主は誰だ。」
よくやった倉橋。これで俺が今気づいたフリで手を上げれば解決だ。
「この右側だけしか使わないこだわりの消しゴムは誰のだ。」
クラスがクスクス失笑する。
あのクソジジイ!!!
余計な修飾語添えやがって。
これで今手を上げたら無意識に使っていただけなのに、俺がものすごくこだわって使ったみたいになるじゃないか。
というか、俺の記憶では買ったばかりでそんなに左右差は無いはずだ。
「誰もいないのかい、じゃあ先生が預かっておきます。」
最悪だ。
これで、職員室に行かなければいけなくなってしまった。
しかもテスト期間中は生徒の立ち入りが禁止されているので、大声で教室の外から呼ばなくてはならない。
でも見方を変えれば職員室に行けばいいだけで、このクラスの奴らにはバレない。
中学生なんてものは総じて馬鹿だ。
他と違うものを見つけたら、すぐにそれにちなんだあだ名をつけたがる。
今回なら、『意識高い系』だの『こだわりマン』だのダサくて不名誉なあだ名がつけれてしまう。
それを思えば、一回職員室に行くくらいどうってことはない。
楽勝だ。
「先生。それは小林くんのだと思います。」
クソ馬鹿野郎があああああ。
何してくれてんだ池田。
よくも裏切りやがったな。
絶対に許さない。
末代まで祟ってやる!!!
「これは小林のか?」
考えろ、ここで受け取ればあだ名の餌食だ。
しかしこうなってしまった以上、後で職員室にも行きにくい。
どうする俺、どちらを選ぶ。
「違います。俺のではありません。」
「そうかい。もしいたら後で職員室まで来るように。」
やってしまった。
今日はまだ、社会が残っているのに。
社会を消しゴムなしでやりきるのは不可能だ。
「残り5分。きちんと見直しをするように。」
田中先生の呼びかけにクラス全員が最終確認をする。
消しゴムで正直それどころではないが、最後に確認はしておこう。
俺が確認を終えるのとほぼ同時にチャイムがなる。
「そこまで。 筆記用具を置いて、後ろから答案用紙を集めなさい。」
田中先生の元へ答案が集まり、日直が号令をかける。
その後、十分間の休憩が始まった。
俺は一目散にあいつの所へ行った。
最終手段実行だ。
「ちょっとトイレ行こうぜ。」
「僕は別にいいよ。」
「そんなこと言わずにさ。」
「大丈夫だよ本当に。」
「いいから来い。」
俺は半ば強引に池田を引っ張った。
「テメエ何してくれとんねん。」
「もしかして、消しゴムのこと?」
「そうじゃボケエエ。」
「何でそんな怖いのさ。 違うのに名前を挙げちゃっただけでしょ。」
「アレは俺のだ。」
「ええ!じゃあ何で違うなんて言ったのさ。」
「馬鹿か。あそこで受け取ったら変ないじりに合うだろ。」
「合わないと思うけどな。」
池田はのんびりと答える。
「それよりも俺の消しゴムどうしてくれるんだ。」
「2個持ってきてないの?」
「ないからお前に聞いてんだろ。」
「僕2個あるから貸すよ。」
「おう、まあこれでチャラにしてやるよ。 二度とするなよ。」
「小林君て、小学校の時から思ってたけど気にしすぎだよね。」
「何だと。」
「だから気にしすぎだよって。」
「お前が無神経なんじゃボケえええええ。」
俺は池田の背後にまわり首を絞めた。
「ギブギブ。」
俺は手を緩めた。
「はあ・・はあ・・もう本当すぐ手が出てガサツなんだから。」
「何だと、もう一回イったろか。」
「もう勘弁、それより消しゴム貸すから教室に行こう。」
「はい、後で返してね。」
「おう。」
予鈴が鳴り、社会科担当の安藤先生が教室に入ってきた。
「今から社会科のテストをします。 机の中に何も入っていないか、確認してください。」
俺は机の中に手を入れ確認する。
すると指先に何かが当たった。
「俺のじゃん・・・」
ごめん池田。
後で俺が子孫にかけた呪い解いてやるな。
ならさっきのは誰!!!




