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異世界ふとん至上主義!  作者: 一人記
第二章

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第九十三話『海の怪物』


【───視点】


───空が泣き叫ぶ。


 とめどなく降り注ぐ雨と雷が、周囲一帯全ての音を消し去らんとしている。


吹き荒れる風は大海を揺らす。


 揺れはやがて大きなうねりとなり、その身をせり上げて全てを飲み込もうと画策する。



 そんな嵐の只中で、一隻の船が揺れ動く。


 世界基準で見れば大きいといえる船体に、造りが精巧な幾つかの砲台。

嵐に流されないよう帆は外されているが、それでもその存在を強く主張する、高く(そび)え立つ三つの帆柱。


 そしてその側面にある、大きく動く波に抗うように慌ただしく動く何らかの機構。

大きい水車と黒い水掻きのようなそれらは、各国が尻込みする程の莫大な費用により作られた"魔導具"だ。


それは世界最高峰の船の証とも言えるものであり、それを搭載したこの船は、魔導学園都市国家・マナレルムの最新技術により造られた世界中を安全に航海するひとつの巨大な魔導具……


"水精魔力伝導式第一航海船"、略して『魔導船』である。


 魔導船は様々な国、出資者の支援により開発されたもので、製作にかかった費用はおよそ300,000,000ゴルド。

小国を一つ買えてしまう程度の金が注ぎ込まれている、いわば人類の叡智を結集させた世界最新鋭の船なのである。



……しかし、そんな魔導船でさえも船体全身を濡らし、されるがままに波に揺られている現状。

 さすがに船体に穴があくようなことは無いが、既に帆を支える帆柱はボロボロであり、世界一の木材として知られる妖精の木(マナ・ツリー)で作られたその身はミシミシと音を立て始めていた。


 それだけで、海底にて蠢いている存在の規格外さが推し量れることだろう。



───クラーケン……特に"海の怪物"と呼ばれ畏怖されているそれは、古くからシーアシラの緑海(えんかい)に棲んでいる生きる伝説のような海洋魔物だ。



 グリム大陸最大の港を所有するシーアシラ港町と、巨大な海洋の中心に位置している島国、魔導学園都市国家・マナレルム……

そして、様々な獣人の暮らす"アレグバドル=レオ獣王国"の三国間の貿易路を荒らし回っている厄介な存在なのだ。


 人の目の届かない深海にて獲物となる商船を待ち、自らの固有スキルで嵐を発生させて弱った所で船ごと丸呑みにしてしまう凶暴性。

その被害は年間何十隻もの沈没船を生み出しており、交易に出て帰ってこなかった隻数は数多にもなると考えられている。


 もはや、動くの天災のようなものだ。


 このような魔物が棲んでいながらもシーアシラにおいて海洋貿易が盛んなのは、当代の領主が締結した海外から来る輸入貨物に関税をかけないという斬新な政策のおかげだろう。



───大海が揺れ動く。


 獲物(まどうせん)を喰らわんとして、"海の怪物"がその大きな触肢を振るったのだ。


 すると、それだけで自然という名の凶器が魔導船を揺らし、その船体を大きく傷つけた。


───水車の様な形をした魔導具がぎしりと音をたてて止まる。


 それにより、迫り来る波に逆らって進んでいた船体はゆっくりと動きを鈍らせ速度が無くなっていき……完全に停止してしまった。

 推進用の魔導具である"魔力駆動車輪(マナ・ジェット)"が壊れてしまえば、もう嵐を抜けることも出来ない。


 残る黒い水掻きのような魔導具……"船体調節力翼(フリューゲル)"ももう限界である。

竜巻のように荒れ狂う波によって、船体角度の調節機能が狂ってきているのだ。



───それを見て"海の怪物"が喜んだのかは分からないが、嵐はどんどんと威力を増していく。


 大雨による加重、唸る雷、吹き荒ぶ暴風……

海面はうねうねと揺れ、その身を大きくせり上げた。


 船が大きく揺れる。

きっとあと数刻後には、為す術なく転覆してしまうだろう。


 そして転覆しまえば、船外は身動きを取ることすら困難な海中。生物が生きて帰ることは無理に等しい。


……陸上でしか生きることが出来ない人の身など、尚のことである。



───しかし、そのような状況であるのにも関わらず、海面を進む人影がひとつあった。



 黄色の強膜(きょうまく)に赤い瞳、薄い茶髪を後頭部で緩く編み込み下に流した髪型。

口からはギザギザとした鋭い歯が覗いている。


 彼女が身につけているのは、船乗り達にとって最高級の装備とされる水中用戦闘服。

その女性用の戦闘服から出ている鍛え抜かれたしなやかな腕は、美しい青の鱗で覆われていた。


そして、下半身。


 腰上までかろうじて成されていた人の肉体は姿を消し、ざらざらとした尾ヒレのようなものがそこにはあった。


尾ヒレがばたばたと水中を掻き分ける。


 それによって、彼女はその片手に大きな(アンカー)を持ちながらも、激しく波打つ海流に流されることなく進んでいく。


だが、やはり自由自在に動くことは出来ないようで、その進みは酷くゆっくりだった。


『……!』


───そんな中、彼女の側頭部についているヒレが、ぴくりと動いた。


 "海の覇者"たる"魚人族(ディープ・ワンズ)"の民……

その一人である彼女の頬ヒレは、光の届かない海中で、自らの外敵や獲物となる存在が居ないか周囲を探査するための振動探知機能を備えているのである。



探知した振動は、ずるずると海底を引き摺る、複数のもの。



あまりにも巨大で、あまりにも恐ろしい、死の存在。







───言わずもがな、"海の怪物"である。











『見つけた……この先に、ヤツがいる……!』




 しかしそれをわかっていながらも、彼女はそちらへと進路を変え、進み始めた。


海流が全くの逆方向であるため、速度はより遅いものとなっている。


加えて、海中に舞い上げられた石などが身体にあたり、その身体はどんどんと傷ついていく。



だが、彼女は止まらない。


どんなにゆっくりだとしても、前へ……


前へ、前へと進んでいく。




『絶対に倒すんだ……皆のために。


───アタイが……倒さなきゃならないんだ……!』




───その、自らの役目を、仲間に誓った約束を果たすために。




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2023/11/27

獣王国の名前を"アレグバドル・レオ獣王国"に変更。

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