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第八話『火事場と泥棒』


【???視点】


「う......?」


 なにかの物音で目を覚ます。

今、何時だろう?私何してたんだっけ?


 たしか......


「あしおとが、聞こえて......!」


 そうだ!

村のみんなが、襲われて......朝までベットで隠れてたけど、私、つかれて寝ちゃったんだ。


 私はまわりを見渡して、何もいないことを確認した。


「しずかにしなきゃ......」


 私は、音を立てないようにしずかにベットを出ると、部屋のとびらに近づき耳をたてた。


さっき、なにか物音がした......気がする。


 寝ていてあまり聞き取れなかったけど、もしかしたらあの怖い奴らが入ってきたのかもしれない。


怖いけど、ここには私しかいない......頑張らなきゃ......!


 もう少しなにか聞こえないか、みみに力をあつめる。

 そうすると、下の部屋から何かを探すようながさがさという音が聞こえてきた。


「やっぱり、誰かいる......!」


 ......どうしよう?

もう、おとうさんもおかあさんもいない。この家には、いま、私ひとりだけしかいないのに......!


ここにきたら、た、たたかうしかない…!


 私は、ふるえる手をぎゅっとにぎって、なにかがここにこないようひっしに祈ることしかできなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【主人公視点】


「おじゃましまーす......」


 故郷(数日)の森をぬけて、街道に出て、この世界に来て初めての村にやってきた。

 だが、その様相は酷いもので、大量の人間の死体と燃やされた家屋、様々な気持ちの悪い臭いが充満しているという、のっぴきならない状況。今世紀史上最悪の出会いである。


 そんな中で、唯一焼け残っていた家屋。

その家屋の中へ、私は何かから隠れるように、静かに入っていく。


 ギィと軋む扉を開け、忍び足で中に入る。

別に静かにする必要は全くないのだが、いかんせん悪い事など一度も......小さなことしかした事がないので、他人の家に入り込むという行為で自然とこそこそと動いてしまう。


 あ、小さなことというのはあれだぞ?

母上の買い物カゴにお菓子入れたとかそういうやつだからな?

犯罪なんて1度もしたことないからな?


そこ間違えないように......って、私は誰に弁解してるんだ。

心の中でひとつため息をつくと、私は部屋の中を見渡す。


木のテーブルに、木の椅子が3つ。

台所らしきところには、現代では見たことも無いような石造りの竈?があり、その上に調理道具や乾燥された食材が吊り下がっていた。


「食べ物だ......!」


 吊り下がっていた乾燥物を手に取る。

固いが、少しだけ柔軟性がある。色は焦げ茶色っぽいが少し赤みがあるな。あと、この独特な獣のような臭い......


───ふむ。これは恐らく干し肉だな?


腐ってる様子もないし、固くなりすぎてもない。

祖父の趣味が自給自足の生活だったので、この手の物の善し悪しが少しだけ分かるのだが、ちゃんと食べられそうである。


 しかも、これは絶対に美味いやつだな。

少し炙って食べると、肉の旨みが濃厚に広がる最高のごはんになるに違いない!


「よし、貰っていこう!」


 今この場で火を使うのは危ないから持って帰ろう。

一応竈もあるが、竈の使い方分からないし、何より勝手に使うのはちょっと......


まぁ、ものを盗み......借りに来た分際で何を言ってるんだと思うかもしれないが、外に出て火が使える環境でちゃんと調理して食べよう。私には【ガスコンロ】もあることだし。


 そうだ、調理道具も少し貰っていくか。

調理器具があれば、石をフライパン替わりにしなくても良くなるのだ。これは革命だ......!

だが、荷物になるし、この家を全部調べた帰りに持っていくことしよう。


「えーと、他には......」


 台所を漁り終わった私は、家の探索を再開する。

テーブルの上には赤い花の飾られた陶器の花瓶、その他にあるのは椅子ぐらい。

その奥にある木の棚は食器が入ってるだけだろうし、とりあえず一階は探索し終わったかな。


「あとは……二階だな」


 部屋の右奥にある階段を見る。

木造の綺麗な階段。登りやすそうだ。

目の前まで進んで、少し出っぱった上辺の板に足を乗せた。

きしりと小さく音が鳴ったが、壊れるような様子はない。


「上の階に寝室があればいいのだが……」


私はきしりきしりと鳴らしながら、上の階に登って行ったのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【???視点】


きしり、きしりという音が聞こえる。

寝る前によく聞く、家の階段のなく音。


でも、それは私の足音じゃない。

お母さんでも、おとうさんでもない。


「うぅ......」


 体が震える。

手をぎゅっとにぎった。

きっと悪い人だ。村のみんなを殺していた、あのわるいやつら......


「わ、わたしが、たおさなきゃ......!」


とびらの前でみみをたてるのをやめる。

ここにいるのはわたしだけ......

村のみんなはわるいやつらにやられたんだ......!


怖いと思う気持ちと一緒に、心の締めつけられるような気持ちがあふれてくる。


わたしが......わたしが......たおさなきゃ!


とびらが開くだろう位置につく。


「とびらがあいたら......とびでる......!」


集中した私の目には、もう木のとびらしか見えていない。

悪い人が来るのを緊張しながら待つしかなかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【主人公視点】


 階段を登りきった先、そこには部屋に続くであろうふたつの扉と突き当たりに外が見える窓。

窓からは今も黒煙が上がっているのが見え、少し顔が強ばるのを感じた。


 本当に嫌になる。

この臭いといい、凄惨な状況といい、一体誰が......


おっと、そんなことを考えてる暇はない。

今は衣服だ衣服。


すぐさま考えを切り替えると、階段近くの扉に近づいていく。

それは木製の素朴な作りの扉で、立て札がかけられているのがわかった。


 なんて書いてあるんだろうか?

《ɮɦτꪇ》?えーと、うん?これは......わからんな。読めん。


 立て札を見ると、今まで見た事のない言語がよれよれの字で書かれていた。

いや、もしかしたらこのヨレ具合が特徴の言語なのかもしれないが、私にとってはよれてなくてもよれてても同じである。


どちらも読めないことには変わりない!


 一通り見終わり、木の取っ手に手をかける。

やはりこの時代背景ではドアノブなんてものはないようで、どの扉もジョッキについてる取っ手のようなやつが着いていた。

扉が開いていく。

少々立て付けが悪いのかギィィと音を立てて開く。


───その瞬間だった。


「やぁあぁぁ......っ!」


 私めがけてなにかが突っ込んできたのだ。


「ぐはぁっ......!腹がっ!」


 私の筋肉など無い腹筋にダイレクトアタックをあびせられ、思わず腰を折る。

倒れるまではなかったが、それでも痛いもんは痛い。

少し泣き目になりながら、突っ込んできたものの正体を探る。


「でてけぇ......!わたしのいえから、でてけぇ......!」


 今も顔を私の腹に突っ込みながら、その小さな両腕で交互に殴ってくるその生物。

緑の変態のような歪なものでは無い、しっかりとした四肢。

鳴き声というものでは無い、ちゃんとした言語。

理性の象徴である、布製の衣服。


「君は......!」


 私はさっきとは違う意味で涙目になりながら、感極まって少女を抱き上げる。


「......!?な、なに!?」


 その行動に少女も驚いたようで、声にならない声を上げる。

確かな感情。私にもわかる言葉。


脇に手を入れるようにして抱えた彼女の顔を見る。


 ぱっちりとした目に、丸みを帯びた眉毛。

それも相まってかわいらしい顔立ちをしている。将来美人になること間違いなしだろう。

髪は銀と水色を混ぜたような、綺麗な青空のような色。

そして、頭のてっぺんには髪色と同じ色をした狼耳。


狼耳......?


......まぁ、誤差だな!


「君は......私の言葉が、わかるかい?!」


 自分でも目からぽろぽろと涙がこぼれるのがわかった。

少女はいきなり持ち上げられたことに驚いていた最初とは違い、困惑の表情でこちらを見てくる。


 まぁそれもそうである。

殴りに行った相手に持ち上げられた挙句、その殴りに行った相手がいきなり泣きだしたらそりゃあ困惑する。私だってこうなる。


 しかし、それとこれとは話が別。

ようやく人と話せるのだ。ここで引く訳には行かない。

なんか耳生えてるけどさっきも言った通り誤差だ。話が通じて四肢があったら人間だ!


「え......えっと、その......」


「わかるよね!?」


 少女が反応してくれたことが嬉しくて、思わず食い気味に質問してしまった!

それが怖かったのかビクッと肩を震わせると、下を向いてプルプル震えだしてしまった。


 まずい!怖がらせてしまった!

このままじゃ話してくれなくなるかも......!


......いけない!それはすごくいけない!


昔から子供と話すのは苦手だが、今こそ全力を出す時!

私の人生で培ってきたコミュニケーション能力を総動員してこの事態に当たるのだ!


「こ、怖がらなくてもいいよ〜......私は怖い人じゃないから......!」


「う、うぅ......うぅぅぅ......」


 あ、やばい。泣きそうになってる。

どうしようどうしようどうしようどうしよう!

子供を泣かせるのはまずい!

精神衛生上良くないし世間的にも大変良くない!いや、この世界に世間があるのかはまだ知らないけれども!


 私は、どうすればいいのか分からず慌てふためく事しか出来ない。

しかし時は無常に進んでいくもの。その間も少女の目からは涙がぽろぽろと......


「うぅぅぅ......!」


「あぁ、どうしよう......!えっと、ほら!泣きやめ~なきやめ〜!」


 持ち上げられたまま俯き、顔を赤くして泣く少女。

そして、慌てふためきながら持ちあげた少女を必死にあやす私。


その不思議な時間は、2人が落ち着くまでしばらく続くのだった。



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