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第七十九話『新たなる力』


【ながみ視点】


「吾の得た、この新たな力を、とくと見るがいい……!」


 カゲロウは自らの元へやって来た私の姿を確認すると、待っていたとばかりにそう言って口角を上げにやりと笑った。


その不敵な笑みと共に、剣の切っ先が私に向けられる。


「ははっ……お前、なんか強くなってないか?」


「だから言っているだろう?吾の得た新たな力を見せると……」


 何やら先輩たちの様子がおかしかったので、アキザさんとの話を切り上げて急いできてみたが……


うむ、私が倒れる前のカゲロウよりも圧倒的な、凄まじく研ぎ澄まされた威圧感を感じるな?


……それに、なぜか先輩たちがカゲロウにたじろいでて動かないし。多分何かやられたな?


だが……


「大方【傲慢】を発動させたってところかな。カゲロウ?」


「……ほう。何故それを知っている?それに名前まで……」


「あー、なんでだろうな?」


「あ? 貴様、あまり吾を馬鹿にするなよ……?」


「そんなに睨むなって、キレると禿げるぞ?」


「ッ……!」


───おっと。空気が悪かったから場を和ませようと思ったんだが、どうやらカゲロウ君は怒ってしまったらしい。


ははッ……やはり、髪のない奴に禿げの話をするのはダメだったか!


 怒っているのかぷるぷると震えるカゲロウを、にやにやと見ながら私は続く言葉を告げる。

可哀想だし、ステータスを知っているネタバラシぐらいはしといてやろうじゃないか。


「まぁなに、簡単な話さ。

お前に頭を掴まれてる時に、ちょっとだけ君の(ステータス)を見させてもらったんだ」


「見せてもらっただと?」


「あぁ。私のスキル【探求】は、触れた者のステータスを見ることができるからね」


「そんなスキルが……」


「そうだなぁ。ほんと、君が安易に触ってくれて助かったよ?」


「くっ……貴様はどこまでも気に食わないやつだな"転生者"!」


「それはお互い様だろ?私もお前が嫌いだからなクソトカゲ」


───カゲロウの心を逆撫でするように、言葉で煽っていく。


 こうやればカゲロウは怒りで周囲が見れなくなるのでは、という打算的な考えもあるが……


何より、私はこいつが非常に嫌いである。


私の大切な仲間が暮らしているシーアシラ港町を襲ったこいつが……


私の大切な仲間である、ルフが暮らしていた村を潰したこいつが、とても嫌いである。



──だから、こうやって少しだけ煽るぐらいは、許して欲しい。



「貴様、吾をその名で呼ぶなッ!次に呼んだら貴様を酷い目に……」


「まぁまぁ……話はこの位にして、そろそろやろうじゃないかクソトカゲ」


「ッ!貴様はやはり絶対に……!」


「その誰かに"貸借"された(ごうまん)で、私に見せてくれるんだろう?」


「……!」


 ふむ……動揺したか。

【傲慢】の横に今まで見たことも無い"貸借"という文字があったから、もしやと思って聞いてみたが。


この反応、図星みたいだな?


「お前、誰かに借りた力で『吾の得た新たな力』……なんて言ってたのか?ダサいな!」


「う、煩い!黙れ黙れ黙れッ!これは吾の力だッ!

これは吾が上位種族として魔王に認められた、その証だッ!」


「魔王……?」


 なんだそれ?


あの、中学の時に音楽の授業とかでやるアレか?


馬車で走ってる子供を連れ去ろうとする、あの趣味嗜好がヤバい方向に偏った方か?


『ながみ、魔王聞いてその発想に至るのは君ぐらいだと思うよ……?』


───!?……なんだ今の声!?

マキナっぽい声が、脳内に直接語りかけてきたぞ!?


『あ、そういえばながみに伝え忘れてたね!

これは、今即興で作った私の秘密道具【喋る君一号】だよ!』


───喋る君一号……!?それは一体……


……いや、というか今作ったのを実験もなしに使うのヤバくないかお前!?


そんなことを考えて、思わずマキナの方を振り向く。


「貴様ッ!吾との闘いの最中に、余所見をするなどッ!」


 しかし、そのせいで無視されたと勘違いしたであろうカゲロウに肉薄されてしまった。


そして、構えられた剣が、思い切り私に振り下ろされる……


「あッ、ぶな!」


しかし、直前で、しっかりと手に持っていた槍で受け止めた。

私の腕にずっしりと重い衝撃が走り、少しだけ揺れる。


『おぉー、ナイスガード!』


……お、お前……ぜったいに後で殴るから覚えとけよ……?


 私は脳内に響くマキナの声に軽くイラっとしながら、ドクドクと跳ねる鼓動を落ち着かせる。


 普通の私だったらあの攻撃は守りきれなかったが、マキナがやっているであろう何かしらの援護。

そして、持っていた【蒼霊の槍】が凄まじく軽いおかげで何とか防ぐことができた。


ほんと、【蒼霊の槍】様々である……!


『え?ねぇわたしのバフは?!わたしのバフには感謝しないの?!』


お前のは今までのイライラで相殺だ馬鹿!


『えぇ〜!?【喋る君一号】も作ったのに!?』


「だからその【喋る君一号】はなんなんだよ!?」


その脳内に聞こえてくる声に、思わず声を荒らげた。


「あ……?貴様、気でも狂ったか……?」


「い、いや、何でもないから気にするな!」


───マキナ、お前のせいですごく引かれたんだが……!?


『いや、それはながみのせいでしょ?

……とそんなことより、【喋る君一号】の説明だけど』


「貴様、吾を馬鹿にしているのだろう!ならば死ねッ!」


「だから、さっきのは違うって言ってるだろッ!」


 またも私に向かって駆けてくるカゲロウを、槍で牽制して必死にいなしていく。


 右側から迫り来るカゲロウの剣を、青龍刀のような穂先で弾き横にそらす。

そのまま体勢を崩したカゲロウに向かって、槍をヒュンと回し上段から切り落とし。


「甘いッ!この程度の攻撃ならばッ!」


 しかし、やはりザック先輩たちと戦っていただけの事はある。


 カゲロウは上から落ちてきた刃を見て瞬時に体勢を立て直すと、その切っ先を腕に着けている金属の太いバングルで弾き返した。


『おぉ、こっちもやるね〜』


……マキナ、試合の観戦みたいな感じで脳内で騒がれると集中できないんだが?


『あ〜ごめんね?

戦ったこととか無いからそこら辺考えてなかったわ!』


はぁ……お前はほんとに抜けてるな?


『ごめんごめん!

……じゃあ、わたしも黙ってサポートに集中しようかな! 』


あぁ、そうしてくれると助かるよ……


『はいはーい、頑張ってねながみ!』


 その言葉を言い残し、脳内から声が消える。


どうやらマキナの方も本格的にやってくれるらしい。


 あいつは気分屋だからな……いつも集中のスイッチを入れるのが極端に遅い。

昔一緒に資格の勉強会をやったことがあったが、始まってから5時間ぐらい漫画読んでたからな。


 途中で私が蹴りを入れなければ、あのままずっと読んでただろう。そんな、めんどくさい性格をした奴なのだ。


 しかし……


『固有スキル【研究室(ラボラトリー)】による 権能︰被検体(サブジェクト)の発動を確認……実行します』


───あいつは一度、集中し始めたら凄いのだよ?


 私はその【喋る君一号】だと思われる機械的な声を聴きながら、体の内部が作り替えられているような不思議な感覚に身を震わせる。


「全く、マキナは相変わらず凄いな?」


私はその不思議な感覚で持ってして作り替えられている存在。


 この世界で言う所の"魔力"という存在が活発に動き回り始めているのを感じ取り、思わず感嘆の声をあげた。


 これが魔力か……

今までなんとなくでしか感じられなかったというのに……


───今でははっきりと、血液の様に私の体を循環する"魔力"を感じ取ることができている。


しかも、自らの中でならば、それを意のままに動かせるのだ。


「よっと」


 準備運動がてらに地面に向かって槍を振るうと、当たった地面に綺麗な切れ目が現れた。

単純に【蒼霊の槍】の切れ味が良いというのもあるが、それよりも、私の力が圧倒的に上がったのだ。


───うむ、これが魔力での身体強化か。とても素晴らしい力だ。


 しかし、これは多くの冒険者が度重なる経験を経て、徐々に掴んでいくものなのだろうな。


きっと、ザック先輩やアーネさんなんかも、気がつかずに使っているんだろう。


まぁ、これがいわゆる、Bランク以上の冒険者達とそれ以下の冒険者達の壁ってやつの正体か。


「……?なんだ貴様、その力は……?」


「教えるかよ。クソトカゲ」


 私はたじろいでいるカゲロウに向かって、吐き捨てるようにそう伝えた。


 こいつ、上位種族だとかいってかまけていたのかは知らないが、魔力が流れている感じが全くしない。

随分とまぁ、お気楽な事である。


……しかしそれは、裏を返せばより強くなる可能性があるということだ。


 そのため、もし魔力の使い方を教えて使われでもされたら面倒すぎる。


だから、教えてなんてやるものかよ。


「貴様、また吾のことをその名で呼んだなッ!?」


「ふぅ……」


「おい、聞いているのかッ!」


───それに、思ったより時間がなさそうだからな。


 ちらりと自らの腕を見る。


 そこには、激しく浮き上がり脈動する血液と、ピキピキと痙攣する筋肉の姿があった。

今は思いっきり魔力を循環させた左腕だけですんでいるが、あまりこの状態でいるのは不味い気がするからな。


多分、使いすぎると体が壊れる。


「貴様、吾を馬鹿にし」


「クソトカゲ、次はこっちからいくぞ!」


「いきなり何を、っ───!?」


全身に5割ほど速さで魔力を循環させて、駆け出す。


「───ッ速い!?」


すると、馬鹿にされて怒っていたカゲロウの元へ瞬時に肉薄して、横薙ぎに振るっていた【蒼霊の槍】がその体に直撃する。


私はカゲロウの体に当たった【蒼霊の槍】を、そのまま、深く、深く振り切ると、カゲロウの反対側まで振り抜いた。


「ぐッ……!」


それを受けて、苦悶の表情を浮かべるカゲロウ。

自らの体に刃が入って行くのだ。当然だろう。


しかし……


「……?」


「……お前、吾に攻撃をしたのでは……?」


カゲロウの体には、傷のひとつもついてはいなかった。


私はそれを確認して、にやりと笑い呟く。


「まずは、ひとつ」


「貴様、何を言って?」


 そして、困惑した顔をするカゲロウに素早く走りより、ふたたび【蒼霊の槍】で斬りつけた。


「ッ……」


 先程の攻撃で驚き尻もちを着いていたカゲロウは、攻撃を避けることも出来ずにその身へと刃を吸い込ませる。


しかし、やはり外傷は無い。


「ふたつ」


だが、これでいいのだ。


「くっ、クソッ!!」


カゲロウが剣を振るう。

その剣をなぎ払い、鋭い刃を逸らして首筋に切っ先を当てる。


剣戟の応酬、避けて、打ち合って、切りつけられた傷から血が流れ周囲の空気を満たしていく。


───しかし、それでもカゲロウが切られた傷からは血が流れず、その身体を【蒼霊の槍】の切っ先がすり抜けていくばかりだった。


「───?貴様、さっきから何をして……」


 何度も何度も切られているのにも関わらず、外傷がないことに対して困惑が拭いきれないのだろう。

カゲロウは特に動揺もしていない私に警戒し剣を構えながらも、私にそう問いかけてきた。


……ふむ、当たったのは四回か。



───スキル4つとマイナス20だな。

なら、負ける心配はもう殆ど無くなったし、教えてやってもいいか。


「ステータス」


「……?」


「ステータスを見てみろよ」


「ステータスを……何を言って?」


「だから、自分のステータスを確認してみろって言ってるんだ。理解できないのかクソトカゲ?」


「……あ、いや、分かっている」


───カゲロウは私のイライラしたような言葉を聞いて、ビクリと肩を揺らした。


 その様子は、先程までのカゲロウとは明らかに違うものであり、何か覇気が無くなったというか、少しだけ落ち着いたような印象を受けた。


ふむ……クソトカゲにも反応してないし、これは予想どうり当たりを引いたかもな?


「ステータス……ステータス……」


 とりあえず魔力強化を解除してカゲロウを見守る。


きっと、もう魔力強化は使わなくても大丈夫だからな。ゆっくりさせてもらおう。


カゲロウはそんな私を警戒しながらも、片手で青い板を操作して……


「……は?……なんで、なんで!

なんで、吾のレベルが下がっているんだ!?」


驚愕したような、慌てた顔でそう叫んだ。


「───吾のレベルは、25だったはずだ!

それがなんで5になってるんだ!?おい!何をしたんだ!?」


 そう言って捲し立ててくるカゲロウ。

凄まじく動揺してるっぽいが……


こいつもうひとつの方に気づいてないな。


「まぁ、とりあえずそんなことより、お前スキル確認した方がいいぞ?」


「スキル……?」


 カゲロウは震える手で青い板をスクロールしていく。


あ、やっぱ使い慣れてるなー。

カゲロウ君、現代人だったんだなぁ……


そんなことを考えながら、私はカゲロウの反応を待つ。


だって、私の予想では、あれが消えている筈だからだ。


「……あ、あ、あぁ……!?」


───カゲロウの『新たな力』。


魔王に与えられたという、アウトスキル。


「吾の、吾の【傲慢】が、無い……!?」


「お、予想的中だな。アタリだ」


 そう弱々しく呟いて、がくがくと青い顔をして震えているカゲロウの姿を見ながら、私は軽くにやりと笑った。


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