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第七十八話『傲慢』


【カゲロウ視点】


「───喰らえッ!竜破斬(ドラゴン・スレイブ)ッ!!!」


「ッ……良い一撃持ってんじゃねェかァ、トカゲ野郎!」


 殺すつもりで放った吾の渾身の横薙ぎを、目の前にいるイカれた切れ目の男がナイフ2本で受け止める。


 横から迫る吾の刀剣(ファルシオン)を両手に持ったナイフで挟み込むようにして受け止めているその手は、少しばかりカタカタと震えてはいるが……

当の本人は未だ余裕そうな表情を浮かべ笑顔で吾のことを見つめている。


───人間風情が吾の腕力に対抗するというのか……?


 しかも、吾が振るっているのは、竜人族に伝わる七本の名剣『セブンス・レザール』の一振りなのだぞ?!


それを唯のナイフで受け止めるなど……!


「そんなことが……」


「高等印術【大火燕(ダイカエン)】!」


 吾は下等な人間である男の実力が、吾に届きうるものであることに困惑し思わず口を開く。

しかし、吾のその呟きを遮るように、突如として吾の背後からそんな声が聞こえてきたのだ。


吾はそれを聞いてすぐさま思考を切りかえて、そちらの方向を振り向く。


「なっ……!?」


 吾はそこにあったモノを視認すると、慌てて全力で横に飛んだ。……すると、その数秒もしない後に、大型犬程の大きさをした"火の燕"が吾の隣を掠め暗雲の空へと飛んでいく。


 異常なほどの熱量を持ったそれはどんどんと上昇し、速度減衰する様子もなくその先にある空に浮かぶ黒い雲まで到達する。


そして、赤きその身が触れた部分の黒い雲を円形に散らして、散らした雲間から射し込んだ陽光と混ざるように消えていった。


「あれ……それ避けられるんか。あんさん中々やる様やなぁ?」


 おそらく先の燕を放ったであろう女が、そう言って吾のことを品定めするかのように笑みをこぼした。


 此奴、吾を下に見ているのか……?


それに、吾の戦いに水を差すように、確実に吾の隙を狙ったであろう一撃……


此奴は、相手をすれば確実に面倒になる……!


「女……次に邪魔をするならば殺すぞ!

だが、今ならば見逃してやろうじゃないか……だから、さっさと消えろッ……!」


「はぁ、それはなんとも恐ろしどすなぁ?"蜥蜴風情"に殺されるなんて、わえ怖いわぁ!」


 そう言って、小馬鹿にしたようにくすくすと笑い、目を細めて吾を見つめる女。


───ッ、コイツ……!

偉大なる吾が恩赦をかけてやったというのに、あろう事か、吾のことを下等な人間よりも更に下等な"蜥蜴"等と呼ぶとは……!?


「貴様、ぶち殺してッ……!」


「おぉこわいこわい!ざっくはん、あと任せたでー!」


「しゃァ!首寄越せェッ!」


───クソッ……何奴も此奴も、吾の邪魔ばかり……!


 何故吾はこの様な下等種族達に、いつもいつも足を掴まれなければならないのだ……!


───だいたい、この作戦だってそうだ!


 吾が魔族だというだけであの最低最悪な魔王の手下に目をつけられ無理やり従わされ、そいつから与えられた任務を嫌々ながら着々とこなす日々。


 それが長いこと続いていたかと思えば、人族の有名な鍛冶師である『アイレン・アキザ』という男が目障りだという理由で、(アイレン・アキザ)を殺害することになったと伝えられ、何故かその役目に任命されて配下の竜人族と共にこの地に送られ……


───そして、来て早々に、手始めに周囲の村を潰せという訳の分からない命令をされて、わけもわからず言われるがままに村の住人を虐殺した。


……それなのに、あの白髪『何失敗してるの?全員殺せって言ったじゃん』だと?


 吾は村を潰せとしか言われていないし、それに、家の中に居るガキをひとりやふたり残したところで何になるというんだ!


クソがっ……吾はこの地に連れてくる配下の竜人族を集めるために、もはや空気すら吸いたくないさえ思っていた吾の祖国【魔族領︰イーヴァ=レイファ】まで赴いたというのに……!


それを囮に使い、アイツの言われるがままに、ここまで侵入して(アイレン・アキザ)を殺しに来たというのに……!


その直前で、あの"転生者(おんな)"に止められたんだッ……!


「───くそっ、くそッ、クソがッ!」


───思えば、あいつが来てから全て狂った!


 吾が、作戦通りに(アイレン・アキザ)を追い詰めて、(アイレン・アキザ)の脳天めがけて剣を振り下ろそうとした瞬間。


 あいつが、吾の剣が(アイレン・アキザ)に当たる直前のところでやって来て、ふざけているとしか思えない速度の"布団"で吾に突っ込み剣の軌道を逸らしたのだ……!


───そして、突っ込んだ反動で死んでおけばいいものの、その後すぐに大きな布団の球体を召喚してその中に隠れ、あろう事か吾を引き潰しやがったのだ!


 それに対して吾が怒り、その怒りを任せるようにして思い切り剣を振るえば全て躱され……


 ならばと思い、わざと隙を作りあいつの攻撃を誘い出そうとした吾の陽動作戦でさえも、あいつは吾の考えを読んでいたかのようにお得意の"布団を召喚する"攻撃による絡め手を使い回避した!


吾との力の差を見誤っていたようで、そのあとすぐに倒れはしたが……吾はあいつにしてやられたのだ!



───この、"上位種族"であるはずの、吾がッ!


吾が持つ力の、十分の一にも満たない、"下等種族"の人間如きにッ!


───あぁ、嗚呼……今でも頭に響くッ……!


 あの女が、命の灯火すら見えなくなるような死に体で、吾に言ったあの言葉……!


『おまえは、ほんと、くそとかげだ』


───それがたとえ、最後の虚栄だとしても……


 それが、(アイレン・アキザ)を助ける為の、時間稼ぎだったとしても……


───吾には、その言葉が、我慢ならなかった!


下等種族の、死に体の、吾に到底力の及ばないような、その女が……


同じ"転生者"であるにも関わらず、人間の身であるその女が、吾に"蜥蜴"と言ったのだ……!


「はァッ!死ねェぇぇえ!」


「ッ……!」


───そして、そしてだッ!


吾がやっと、"転生者(あいつ)"を殺すことが出来るとなった時……


───魔王の手下の白髪が現れる時のように、本当に突然、何処からか金髪白衣の女が現れた!


 加えて、それに続くように、目の前のイカれた切れ目の男、性格の悪そうな笑みの女、こちら世界にいる貴族のような見た目の女等……次々とあいつの元へと集まって来た!


それは、ピンチに陥った仲間を助けるために駆けつけてきた、硬い友情で結ばれている仲間達の様な、日本にいた頃に見た物語のような……


ーーーこの世界で、吾が必死に望んだ、それの様な


「───いや、違うッ!吾は、吾は……!」


───吾は、"上位種族"だ!


下等種族と群れなくとも、強いのだッ!


吾は、祖国の【竜騎士団(レザール・ナイツ)】から抜けた時に、決めて……


決めて……



……何を、決めたんだ?



吾は……抜けて……何故抜けて……?




「ぐぅッ!……いや、吾は、吾は」




吾は騎士団の仲間たちに、売られて……いや、推薦……?




その時に、魔王に会って……何か……




何か……




「あぁ 。




……そうだ。思い出した」





吾は、仲間たちから、魔王に推薦されたあの日。





 魔王に、"傲慢(あるがまま)"に生きると、決められたのだ。





───吾は無意識の内に使わないようにしていた、【傲慢】のスキルを発動する。


「な、なんだァ……?」


「あれ……?何か、変な感じするで……?」


 すると、吾と戦っていた、イカれた切れ目の男と性格の悪い女が、一歩、後退りした。


その表情は、吾との間に明らかな"劣等感"を感じているとわかるものであり……



───大変、愉快だった。



「待たせたな、クソトカゲ」



 そして、吾は対峙するように目の前にやって来た、吾の事を煽るようにそう宣う女の方へと視線を向ける。


長い黒髪に、この世界では珍しい黒目。


顔立ちこそ綺麗に整ってはいるが、その口調は荒々しく。


……ひと目でわかる、吾と同郷の空気感。



「ようやく来たか、下等な人の身に宿る"転生者"?」


「あぁ。散々やってくれたお返しを、お前にしてないなと思ってな」


「そうかそうか、それは良かった!

ならば、もう一度やってやろうじゃないか!


吾の得た、この新たな力を、とくと見るがいい……!」


───そう言って、吾は元同郷に剣を向け、にやりと口元を歪ませるのだった。


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