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第五十七話『シーアシラ衛兵団』


「リギド……リギド!?」


 トレントさんはヌルに包まれているボロボロのリギドさんに、慌てた様子で駆け寄る。

そして、リギドさんの肩をぐらぐらと揺らして声を荒らげた。


「お前、Aランク冒険者だってのに……!

なんで……こんな……こんな……!」


トレントさん、リギドさんと仲が良かったんだろうな……


 私もリギドさんとトレントさんが2人で居るところは街でよく見掛けていたし、彼らはよく軽口を言い合っていた。


 冒険者ギルドの酒場で殴りあってるのを見たことがあるし、街中で喧嘩している所もよく目撃されている。

それに、リギドさんから昔パーティーを組んでいたという話を酒場でされたこともあった。


きっと腐れ縁というやつなのだろう。二人は昔からの仲なのだ。


「リギト、お前……!」


───だから……トレントさんはリギドさんが強いということを、一番わかっている人だと思う。


 そしてそんなリギドさんが、こんなにもボロボロで帰ってきた現状、悲しみは半端じゃなく大きいんじゃないだろうか……?


 私はそんなことを考えて、下を向きぷるぷると震えるトレントさんが居た堪れなくなり声をかけようとする。


「あの、トレントさ」


「こんな……こんなにボロボロとかだっせぇぇぇえええ!

だぁッはっはははははっっっっ!」


 しかし声をかけようとした瞬間に、トレントさんはボロボロのリギドさんを指さしながら辛抱できないといった様子で吹き出して大笑いし始める。


……ゑ?何この人……?


心配どころか、ボロボロになってる姿を見て指さして笑い始めたんだけど?ていうか、なんなら煽り散らかしてるし……


いや、なにが『だから……トレントさんはリギドさんが強いということを、一番わかっている人だと思う』だよ私……恥ずかしいわ……!


 こんな奴に対して抱いてしまった、私の居た堪れない気持ちを返して欲しいんだが……?


だがそんな困惑状態の私をよそに、トレントさんの煽りは続く。


「おま、おまえこの関所通る時言ってたよなぁ!?」


「……」


「カッコつけながら拳を空に突き上げて……

『俺はAランク冒険者だぜ?すぐ帰ってくるさ!』って!」


「……」


「それが!ボロボロにされた上に!後輩ちゃんに助けられるとかwwwwww」


「……」


「マジだっせえぇぇぇぇぇぇぇえwwwwww「うるせぇぇぇえッ!」ゴぶっッッッ!」


 寝ているリギドさんの肩をばんばんと叩いて爆笑していたトレントさんは、突如として目を覚ましたリギドさんの拳を食らって門の方へ飛んでいく。


 相当な力で殴られたのか、地面を数回バウンドした後門の外壁にぶち当たってずるずると下に落ちていく。


「くそ、が……やっぱ生きてんじゃねぇか……(ガクリ)」


そして、それだけを呟くと、口から泡を吐いてガクリと気絶した。


「このクソ野郎が……」


 リギドさんはそんなトレントさんの様子を見て、軽く腕を回しながらドスの効いた声でそう呟く。


 どうやら、リギドさんとトレントさんは仲がいいわけではなかったらしいな……?どっちも本気で煽ってたし殴ってたし……


……ま、まぁ、でも!

気絶前のトレントさんの口ぶりから察するに、リギドさんが強くてこんな事じゃ死なないって分かってたっぽいし!


───つまり、私の想定どうりってことだな……!?


そんなことを頭で考えながら、トレントさんの死体(気絶)を門の隣に立てかける。

そんな様子を見ながら、リギドさんがふぅと肩を回し溜飲を収めていた。


「リギド殿、そんなに動いて大丈夫ですか?」


「あぁ、ある程度寝かせてもらったからな。

なぜかこの短時間で傷も治ってきてるし……体動かすぐらいはわけねぇよ」


 シンの心配そうな問いかけに、軽く手をあげて答えるリギドさん。

短時間で傷が治ってきているのはふとんスキル【回復】のお陰だろうが、それにしても治りが早いな……


 私が組み手の後に使用した時なんかは一晩寝ないと治らないことがざらだったし、おそらくリギドさんは元々の治癒力が高いんじゃなかろうか?


「しかし、後輩に助けられて生存……か。

あいつに言われた通り、Aランク冒険者として情けねぇな……」


「いやいや、流石に200以上の魔物相手に一人は無理ですよ……

むしろ生き残ったことがすごいことだと思いますよリギドさん」


 少しだけ落ち込んでいるリギドさんに、私はそう声をかける。

元々Cランクだったヴォレオさんと同等の相手が、200以上居たのだ。そんなものに一人で勝てるはずがない。


「そうか……だが、ここまで連れてきてくれて助かったよ。

お礼を言わせてくれ」


 そう言って、深く頭を下げるリギドさんを慌てて手で制す。


「私も前に助けられてますし、大丈夫ですから……!」


「そうか……ありがとう」


 そこまで言ってようやく頭をあげるリギドさんに、私はほっと胸を撫で下ろす。ようやく引いてくれたか……


 リギドさんにはこの街へ来た時に、街の案内などで散々お世話になっているのでな。

そんな恩人に軽々しく頭を下げさせる訳にはいかないのだよ!


そんなことを考えて、私がリギドさんの肩を持っている中。


「───ふむ。

通信が来ないと思ってきてみれば……リギドお前か」


 非常事態用にか締め切っていた門の方から、凛とした女性の声が聞こえてくる。

思わず、私はそちらへと目を向けた。


「私の部下を会う度にこんな風にされてしまうと、此方としても少々困るのだが?」


───少しクセのある肩下ぐらいの赤髪に、赤い瞳の三白眼。


 私より一回り高い身長で、赤と灰色を基調とした厚手の服を着ているその女性は、黒いブーツをかつかつとうち鳴らしこちらに歩いてくる。


「『灰の魔女』か……久しぶりだな?」


 彼女はそのリギドさんの声を聞きながら、門下で気絶していたトレントさんを軽々と担ぎあげる。

持ち上げられたトレントさんは、ぐっ……と口から声を洩らしたあと、また動かなくなった。


 トレントさんいま鉄鎧着てるのに、それを苦もなく持ち上げるとは……驚いたな。


「その呼び名は辞めろと言っているだろう。非常に不快だ」


「別にいいじゃねぇか……カッコイイと思うぞ?」


「はァ……これだから馬鹿は嫌いなんだ」


 軽い口調で話しかけながら肩を組みに来たリギドさんの手を鬱陶しそうに払いのけ、苦々しい表情でそう呟く女性。

その様子から、リギドさんとはあまり喋りたくないらしいことがありありと読み取れる。


……リギドさん衛兵に嫌われすぎじゃないか?


「しかし、お前相当派手にやられたな?」


「ちょっと緊急依頼でしくじってな……魔物にボコボコにされて死にかけたんだが、そこをこいつに助けられたんだよ」


 リギドさんにいきなり指をさされて、慌てて頭を下げる。


 くそう……こんなところで話を振られるとは……!

もし私が小心者だと知っててやってるならば、リギドさん絶許案件だ……!


「……ふむ。長い黒髪に、綺麗な黒目……」


 リギドさんと話していた女性は、その鋭い目を私に向けてぶつぶつと何かを呟く。


───うわぁ……めっちゃ見てる……こっちめっちゃ見てる……!

なんだろう、何か気に触るようなことでもしたのだろうか?!

もしかして殺されるのだろうか……!?


「お嬢さん名前は?」


 内心びくびくとしながらそんなことを考えていると、女性は私に向かってそう問いかけてくる。

なんだ……名前か……殺されなくてよかった……


「Dランク冒険者の永巳(ながみ) 叶夢(かなむ)といいます。よろしくお願いします」


 私はもう一度軽く礼をしながら、見つめてくる彼女に自分の名前を答えた。

すると、彼女は私の名前を聞いた瞬間にひとつ大きく頷く。


「───ほう、君がナガミか……!

ルーチェ・ゼーヴィント様から話は聞いているよ」


「ルーチェさんから?」


「あぁ。此の前、久方ぶりに会した際にそれはもう嬉しそうに話していてね……それで知っているんだ」


「へぇ、そうなんですね!……えっと」


 思わぬ所で馴染みの名前が出てきたことに驚き、嬉しくなって話を続けるが……しかし、わたしは彼女の名前が分からないことに気づいて思わず口ごもる。


「おっと、すまない。そういえば申し遅れていたね。

(おの)れはサンドル・ヴァッハフォイア……シーアシラ衛兵団の隊長をやっている者だ」


 だが、そんな私を見てサンドルさんはそう言うと、口元に小さく笑みを作って手を差し出してきた。


私の表情をしっかりと読み取って自己紹介を始めるとは……


さてはこの人……気の使えるいい人だな?


そんなことを考えながら、差し出された手を握る。

───すると、サンドルさんは少し嬉しそうに口を開いた。


「挨拶を受け取ってくれて有難う。

君とは是非話したいと思っていてね。相見える機会をずっと伺っていたんだ」


 最初の粗暴そうな雰囲気の割に随分丁寧な口調である。

衛兵の隊長ということだったし、もしかしたら高貴な身分の方なのかもしれないな。


だが、話がしたい……か。


「これはどうもご丁寧に……しかし、申し訳ありません。

今は、急いでギルドの方へと行かなければならない用事があるので……」


 サンドルさんには申し訳ないが……

ギルドで待っているであろうルフのことが心配だし、ボロボロのリギドさんを早く送り届けなければ行けないのだよ……


 というわけで、私は少し声のトーンを落としながらサンドルさんのお誘いを断った。


「そうか、それならば引き止めてしまい悪い事をした。

すぐに関所の小門を開けてあげよう……着いてきてくれ」


 すると、サンドルさんは少しだけ残念そうな顔をして頭を下げる。


 良かった……断ったら嫌がられてしまうかもと思ったが、どうやらここは引いてくれるらしい。

それに、関所横にある馬車用の小さな門も開けてくれるようだ。


すごく礼儀正しい人だなぁ……身の振る舞いが、まさに衛兵と言った感じだ。

……こんな人に嫌われるなんて、リギドさん何したんだろう?


「さぁ、どうぞ……もう、夜も更けているからお気をつけて」


「すみません、ありがとうございます!」


 にこりと笑って見送ってくれるサンドルさんに改めてお礼を言う。リギドさんとは終始仲が悪そうだったが、私に対しては全くもって紳士極まりなかった。


 今回は急がないといけないので話せなかったが、また今度会う機会があったらゆっくりと話してみたいな?


 私はそんなことを思いながら、話が終わるのを待ってくれていた他のみんなと共に、停めていたふとんに乗ってギルドへと走り出した。


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