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第四十七話『特訓の成果』


【ルフ視点】


 わたしめがけて飛んでくるナイフを、間一髪のところでよける。もうすこし反応が遅れてたらあぶなかった。


わたしはよろけた体勢をすぐにたてなおして、そのまま中庭の地面につき刺さったナイフをとり目の前のザックに投げかえす。


「ッ……アブねェッ!」


「おしい」


 わたしの投げたナイフはザックの頭めがけてまっすぐ飛んで行ってたけど、あたる直前でザックに気がつかれて弾かれてしまった。

はじめてあたると思ったのに、残念だ。


「いい動きじゃねェかルフ!」


「あたらなかった」


「はっ!オレに攻撃当てられるやつなんてそうそういねェよォ!」


 ザックはそう言って楽しそうに笑う。

何か面白いことでもあったんだろうか?


「ざっく、こうげきする。かまえて?」


「おう、こいやァ!全部避けてやるぜェ!?」


「わかった」


 ザックがうれしい時は、いちばんゆだんしてるとき。

だったら、いましかない。


わたしはザックにこうげきの宣言をして、ぐっとあしに力を集める。


あついのが、真ん中からあしへ行くのがわかる。


あついのが、あしをまわってうずうずする。



……できた。



 ぎゅっとからだを屈めて、いちばん跳ねられる位置についた。

わたしのあしが地面についている。今がいちばん、跳べる。


こころを落ちつかせるように、息を吸い込んだ。


そして、地面を思いっきり、蹴るッ!


「はぁッ……!」


───その瞬間、わたしのからだは空に舞う。


わたしの身長よりもたかく、ザックめがけて一直線に飛び出す。


わたしの〘気力纏い〙は力を集める!

このスキルがあれば、わたしはいちばんはやくうごける!


「やぁぁぁあっ!」


 ザックの頭の位置までからだがきた。

わたしは、そこで思いっきりあしを振り抜いた。


ザックの頭の横めがけて思いっきり。


「うぉッ!」


 ザックは、いつのまにか近づいてきていたわたしのあしに反応できず、とっさにうでをあげてわたしのあしを受けとめた。


わたしはそのうでにあしをあてると、そのいきおいをつかってザックから跳ぶように離れた。


「あ、あぶねェ……」


 ザックは手をぐーぱーしながら、今起こったのが信じられないみたいに目を丸くしておどろいている。


わたしはそんなザックにむかって、口をひらいた。


「ざっく、よけれてない。わたしのかち」


 その言葉を聞いて、ぽかんとしながらわたしを見つめるザックを横目に、わたしは木のかげにすわって用意しておいた水をのむ。


うん。おいしい。


そうやってゆっくりからだを休めながら、みんなの組み手をながめる。

みんな、わりと苦戦しているようだ。


 とくに、ながみはあいかわらずアーネさんに一撃も与えられずぼこぼこにされてる。

なにかしてあげたいけれど、わたしにできることは無い。

こうしてこころの中で応援することぐらいだ。


───ちなみにわたしとシンがザックと組み手で、ながみとアーレとヌルがアーネさんと組み手をしてる。組み手がおわったら、つぎの人と交代。

今、わたしがザックとの組み手をおえたから、シンとザックが組み手している。なぜかいつもよりザックの攻撃が激しいように見えるけど、気のせいかな。


 この組み手のながれを毎日、走るのとおべんきょうの後にできる限りやっている。

何回も何回も、体力がつきるまでずっと。


そして今日は、ザックのとっくん五日目の組み手。


「……うん。つよくなってる」


 かげでゆっくりしながら、わたしはちからを手に込める。

すると、いままではあまりわかってなかった"ちからのながれ"を感じることができた。

これは、むかしからからだのなかにあったけど、あるだけでしっかりと動かすなんてできなかったのだ。


せいぜい、みみを良くするぐらい。


……でも今日、ようやく感覚がつかめた。


ながれるように、血のようにからだの中をまわらせる。


それを、ひとつのところにあつめる。


昨日までは、できなかったのだ。


わたしはかおをしたに向けて、ぐっと手を握りしめた。


「できた……!」


四日目までは、ひとつもこうげきがあたらなかった。


でも……


ザックとの、組み手五日目。





……今日、わたしははじめて、ザックにこうげきをあてた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【ながみ視点】


「ふっ!はっ!……よっと!」


───避けて避けてまた避けてっ!


 色んな方向から飛んでくる水球、土球、火球、そして風球を全力で体を動かして躱す。

最初の頃はどうやっても避けられずに、土と水と火と風でぐちゃぐちゃにされていたのだが……

今はこのぐらいなら何とか避けられるようになった。


「さぁ、まだまだいきますぇ!」


「くっ……!」


 しかし、なんの予備動作もなしに際限なく空中に生み出されるそれらを回避するのは、容易ではない。

 このまま避け続けていても、私の体力が尽きてぐちゃぐちゃにされるか、どこかで魔法を見落としてぐちゃぐちゃにされるかのどっちかである。


 なので、一刻も早く攻撃を止めるため、それらを生み出しているアーネさんに攻撃を加えようと試みるが……


「ッ!?ぐはぁっ……!」


───【布団弾】を発動しようとして手を翳し、立ち止まった背後から空気の塊が私を襲った。


 くそっ……また風球にやられた!

水や火や土ならばちらっと見ることで確認できるのだが、風球だけは目を凝らしてしっかり見なければ避けられないのだ。


「ふふふ……背後は気をつけへんとあきまへんよぉ?」


 アーネさんはそう言って笑うとまた魔法を発動する。

手で印のようなものを切って、一言二言呟いただけで空中に無数の球体が出現し動き始めた。


「それ本当にどうなってるんですか?!」


「魔法の同時発動はわえの得意技やぁ~」


 その非常識な光景に思わず愚痴を叫ぶが、ころころと笑っていなされる。

そして、その言葉に続くように襲いかかってくる無数の球体たち。


「くっそぉッ……!」


───避けて避けてまた避けて……!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「今日の特訓はこれで終了だァ!」


 空が橙色に染まり暫くの時間が経った頃。

シンとの組み手を終えたザック先輩が、ぶっ倒れている私たちに向かってそう声をあげた。


「つかれたぁ~!」


 私と交代する形でアーネさんと組み手していたヌルが、ベタ〜と地面に倒れ込む。

体から完全に力が抜けたように地面に倒れているその姿は、固まりかけのゼラチンみたいだ。


 しかし、体に外傷がある訳では無い。

なぜならヌルはアーネさんの魔法を避けるのではなく操って逸らしているからだ。


そのため身体的な疲労はあまりないらしいが、逆に精神的な疲労というものが溜まっていくらしい。


 どんな感覚なのかと思ってヌルに聞いたことがあったが、ぐらぐら揺れる板の上で玉乗りしながら木の棒で何個も皿を回すぐらいの緊張感と言っていた。

……よく分からないが、とりあえず難しいということだろう。


「ヌル、ほら水だ。飲め」


「おぉ~、ながみありがと〜!」


「いやいや、困った時はお互い様だよ」


 私もヌルにはお世話になっているからな……

とくに、特訓後のクールダウン時にぎゅっと抱きつくとひんやりしていて気持ちいいのだ。

ぷにぷに柔らかくて、ゆったりと休憩できるし……


もう、ヌルなしでは生きていけないかもしれない。


 そんなことを考えながら、ごくごくと美味しそうに水を飲むヌルを眺める。

まぁとてつもなくぐったりしている。相当疲れたのだろうなぁ……


「おい、ヌル!そんなところに寝てないで帰るぞ!」


 そんな私たちのところに、アーレ君がやってきた。

先程まで木陰でダウンしていたが、ようやく体力が戻ってきたようだ。

シンに小脇に抱えられるぐらいには……


「お疲れ様ですながみ殿!」


「お疲れシン、アーレ君。明日も宜しく」


「ふん!せいぜいゆっくり休むことだな!」


「ありがとう。ゆっくり休むよ」


 シンに片腕で抱えられながら、私にそう言ってくるアーレ君。

罵声を言うような声色ではあるが、内容としてはしっかりと私のことを心配してくれている。

やはりツンデレである。


「じゃあ、ヌルを回収していきますね!」


 シンは地面に倒れているヌルを余った片腕で抱える。

そして、片方の脇にはアーレ君、もう片方にはヌルを装着した状態でギルドの外へ歩き出した。


「じゃあねーながみ~!またあした〜!」


シンの脇の間から手を振るヌルに、手を振りかえした。


 ヌルは別に身体的疲労はないので抱えられなくても歩けるのだが、抱えられるのが楽しいらしい。

だから、特訓が終わったあといつもああやって抱えてもらうのだ。


まぁでも、シンはそんな二人に頼られるのが嬉しいらしいのでwin-winの関係……なのだろうか?


「ながみちゃん、ちょいとおはなしいいどすか?」


 そうやって私が三人の姿を見送っていると、特訓が終わったあとすぐにザック先輩と話していたアーネさんが後ろから声をかけてきた。


「あ、アーネさんお疲れ様です」


「お疲れ様どした、達者なことでよろしおすなぁ」


 後ろを振り向きアーネさんに挨拶をする。

アーネさんは汗をかいたのか、ローブを脱いだ丈の短い浴衣の姿でこちらに笑いかけた。


凄まじいな……とくにふとももの辺りとか胸元とか……


「ふふ……そないに見られたら恥ずかしなぁ……?

気になるなら触ってみるぅ?ながみちゃん?」


「アーネさん、お話ってなんですか?」


 ぎゅっと胸をよせて誘惑してくるアーネさんを完全にスルーして、私は無表情でそう問いかけた。


残念だったな……私はその物体に興味はない。

むしろ怨嗟の念を抱えているくらいだ。ちぎりたい。


「なんやぁ面白ない。ちょいとぐらい騙されてもええやないのぉ……」


 非常に残念そうな表情で、つまらなそうに呟いたアーネさん。

騙すと言っていることから、どうやら私が触ったら何かをする予定だったようだ。

この鬼畜ドS野郎め……


「はぁ……話はそれだけですか?

なら私は部屋で休むんで、もう行っていいですか?」


「あぁ、まってまって!まだ用事あるからぁ……!」


 私は鬼畜ドS女王様の行動に呆れはて、その言葉を吐きながらギルドの方へ歩き出そうとする。

しかし、鬼畜ドS女王様は私の腕に縋り着いて私の歩みを止めた。


「なんですか?SMプレイならお断りですよ?」


「ちゃうからぁ……いや、まぁやりたいけど、今回はちゃうからぁ!」


やりたいのかよ……つくづく危ない人だな。


そんなことを思いながら、私は一応アーネさんに用事を聞いてみることにした。


「じゃあ、なんですか?」


「ふっふっふ……それはなぁ?」


 にやりと笑いながら、引きずられるように抱きついていた体勢をたてなおして私の目の前に来る。

良かった、ようやく私の心を黒く染めようとしていた二つの双丘が離れていった。


そうやってほっとして息を吐いた私に向かって、アーネさんはぐっと駆け寄り口を開く。


「ながみちゃん、わえと一緒にお出かけしよ?」


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