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第四十話『護衛依頼の後日談』


 ダーレスの野望を打ち砕き、ルーチェさんの命を護りきった翌日。私はルーチェさんに呼び出されて、豪華絢爛なお屋敷の立ち並ぶ区画に足を運んだ。


「すごいおやしきがたくさん……!」


「こらこらルフ。あまり走り回るんじゃないぞー」


 冒険者ギルドのある繁華街の様子とは一変して人の通りはまばらとなり、冒険者の騒ぐ声やお店の呼び込みなんてものもない街並み。


 その様子が不思議なのか、キョロキョロと辺りを見渡したりお屋敷に近寄ったりするルフ。

町に来てからあまりギルドの外に出なかったため、こういう風景は新鮮なようだ。


それにしても……


「ルフ、今回は依頼の正式な報告だけだから私も危険じゃないし、あんまり楽しくないかもしれないぞ?」


「やだ。なぎゃみはしにかけるからやだ」


「いや、死なない」


「それに、じゅうじにかえってこない」


「……」


そう言って、ムスッとした顔でそっぽを向く。


今日起きてから、ずっとこんな調子だ。


いや、10時に帰ってくるって確かに話した。それで、帰って来れなかったのは私が悪いけど……


それにしたって根に持ちすぎである。ネチネチである。


「確かに強情だなぁ……」


 私は昨日、ルーチェさんから言われたことを思い出し、ルフに聞こえないよう呟いた。


「ごうじょうで、わるかったね……!」


 しかし、蚊の鳴くような小さい声ですらルフは聞き取ったようで、私は射殺すような目を向けられてしまった。くっ……この娘、耳が良すぎる……!


「あ、ルフ着いたぞぉ!ここがルーチェさんのお屋敷だァ!」


 その射殺すような視線を誤魔化すように、丁度目の前に現れたルーチェさんのお屋敷へ急いで入っていく。


ルフはそんな私に何も言わず、後を着いてくるのだった。


「……」


呆れたような、じとっとした目を向けながらだったが……


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「案内ありがとう!」


「いえいえ、お仕事ですから」


 屋敷内に入ると、作戦会議に使ったいつもの応接室前へと通された。

私は案内してくれた執事さんにお礼を言うと、執事さんを物珍しそうに見ているルフの手を引いて部屋へと入っていく。


するとそこには、最初に来た時とおなじ光景が広がっていた。


「ぷるぷるの~♪︎す~うぃ~いつ~♪︎」


「おい、ヌル!それは我のだッ!返せといっているだろ!」


「2人とも、落ち着いて!私のあげますから!」


「わーい!やったぁ!すいーつが2つ〜♡」


 あ、これは見たことあるやつだ。

喜んでいるヌルに向かって、アーレ君が叫ぶ。

その光景とその板挟みにあっている可哀想なプリン(仮)に凄まじい既視感を感じる私。


「ひとつは我のだッ!返せぇ!」


「やだぁ!もうボクのだもん!」


「2人とも、もうすぐルーチェ様が来ますから……っやめなさいっ……あっ!」


「あっ!」「あぁ~!」


 言い争っている二人を止めようとして、シンが腕を引っ張る。


 すると二人の手にあったお菓子は、突如としてばっと宙を舞う。止めようとしたシンが二人を引っ張ったことで二人が倒れ込み、皿からフライアウェイしたのだ。


───皿の上に乗っていたプリンのようなそれは、可哀想にプルプルと震えながら飛んでいく。


争いの結果生まれてしまった悲しい結末。


争いの結果生まれてしまった尊い犠牲。


そのプリンのようなものは、原型も無くぐちゃぐちゃに崩れ去……




らなかった。


 私目掛けて一直線に飛んできていたプリンは、ばっと飛び上がったある者によって食べられたからだ。


ある者は、華麗な身のこなしでシュタッと綺麗に着地してキメ顔をきめると……


「なぎゃみはわたしがまもる」


口の中にあるプリンをもぐもぐと食しながら、そんなことを宣ったのだった。


「「「おぉー……!」」」


 ある者……ルフのその決めゼリフを聞いた皆から、自然と拍手が送られる。喝采である。


「おいしい」


 ルフはその様子とプリンの味に満足そうにそう呟くと、私の隣に戻って行った。

ルフはなんというか……頭いいけど、やっぱり不思議ちゃんなところがあるなぁ……今回は服汚れなくて助かったけども。


「お早うございます、ながみ殿、いらしていたんですね!」


 隣にいるルフの頭を撫でていると、先程まで手を叩いていたシンから声がかかる。

どうやら私のことを心配してくれていたようで、だっと私に駆け寄って手を握り、ぶんぶんと振り回した。


「ご無事そうで何よりです!」


「わかった!嬉しいのはわかったからやめてくれ!」


 その言葉を聞くと、すみません!と言って一歩引くシン。

そして以前のやったように、私の隣で片膝をついて床に座るのだった。


こいつもルフとは違うベクトルで相当な不思議ちゃんだ……


 しかし……臀部から出ている小さなしっぽがプルプルと横に揺れているが、嬉しいと揺れる的な犬みたいなシステムなのだろうか……?


「ながみ~!なにその子、かわいいね~!触らせて〜!」


 そんなシンとは打って変わって、私のことなど一切気にせずにルフに駆け寄ったのは、ぷるぷるボディが特徴のヌルである。


「ぬるぬるする」


「そう!ボクはヌルっていうんだ~。よろしくね〜?」


「よろしく」


 いつもと変わらずのマイペースっぷりを遺憾無く発揮し、ルフに抱きついて話し続けていた。

三人目の不思議ちゃんである。


だが、ルフもマイペースであるためか、意外と仲良くなっているのは気のせいだろうか……?


「と、最後は……アーレ君、昨日ぶりだな!」


私は部屋の隅にあるいつもの席で座っているアーレ君に話しかける。


「ふんっ……生きていたか、ながみ……良かったな?」


 アーレ君は私の声を聞くと、至って真面目な顔でふっと笑いそう言った。

うむ。いつも通り冷静である……が!


───私は知っている!


アーレ君が残っていたシンのプリンをこっそりと食べ幸せそうに微笑んでいたことを……


「アーレ君も元気そうでなによりだよ。……じゃあ、ちょっとヌルたちの方に戻ってヌル止めてくるねー」


 私はそう言うと、アーレ君が背中に隠しているプリンに気付かないふりをして立ち去った。


「お、おぉ。そうか……!じゃあ、そうするといい!」


 またプリンが食べられるからか、嬉しそうなアーレ君の声を聞きながら向こうに行く。

ふふふ……やはりツンデレというかなんというか……!


 私が離れた途端、また幸せそうな笑顔でプリンを食べ始めたアーレ君の姿を観察しながら私は微笑む。


こいつらがいつも通りのようで良かった……!


そんなことを思いながら、私は椅子に座りルーチェさんを待つのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 アーレ君が持っていたプリンを食べ終えた頃。

わちゃわちゃと騒がしい応接室の扉がガチャリと開かれルーチェさんが入ってきた。


「皆様、昨日の今日でお集まりいただきまして、ありがとうございますわ!」


 ルーチェさんはそう言って深く礼をすると、私たちが座っている席の対面に腰掛けた。

その動作ひとつとっても映える辺り、相変わらず所作が素晴らしいな。


「るーちぇ、おはよう」


「おはようございますわルフちゃん!やっぱり着いてきたのですね?」


「とうぜん」


 私にベッタリな様子のルフを見て、くすりと笑うルーチェさん。

しかし、何かを思い出したようにこほんと一息つくと、私たちに向かって口を開いた。


「えっと、今回皆様にご集まりいただいた理由は、正式な依頼達成の報告とそれに伴っての依頼料の支払いについてのお話ですわ!」


「依頼料……」


そういえば、依頼料なんてものがあったな……

確か、月給3万ゴルドだったか。


……ん?待てよ?

ということは、一日で解決したから、一日分の給与……?


「依頼書に書きました通り、依頼は月に3万ゴルド……つまり、一日分の1000ゴルド……」


1000……ゴルド……!


 屋台で売ってる焼いた肉の串のような軽い軽食が、一本500ゴルド……と、考えると、1日すら持たない値段だと……!?


くっ……!

定職を失った挙句、そんな私の退職後に貰った給与のようなお金しか貰えないというのか……!


私は絶望の表情で、虚空を見上げた。


「……と、本来はなるのですが今回は事情が事情ですし、何より根本的な依頼内容すらも解決したその功績を称えまして、ささやかながらわたくしから色をつけさせていただきましたわ!」


───神だ……!神がいる!

私は絶望から一転、希望に満ち溢れたキラキラとした目をルーチェさんに向けた。


「ふふ……というわけで、皆様これをどうぞ」


 少し笑って皮袋ようなものを人数分取り出したルーチェさん。

それを付き添いの執事さんが私たちの元へ持ってきてくれた。


「どうぞ」


「あ、ありがとうございます……!」


 私はしっかりと仕事をこなした上での人生初と言ってもいい給料に、ドキドキしながらそれを受け取った。


 その皮袋は、はたから見たら薄っぺらくてあまり入ってないように見えるのだが、手に持つとずっしりと重い感触が伝わる。

我慢できずにちらっと中を見てみると、十枚ほどの金貨が入っていた。


「そもそも本来、私を守り抜くことが出来たら日数関係なく3万ゴルドは渡そうと思っていたのです。


───ですが皆様、今回はそれ以上の働きをしていただきましたので、感謝の意味も込めて一人金貨10枚、一人10万ゴルドを用意させて頂きましたわ!」


「じゅ、10万ゴルドですか!?それって半月は暮らせるじゃないですか!」


シンが驚いたように声を出した。

10万ゴルドで半年暮らせるのか……!じゃあ、これって相当な報酬なのでは……?!


「えぇ、皆様はそれ程の働きをして見せたのですわ!

というか、本来ならもっと沢山あげる予定でしたの……ですが、壊してしまった街の修繕費や皆様の治癒魔法代なんかもありましたので、それらを差し引かせていただいた上での、10万ゴルドとなっておりますのよ?」


 そう言って、申し訳なさそうな顔をするルーチェさん。

どうやらルーチェさんは、これだけでは少ないと思っているらしい。


「いや、これだけ貰えたら十分だルーチェさん!ありがとう!」


「そうですか?

ながみ様が喜んでくださるならば、いいのですが……」


「うん、十分嬉しいよ!これでルフにも色々してやれるし!」


私はそう言ってニコッと笑った。


「なら良かったです!……では、次は依頼の達成報告を」


ルーチェさんは私に笑い返すと、次の話題に移る。


「皆様、今回は本当にありがとうございました。


わたくしがこうして生きていられるのも、皆様がわたくしのために働いてくれたことによるものです。

ダーレスの捕獲、セラヒムからの防衛、ローブ達を一網打尽にしたその実力……どれをとっても素晴らしいものでしたわ!


もしかしたら、各々悔いていることもあるかもしれません。


ですが、それでもわたくしが生きていることと、事件が丸く解決した事実には変わりありませんの。


……よって今回の護衛依頼、評価Sとさせていただきますわ!」


「「「Sランク!?」」」


 シン達が口を揃えてそう叫んだ。


 私はびっくりしてそちらに顔を向ける。

すると、全員度肝を抜かれたように驚いた顔をしていた。


 なんだろうか、それほど凄いことなのだろうか?

私がそんなことを思いながら眺めていると、それに気がついたのか興奮した様子でシンが説明してくれた。


「ながみ殿、あのですね!Sランク評価というのはですね!!」


 曰く、依頼達成をするとその依頼主から冒険者ランクと同じように、評価ランクというFからSで構成されたランクが与えられるらしい。


 これは、冒険者にとってとても大事なステータスであり、高いランクの達成依頼が多い程知名度があがり、有名になれるらしい。


そして、有名になれば『指名依頼』という重要任務も任されるようになり、それによって依頼料も爆上がりするらしいのだ。


 そんな評価ランクの中でも、Sは滅多に出ない最高評価!

ひとつあるだけでも冒険者として誉れ高いことであり、次の冒険者ランクをあげる上でも非常に重要な要素として吟味されることになる……らしい!


「へぇー、そんなすごいことなんだな……」


「えぇ、Aランクでも珍しいのに、それを超えたSなんて……!

珍しいなんてものじゃないですよ!」


 どこか浮かれたような感じで、嬉しそうにそう声を発するシン。


 しかし、ヌルとアーレ君もどことなく浮ついてるから、仕方ないのだろう。

この興奮具合からするに、どうやら本当にすごいことらしい。


「というわけで……もう一度言いますが、これで依頼達成です!

皆様、ありがとうございました!」


ルーチェさんはそう言うと、深々とお辞儀をした。


「また何かありましたら、是非皆様に依頼を出させていただきますので……よろしくお願いしますね?」


 終始嬉しそうな笑みで私たちを眺めながら発したその言葉。

その言葉を受けて、私、シン、アーレ君、ヌル……私たちは顔を見合わせて、頷いた。


「はい……いつでもどうぞ!」


私はルーチェさんのその言葉に、代表するようにそう答えたのだった。


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