第二十四話『はじめての』
関所での用事を済ませた私たちは、何やら重要な依頼があるというリギドさんと別れ、お金が一文もなく何も出来ないという事実を突きつけられた。
そんなわけで、試しに簡単な依頼を受けようとギルドへと戻ってきたのだった。
「というわけで、いい依頼ないですか?ルミネさん!」
受付で相変わらず忙しそうに書類をまとめているお姉さんこと、受付嬢のルミネさんに事情を話す。
ルミネさんは忙しそうに手を動かしながらも私の話を聞いてくれて、「うーん……そうですねぇ……」と考えるような様子さえ見せてくれた。案外冒険者って良い人が多いのかもしれない。
だいたい何かしら抜けてるけど……
「ながみさんは依頼掲示板はご覧になりましたか?」
「依頼掲示板?」
「はい、あちらにある掲示板ですね」
ルミネさんは手の平で方向を示して、依頼掲示板なる物の場所を教えてくれる。
そこはギルド一階でも比較的人通りが多い場所で、色んな冒険者さんがよく立ち止まって何かを眺めている場所であった。
掲示板のような物に紙が貼ってあるなーと思っていたが、そうかあれが依頼だったのか……
「あの貼ってある紙が依頼だったんですね……」
「はい、皆さんあちらで自分好みの依頼を選んで持ってこられるんですよー。ランクごとに掲示板が別れているので、初心者でも安心です!」
「へぇー……だから掲示板が複数あるんですか。なるほど……!」
私はギルド一面の壁にズラっと並んでいる依頼掲示板を眺める。あの時は分からなかったが、今になってよく見てみれば掲示板の上の方にランクが書かれているのがわかった。
「わたしのらんくはどこみるの?」
「ルフちゃんのこなせる依頼書はねー、あの端っこにあるやつだよー?」
ふふふと微笑みながらルミネさんが指さした方向を、キラキラした目で見つめるルフ。うずうずと体を揺らしながら、掲示板を眺め……
「なぎゃみ、いってくる!」
耐えきれなくなったようで、走り出して行ってしまった。
「あ、ちょっと!気をつけるんだぞー?!」
「わかった!」
私の言葉にひとつ返事でそう答えると、掲示板の下で見上げるようにして依頼書を見ていた。
それを微笑ましそうに眺めている、人相は悪いが心根の優しい冒険者の皆様方。
うん。これは任せても大丈夫そうかな……
私はそう結論づけると、ルミネさんに本題を切り出すことにした。
「ルミネさん、ちょっと話があって……」
「話……?話とはどういう?」
いつになく真剣な表情で話し始めたのが功を奏したのか、緊張した面持ちで聞いてくれるルミネさん。
うむ、これは重大な事だからな……そのぐらいの気持ちで聞いてくれると嬉しいってものだ!
これはトップシークレット情報だからな……厳重に管理せねばならないのだ……!
だって、これがバレてしまったら……!
私はその情景を想像して、ゾッとして身体を震わせた。
目の前にいるルミネさんに、耳を寄せるように手を振ると、私は口を近づけて小声になってそれを話す。
これは、誰にもずっと話せなかったことなのだ。多分ルフも知らない。
波打つ心を諌めるためにゆっくりと深呼吸して、その言葉を口にした。
「いや実は、私文字が読めないんですよ……!」
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【ルフ視点】
「いらい、たくさん……!」
みあげた先にべたーっと貼りつけられてる、たくさんの依頼を見る。
まいごのねこ探し、みせのうけつけさん、おやしきのお掃除、やくそうあつめ……
ほんとうにたくさんの依頼があった。
どれならわたしにできるだろう?というか、わたしに務まるだろうか?
「……なぎゃみ、たすける!」
ぎゅっと手をにぎって、むらから出るまえに決めたもくひょうを小さく声に出した。
ながみは他人のわたしのために、色んなことをしようとしてくれてる。
だけど、たぶんながみも、たぶんだけどたいへんな目にあってわたしのむらに来ていたはずなんだ。
だって、あんなに服がよごれて、あんなにおなかを空かせてることなんて、めったにないんだ。
少なくても、わたしがむらで暮らしていたときはそうだった。
だから、たいへんなのに、わたしを助けてくれるながみのために、少しでもながみの助けになりたい。
わたしは、けいじばんのいちばん下についていたいらいを取ろうとする。
「ん〜……うぅぅ……!」
でも、わたしの背が小さすぎていちばん下でもとどかない。
おもわずながみの方を見る……ながみは何かをるみねに言ってる最中だった。
いけない……またながみに助けてもらおうと思ってた。
わたしはさっきよりもぎゅっと手をにぎりこんで、まわりに何かないかさがす。
わたしが乗れそうな台か、いらいにとどきそうな棒……
「ルフの嬢チャン……何してんだァ……?」
わたしがまわりをさがしていると、うしろから声が聞こえた。
いきをはくような言いかたの、ねちっこい声。
この声は知っている。ながみのせんぱい?のざっくだ!
「ざっく、こんにちは」
「ケケケ……挨拶かァ……エライなァ!?」
ざっくがこしをまげて頭をなでてくれる。りぎどと同じくらい背が高いから、まげないととどかないみたい。
手が、わしゃわしゃって頭をなでた。
ながみよりらんぼうだけど、同じくらいあったかいかんじがした。
「それでェ……何してんだァ?」
「あれとりたい」
きもちよくて目を細めてたら、ざっくが聞いてきた。
だから、正直に答える。
「そうかァ……」
「うん、とりたい」
頭をなでながら、わたしの見てるいらいをいっしょに見るざっく。頭ゆらゆらする……
「じゃァ……オレが届けてやるぜェ!?」
そう言って、ざっくがわたしのうしろに行く。
そしたら、いきなりわたしの背がいらいにとどくぐらい高くなった!
「おい、あの『首切りザック』が子供を持ち上げてるぜ……!」
「こりゃあ、雨が……いや、血の雨が降るかもな……!」
声がきこえた。ざっくが持ちあげてくれたんだ。
たしかに下を向くと、わたしのうでの下からざっくのほそ長い手が出てきていた。
「ざっく、ありがと」
「……」
わたしが手をのばしていらいを取ると、わたしのもといた場所に戻っていく。いらい取ったから、ざっくが下ろしてくれたようだ。
「ざっく、たすかった」
わたしはそういって、ざっくに礼をしてながみのとこに歩いていく。はやくこのいらいを持って行って、ながみの手伝いをするんだ!
「ルフの嬢チャン……頑張れよォ……!?」
うしろから、ざっくのそんな声が聞こえた気がした。
……だから手をふったら、きまずそうに手をふり返してくれたけど、なにかまずかったんだろうか?
まわりからきこえる、ちいさな笑い声を背にしながら、こんどこそながみのところへ歩いていく。
ながみ、わたしがんばるから、これからも……!
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