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第十九話『対人戦闘』


「では、選定試験を始めましょうか!」


 バトル開始の言葉がお姉さんから発せられる。

どうやら私の選定試験なるものが、意図しない形で始まってしまったらしい。書状を書いてくれたギルドマスターには是非お礼(鉄拳制裁)を贈りたい所存である。


 というわけで、ギルド裏手に作られた小規模の運動場。

私とお姉さんは多数の冒険者たちに見守られ?ながら、こうして対峙しているわけなのだが。


 なにぶん対人戦闘なんてやったことがないので、正直勝手が分からない。


これで私が武道でも嗜んでいれば多少はセオリーで戦えたのかもしれないが、まぁ皆無である。


「?どうしました?攻撃に来ないのですか?」


「えっと……まぁ、最初は様子見ってことで……!」


 そんなわけで、とりあえず私は手始めに、一定の距離を保つ為に槍の先をお姉さんに向け、牽制することにした。

槍使いとしての動きを知っているわけではないが、きっと距離をとることは大事だ。なので、必死になって牽制を続ける私。


「なるほど、牽制ですか。槍使いの典型的な型ですねッ!」


「はい!なのでこっちには来ないで下さいね!怖いのでッ……!」


 そして、牽制しながら、少しでもいいから隙が見られれば攻めて出ようと思っているのだが……

素人目では対峙しているお姉さんに隙が全く見いだせず、どう攻めて良いか迷ってしまっている状況なのだった。


そして、ついに痺れを切らしたお姉さんが動き出す。


「さて、ではそろそろ此方から行かせて頂きます!まずは様子見ですッ───!」


 半身の立ち姿で私と対峙していたお姉さんは、唐突に地面へ倒れ込む。

そして、そのまま地面へと着いてしまいそうな瞬間、その重力そのままに地を蹴り、私へ向かってきた。


「ッ!?いきなりすぎだろッ……!」


 飛ぶように大きな一歩。

確か、こういうのを武道の世界では"縮地"と読んだりするんだったか?厳密には違うのかもしれないが、まさに地面が縮まったかのような感覚だ。


 私は、向かってくるお姉さんを、横合いから槍で殴りつけて逸らそうと画策する。

しかし、お姉さんは当たる前に体を捻ってそれを回避。後ろに飛び退いて距離を置かれてしまった。見事な身のこなしに思わず呆けてしまう。


「空中で体の制御するとか反則だろ……!」


「このぐらい朝飯前です!」


「そうですかッ!」


 私はその言葉と共に駆け出し、不意打ち気味にお姉さんに向けて槍を突き出す。だが、お姉さんは横に飛びながら、突き出した槍を手で弾きやがったのだ。心底余裕そうに!!


「今その動きする必要あったのか!?避けれたろ!?」


「いえ、全然無かったです!」


そう言ってお姉さんは、指先をクイッと私に向けて子招いた。


───うん、挑発である。これには観客の冒険者たちも大盛り上がりだ。


 この女ッ……!?

人に向けて武器を振るうのを少し躊躇していたが、もう何も気にしなくて良いようだな?!


「さぁ、どこからでもどうぞ!(にっこり)」


ぴきり。自分の血管が悲鳴をあげているようだ。

私は遠慮を捨てて戦略を練り始める事にした。お姉さんボコボコ計画である。


え?挑発に弱すぎる???もっと引くことを覚えろカスだ???


 いや、挑発してきたお姉さんにガチギレ寸前()なのもそうだが、それより周囲の冒険者が騒ぎ立ててるのがいただけない。

聞こえてくる声援は、お姉さん一色である。ぶち壊したい、この笑顔。


しかし、戦略を立てるといっても、槍での攻撃では絶対に勝てないことがわかっている。


 何故ならば、さっきやった攻撃は今できる動きの中ではけっこう動けている方のやつだったから……

それを避けられた上に見切られ、手で弾かれてしまったとなっては実力差がどれ程のものか計り知れるというもの。


そういうわけで、槍だけでは絶対に勝てないのだ。


「……」


 私は手に持っている木の槍を握りしめる。

近接戦で勝てないのはわかっていた。ステータス上でも、私の槍術スキルは未だ1だし、元々体を動かすのは得意ではない。


 そんなやつが、こっちの世界に生きていた戦闘経験豊富な奴らと対等に戦える理由なんて存在しない。


……しないのだが。


……ここまで差があるとは、正直思ってなかった。


 私だって、この世界来てから数日間、ふとんに頼りきりにならないように変態と槍だけで戦ったり、戦闘スタイルについて研究したり、これでも一応きちんと練習していたのだ。


 しかし、通用しない。

目の前の彼女は、私の付け焼き刃の机上の空論だけでは埋められない強かな技術を持っているのだ。


「はぁ……どうしようか?」


 私はこの面倒臭い状況に思わずため息を吐く。

槍が通用しないとなったら、私が取れる手段はひとつしかない。


ふとん召喚か、火魔法だ。


だが、火魔法はまだ攻撃技を使ったことが無いため、安全を考慮して使えないだろう。さすがに火は危ないのだ。


───しかし、そうなるとふとん召喚になってくるのだが……


 ふとん召喚の技で私が使っている主戦力は、一撃必殺と言っても良い【布団手裏剣】での攻撃。

その速度は相当なもので、見てから避けるのはまじで難しいと思う。


 だから、きっとこの女にも通用するだろう。ていうか、初見で避けられたらそいつは人間やめてる。私の布団はそのぐらいの速度で射出されているのだ。


 しかし、その速度と回転故、おそらく当たった部分が綺麗に切断される。

俗に言う首チョンパである。そんな人殺しは私にはできないし、やったら周りにいる奴らに殺されるだろうな。


あとは、【掛け布団】だが……


 これはそもそも攻撃では無い。決め手にはならないのだ。

だが、恐らくこれも拘束としてはすごく効くと思うので戦略には組み込んでいこう。


槍で攻撃すると見せかけ、避けるかカウンターを狙って来た所を【掛け布団】で拘束。


そして、そこに一撃加える。



……そうなると、やはり必要になってくるようだ。



"新たな技"の存在が!



「さァ……攻撃しないと合格できませんよ?!」


拳をこちらに構えながら、女……お姉さんが叫ぶ。


そして、お姉さんはこちらを挑発するようにニヤリと笑った。


「じゃあ、お望み通りにしてやろうじゃないかッ!」


 私はその挑発に乗り、槍を薙ぎ払うようにお姉さんに振るった。お姉さんはそれを後ろに下がるように跳んで回避する。


「ふふっ!そんな攻撃じゃ当たりませんよ?!」


───ビンゴだ!

突きでは横に避けられて当てにくいと思い、なぎ払いを選んだのだが、正解だった!


飛んでいるこの状態なら、確実に当たる!


私はイメージする。頭をフル回転させて思考を巡らせる。


全てを包むような薄い掛け布団。


一度入ったら抜け出せないような、全てを包む掛け布団。


そして、それに"粘性"を付与……!


発動!


「引っかかったなッ!【掛け布団】!」


「なッ?!」


 直後、私が召喚した【掛け布団】は真っ直ぐにお姉さんへと飛んでいき、着地寸前の身動きのとれないお姉さんをしっかりと捕らえた。


「な、なんですかこれ!?うわッ引っ付いて取れない!」


お姉さんが【掛け布団】の下でじたばたと藻掻いているのを尻目に、私は次のイメージを始めた。


銃弾を凌駕するような圧倒的な速度。


 切り裂くのではなく、意識を刈り取る衝撃を与えるような打撃を与える遠距離武器。

いうなれば、暴徒鎮圧用の衝撃による気絶を狙った武器!


イメージとしては、ゴム弾が正しいだろう。


 ゴム弾の打撃能力は、至近距離ならばプロボクサー並の威力を発揮するらしい。良い所に入れば一撃で意識を刈り取ってくれること間違いなしだ!


それを、布団でイメージする!


くるくると筒状に丸めた布団に弾性を付与!


それを真ん中で折り曲げて銃弾のような形にして、撃ち出す!


「や、やっと抜け出せ……」


「イメージ完了!いっけぇええぇぇ!【布団弾】ッ!」


 イメージした布団は想定どうりの形を成し、【掛け布団】から出かかっていたお姉さんに向かってビュンと飛んでいく。目にも止まらぬ凄まじい速度である。


「へぶゥッッ!!!」


 そして、その凄まじい速度でお姉さんのお腹にぶち当たると、バンッ!というすごい衝撃音とともにお姉さんを吹っ飛ばした。


地面にドサッと倒れるお姉さん。


さっきまでのどんちゃん騒ぎが嘘のように静まり返る冒険者達。


「なぎゃみ、すごい!」


 しかし、その静寂を断ち切るようにしてルフが私に抱きついてきた。

私の腰辺りに顔を擦り付けながら、嬉しそうに頬ずりするルフを見て、しかし私は未だ勝ったことが実感できず呆然とし立ち尽くす。


「……勝ったのか……私は?」


「───うぉぉおおおおおお!新人がルミネさんをぶっ飛ばしたぞォ!」

「すげぇえ!なんだ今の!おいおいおい!」

「今見えたかお前!あんなの避けられねぇだろ!」


 だが、一人の歓声を皮切りに冒険者達が沸き立って叫び始め、会場は異様なムードに包まれ始めた。

その声を聞いて、そして地面に倒れ付して何やら呻いているお姉さんの姿を見て、私もようやく勝ったという実感が湧いてくる。


そんな私に対して、近づいてくる影がひとつ。


「いやー、こりゃあ宴会だぜ!なぁネェちゃんも来るよな?!」


 興奮冷めやらぬ様子で私の背中を叩くスキンヘッドの大男。

先の酒場エリアにいた、ガン飛ばしてきた冒険者のうちの一人である。その大男が恐ろしくて、私は少し顔をひきつらせた。


「え?いや、私は……」


「オイ、お前怖がられてるってェ!ごめんなァネェチャン!」


 私が困っていると、隣から酒場でナイフ舐めてた人が出て来てスキンヘッド大男を諌めた。

謝罪の言葉と同時に口にある傷が不気味に歪み、私を捕える。


 いや、お前も充分怖いんだが?

むしろ一人分怖さが増したんだが???


「おっとこりゃいけねぇや!スマンスマン!」


「オマエ顔怖いんだから気をつけろよォ!はっはっはっ!」


 そう言って笑うスキンヘッド大男の顔は、金剛力士像が笑ったみたいな感じだった。要するに怖い。凄まじく怖い。

夜中に出会ったら心拍停止するぐらいの顔面威力は兼ね備えていそうである。顔面が凶器である。


「まぁまぁ行こうぜ!奢ってやるからさぁ!ほら、隣のお嬢ちゃんも食べたいだろう?」


 そう言ってスキンヘッド大男は、私の隣に立っていたルフに声をかける。

強面の男たちに囲まれながらご飯に誘われているその情景は、傍から見たら相当犯罪チックだ。


「ごはんたべる!」


 しかしルフは、そんな怖い彼らにひとつも物怖じせずにそういった。

どうやらもうご飯のことしか考えていないようだ。目がキラキラと輝いていて、とても可愛らしい。


 うーん、ルフい!これでもかってぐらいルフい!

しかし、大変ルフいのだが、それは私の胃に優しくないぞルフちゃんよ……?!


「じゃあ決まりだ!おい、誰かルミネさんを救護室に運んどけ!」


あぁ決まってしまった……


私は絶望しながら、とたとたと歩いていくルフの後をついて行く。


周りには愉しそうな強面。


横から私たちを追い抜かしていく担架に乗ったギルド受付嬢のルミネさん。


 冒険者ギルドの洗礼をさっそく受けた初日。

冒険者というのはこんなにもカオスなものなのかと、私は恐怖しながら歩いていたのだった。


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