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第十六話『冒険者ギルド』


 シーアシラ港町、冒険者ギルド。

様々な国から集まってきた血気盛んな冒険者たちの集う、少し危険なお仕事斡旋所。

 国から、企業から、市民から、様々な顧客から持ち込まれる依頼を冒険者たちへと斡旋する施設であり、その依頼内容は迷子の猫探しから始まり、高ランクのものになると伝説の邪龍討伐なんていう恐ろしいものまで存在しているという摩訶不思議アドベンチャー施設である。


......と、ヴォレオさんが馬車での道すがらに教えてくれた。


「じゃあ、入るぞ?着いてきてくれ」


 そう言って、冒険者ギルドの中に入っていくヴォレオさんの背中を見て、私は慌てて歩き出す。

ヴォレオさんからの外伝ではあるが、冒険者たちというのは少しばかりグレー寄りの仕事も平気で請け負ったりする血気盛んな者共の集まりらしい。


そんな、異世界半グレ連中の只中ではぐれてしまっては目も当てられない事態になるだろう。

私はそう考えて、なるべくヴォレオさんから離れないように心がけることにした。


 きっとはぐれたら中の冒険者たちに絡まれてジ・エンドである。だからヴォレオさんから離れないようにしっかりと後ろをついて行く所存である。


「ルフ、ここからは多分危険だから離れないようにな。

何かあったら、ヴォレオさんの後ろにいる私の後ろに隠れるんだぞ?」


「うん、わかった。なぎゃみについてく」


うん、そっか可愛いなルフは。

でも、たぶん私はあんまり頼りにならないから、有事の際はできる限りヴォレオさんの傍にいてくれな。私も隠れるから。


 そんな私の気持ちも知らずか、こちらに手を差し出してくるルフ。大変可愛らしい。


 その可愛らしい手を握り、冒険者ギルドの中に入る。

すると、中に入った瞬間、鼻に染み付くような血の臭いと汗の臭いが私たちを出迎えた。

血なまぐさいって、きっとこういうのを言うんだろう。現代日本ではほとんど嗅いだことのない、血の匂いだ。


「うわぁ、臭うな……なんというか、バイオレンスな臭いだ」


 その不快感の重なる臭いに少し顔を歪ませながらも、どんどんと前に進むヴォレオさんに置いてかれないよう足を早める。

聞けば、ヴォレオさんの前職は冒険者らしいし、この臭いに慣れてしまっているのだろうな。

私の隣でルフが鼻を押さえしかめっ面をしているのを見て、そう思った。


「ヴォレオさん、村のことは誰に伝えるんですか?」


 ヴォレオさんに問いかける。

すると、ヴォレオさんは周りを見て少し考える様子を見せたあと、静かに口を開く。


「馬車で聞いた襲撃度合いから察するに、ギルドマスターに取り次いでもらった方がいいだろう。……ここじゃ周囲の目も痛いし、まずは受付に行くか」


 なるほど。痛い、というのは言い得て妙かもしれない。

何故なら冒険者ギルドで子供と一緒に居るのが珍しいのか、周囲の人の視線が自然と集まってしまっていたからだ。


 強面の大剣を持ったスキンヘッドや、口元に笑顔みたいな傷がついてるナイフ舐め男やらetc......


 ギルドに併設された酒場から睨むように向けられた彼らの視線の数々は、少々居心地が悪いというか生きた心地がしないというか、子供だったら絶対泣き出すぐらいの威圧感を醸し出しているのが目で見てわかる状況だった。


まぁ、私の隣にいるルフは全く意に返さず無表情を保っているのだが。


「ほら、あそこがギルド受付だ。さっさと行くぞ」


 歩き出したヴォレオさんの背に隠れながら、私はギルド内を見渡す。件のサブカル好きな友達の話に従うならば、おそらくここにはよく足を運ぶことになるだろう。下見していて損はない。


───それで、下見の結果、どうやら見た限りギルド内は4つの区画に分けられているということがわかった。


 まず、今も様々な強面たちがどんちゃん騒ぎをしている、お酒やごはんを注文できる先程の酒場のようなスペース。

数台のテーブル席とカウンター席があり、複数のメニューから料理を選べるみたいだ。


人気料理はウィンナーのような肉を焼いたサラダ付きの定食料理みたいで、今も多数の大男が食事を……っと、見ていたら睨まれたので、これ以上の視察はまずそうだ。


 次に、解体施設。

冒険者の人達が、狩ってきた動物や怪物……魔物なんかを解体する場所のようだ。


 見ていると、冒険者たちが持参している魔物の遺体はある程度大まかに切り分けてあり、簡単な解体なんかは現地でやってくるっぽい。

そして、処理された魔物遺体の、さらに細かい部位の切り分けをここでやっているようだ。


 資料を見ながら切り分けているあたり、部位によって希少価値がつくものがあるのだろう。解体所の受付と言い争っている冒険者たちの姿が数多く見受けられた。

あと、どうやら血の臭いの原因はこの施設だということがわかった。血まみれである。冒険者も魔物も受付も全て......


 次に、何やら沢山の紙が張られた大きな掲示板があるエリア。

これは、見ていてもあまり分からないので詳しく説明は出来ないが、おそらく何らかの情報が書かれているのだろう。


時折、貼られている紙を掲示板から取って持っていく者も居るようである。そういった者達は、順々にギルドの外へと旅立っていくのが見ていてわかった。


 そして、最後に私たちが向かっているギルド受付。

外観としては木でできた、病院とか役所の受付窓口だと思ってくれればいい。


 複数のカウンターがあり、カウンターの上の方に何やら文字が書いてあるようだ。用事によって受け付ける場所を分類しているのだろう。


カウンター中では、社員と思われる服装をした受付員が忙しそうに書類を書き込んでいたり、カウンターにやってくる冒険者たちの対応などをしているようだった。


「すまないが、ギルドマスターに取り次いでもらえないだろうか?重大な話があるんだ……!」


 そんな受付カウンターに、ヴォレオさんが矢継ぎ早に声をかける。青狼族の村が襲われたことで焦っているのか、そわそわと落ち着かないようすだ。


その言葉を聞き、受付嬢のお姉さんがこちらへとやって来る。


しかし、ギルドマスター……マスターとついてるからには相当偉い人だろう。そんな人に状況説明もせず直球でいって取り次いでもらえるんだろうか?


「えーと……すみません、まずはご要件を……」


「あ、いや……すんません。わかりました」


 あ、やっぱりだめだったみたいだ。

気まずそうな顔をした受付のお姉さんにそう謝られ、ヴォレオさんも気まずそうに頭を下げる。


「えっと、じゃあ説明します。急いだ方がいい案件なので簡単に。まずは事の発端から……」


 ヴォレオさんは受付のお姉さんとの会話の中で冷静さを取り戻したのか、次第に敬語を用いて、今回の要件を説明していく。


 青狼族の村が襲撃されたことや、予め私から聞いていた村の様子、そしてリザードマンの異常個体がその襲撃者であるという異常性を話して聞かせた。


そのヴォレオさんの真剣な話し口と、その証拠であるルフと私がいることで、最初は半信半疑のようだった受付のお姉さんも徐々に表情を険しくしていった。


「そんなことが……」


 話を聞き終わり、数秒。お姉さんが暗い表情で呟く。

そしてその後、何やら水晶のようなものに向かってしばらく話しかけると、何度か頷きこちらに顔を上げた。


「はい、はい……ギルドマスターと連絡が取れました。皆さん着いてきてください!」


「っ、了解だ!すぐ向かおう!」


 お姉さんの言葉を聞いて、ヴォレオさんは素早く駆け出す。

どうやらヴォレオさんはギルドマスターの部屋を知っているようで、受付のカウンターから少し離れた場所にある二階へと続く階段へ駆け出して行った。


 そのあとを、お姉さんと私、ルフが追いかける。

そして、二階の奥にある、素朴な木の扉の前でお姉さんが立ち止まった。


「ここから先は、皆さんのみでお願いします」


「あぁ、わかった。案内ありがとう」


 ヴォレオさんは後ろについてきていたお姉さんに一言礼を言い、中に入っていく。

私もそれに続くようにぺこりと礼をしてから後を追う。


───そうして、扉を開けて中に入れば、部屋の中はしんとした静けさに包まれていた。


 冒険者ギルド一階の騒がしい喧騒も届かない防音のしっかりとした部屋、その小綺麗で素朴な装飾品が目を引く応接室の様な場所に、一人の男がこちらに対面するように座っており。


「さぁ……話しを聞かせてもらおうか?」


 くたびれた顔をした切れ長の目の男は、そう言って深くため息を吐くのだった。


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