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第十三話『新たな旅立ち』


【ルフ視点】


「んぅ……?」


 なにかここちのいい感触を肌で感じながら、私は目をあける。

ぼーっとする頭でまわりをみわたすと、なぜか私はふわふわのぬのに包まれていることがわかる。


あれ?ごはんは……?


私は、そんなぎもんをもちながら、起き上がることもせずに考えをはじめる。


たしか私は、ながみといっしょにごはんを食べてたはず……

それなのになんでふわふわのぬのに挟まれているのだろう。


私は、ごはんを食べたあとなにしたっけ……?


「ん〜……うぅ」


あぁ……だめだ。ぬのがあったかすぎてなにも考えられない。

このままずっと寝ていたい……

私はうえにあるぬのをぎゅっとにぎると、口元ぐらいまでひっぱりあげる。


 あぁ、これはやばいのかもしれない。

肌に触れるぬのは、私にぬくもりとしっとりしたきもちのいい感覚をくれた。


しかもふわふわ。

きっとおそらに浮かんでいるもこもこの正体がこれなんだ……


からだが溶けてるんじゃないかってぐらいきもちいい。


なんなんだろうこれは?


……いや、もういいや。ねむい。


私の頭は考えるのをやめて、目をしめようとしている。


しかし、それでいいのだろうか?


……いや、いい!


私はじぶんのことばに素直にいきるのだ。

今決めた。今私が決めた。

だからいまは、このきもちいいぬのに身を任せてしまおう……


「おやすみなさい……」


 私はそう言うと、もう半分くらい閉じかけていた目をゆっくりと下ろしていくのだった……


「いや、ちょっとまて。ナチュラルに二度寝をしようとするんじゃない」


「んぁ……?」


 ながみのこえがきこえて、ゆっくりと目を開ける。

すると、私をのぞき込むようにして椅子に座っている、ながみのすがたがそこにあった。


「なぎゃみ……?」


 眠たい目をこすりながら、ゆっくりと起きあがる。

ぬのとのあいだに、少し空間ができる。そこから、あたたかみが失われていくのがわかった。


う……ぬくもりが……


いや、けどながみが……


私は、このぬのを出たくないというきもちと、ながみがよんでいるという状況に、どちらを選べばいいのか迷ってしまっていた。


「ううぅぅぅぅぅ……!」


こんなに苦しい選択をせまられるのははじめてだ……!

あまりにも苦しすぎて、顔がゆがむのがわかった。すごく起きたくない。まだこの中でぬくぬくしてたい。


「そんなに起きたくないのか……?!まぁわかるけど……!」


けど、あぁ……ながみが……!ながみが呼んでいるというのに……!


私の目は……今、今この瞬間にもとじようとしている……!


「ううぅぅうううううッ、ぁあッ!!」


───ッ、私は、負けない!


勢いをつけて、体を跳ね起こす!

ぬのがばさっと宙を舞った。


「さよなら……ぬの……!」


 ぱさりと床に落ちるぬのは、どこか悲しげな気がする。

そんなぬのを見て、私は涙をながしながらおわかれを告げるのだった。


「いや、そこまで嫌なら別に寝ててもいいのに……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【主人公視点】


 すごく苦しそうな顔をしながら、ルフが飛び起きた。

そして開口一番、なぜかふとんにお別れを告げると、落ちているふとんを見て涙を流した。


気に入ってくれたのは嬉しいが、何もそこまで……泣くまで離れたくないなんて……!


「全く、素晴らしいな……!」


 私は、ふとんのことをそこまで思ってくれているルフの存在に、ぽろりと涙を流した。

今まで私以外に、これほどまでのふとん愛を持っている人間はいなかったから……心底感激である。


「なぎゃみ……わたしねちゃってた」


 ルフは涙を拭いてこっちにやってくると、申し訳なさそうに頭を下げた。何を謝っているのかと思えば、どうやら食事中に寝てしまったことを悔いているようだ。


別に気にしなくてもいいのに......いい子である。


「きっと疲れてたんだろう?別にいいさ」


「わかった。次はちゃんとたべる。

あと、ふわふわのぬの……あったかかった。ありがとうなぎゃみ」


「ッ、そうかそうか!

ふとんは暖かかったか!それは良かったよ!」


「ふとん……ふとん、好き」


「好きかぁ〜!嬉しいこと言うじゃないか、ルフ!」


 うむうむ、ふとんは気に入られたようだ!

こうなれば吟味して選んだかいがあったというもの!

我が生涯に一遍の悔いなしである!


「っと、そうだルフ。聞きたいことがあったんだった」


「なに?」


「いや実は私、今着れる服がなくてな?私が着れるような服が何個か欲しいんだよ」


しかし、本当に悔いが無いか考えていたら、そういえば当初の目的を思い出した。

そうだった。私は服を探しに来たんだった......なので単刀直入にルフに聞いてみることに。


そうするとルフは「ちょっとまってて」と言って、2階に上がっていく。階段を駆け上がっていく彼女の後ろで揺れている、空色のしっぽが大変可愛らしい。


そして、数分後……


「これどうぞ」


 そう言って、ルフは持ってきた服を渡してくれる。


「ありがとうルフ、そろそろ同じ服は気持ち悪かったんだ。助かるよ!」


 お礼を言うと、ルフは嬉しそうにはにかんだ。

きっと頼られるのが嬉しい年頃なんだろう……嬉しそうで何よりだ。


しかし相当な量持ってきたな......私が何個かって言ったからか......?


私は、渡された服の山を見る。

だいたい上下合わせて8セットぐらいだろうか?


動きやすそうな麻製のシャツとスカートから、日本では見たことの無い古風のドレス……果てにはメイド服なんてものもある。

どうやらルフのご家族の中には、服装に気を使っている方が居たらしいな……!


......うわ、これとかすごいぞ!

アニメとかゲームに出てくるみたいな金属製の際どい防具だ!

異世界やばいなぁ......!こんなの実際にあるのかよ......!?


「なぎゃみ…それ着たい?」


 私が持ってきてくれた服を見て楽しんでいると、ルフが無垢な笑顔で聞いてくる。

しかし、その言葉は私にとって絶望の一言だった。


「い、いやぁ。これは流石に……」


「……いやだった?」


 私が今手に持っている際どい防具を見て、悲しそうに俯くルフ。 心が痛む……!


だが、こればっかりは無理なのだ!

なんとか傷つかないように回避しなければ!


「そ、そんなことは無いぞ!ただ、ちょっと私には……」


「私には……?」


 悲しそうな目で私を見つめるルフ。

やめろ、そんな目で見ないでくれ!私にこれ以上喋らせないでくれ......!


「わ、わたしには……」


「うぅ……!」


 悲しい声をあげ俯くルフ。その目にはうるうると涙が溜まっているように見える。


こ、これは、万事休す……!

もう本当のことを言うしかない……!


え?きたくないと言って泣かせるぐらいなら、1回ぐらい着ろって?


いや、それは出来ないんだよ……

私には、どうやっても着ることは出来ないんだ……


着ろと言われても着れないんだ!


だって……!


「───私にはッ……!

胸のサイズが、あってなさすぎるんだ……!」


 そう、この防具を見た時から気づいていた!


明らかに、私の胸囲とサイズ感があっていないッ!

どこを守るんだってぐらい小さい金属部分を繋ぐ革製のベルトに、サイズ感を調節するためのホックのようなものも付いてはいるが、最小でも恐らく入らない!


私だってルフを悲しませたくなかった!

入るなら、別に着ても良かったんだ!


しかし、物理的に入らないんだよッ……!


「あっ……ごめん、なぎゃみ……」


「いや、いいんだ……期待に添えられなくてごめんな……」


 さっきとは打って変わって、気まずそうな表情をしているルフに謝罪をする。持ってきてくれた服の半分は、胸のせいで着れないものばかりだったのだ……


私がもっとナイスバディであれば……!


「ごめんな……着れるのは、この四着ぐらいだったんだ……!ごめんな……!」


「い、いや……なぎゃみはわるくない……ご、ごめんね?」


 そう言って、慰めようとするルフ。

あぁ……惨めだ!惨めすぎて泣けてくるよ!

だから言わないように頑張っていたのに……!


「で、でも!着れる服もよっつあるから……!」


 だから泣かないでと言わんばかりのその言葉に、より一層の悲しさが込み上げた。

幼女に慰められながら、さめざめと泣く成人女性……

なんて哀れなんだろう……!


「あぁ……そうだな……4つあるよなぁ……!」


しかし、このまま泣いている訳にはいかないのだ!


私は、4着のうちの一枚を手に取り着替え始める。


 麻製の袖の長いシャツに、膝ぐらいの紺色スカート。

その上から、フードの着いた薄い黒、かっこよく言うならばノワール色をしたローブのようなものを羽織って完成である。


いやぁ、シャツに胸囲のサイズ感を調節出来る紐がついてて良かったなぁッ……!


これがなかったら胸元がヨレヨレだったもんなぁッ!


「なぎゃみ……」


ルフは可哀想な目を私に向けると、そっと肩に手を置くのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 フライパンのようなもの、鍋、ナイフ、食料、調味料、服……

私は、生活に必要そうなものが一通り揃っているのを確認し、さっきルフに貰った大きな背負いかばんにそれらを詰め込んでいく。


あまりいっぱいにしてしまうと、力のない私では持てなくなると思い荷物は極力少なくしたが、それでも割と量が多くなってしまったな。


あんなに大きかったかばんがもう半分以上埋まっている。

……まぁ、調理道具をいくつか入れてるし、当然っちゃ当然なのだが。


「ルフは準備できたか?」


 隣で身支度をしていたルフに問いかける。

すると、準備は既に終わっていたようで、こくりと頷き立ち上がった。

見てみると、その背中には子供サイズの背負いかばんがあり、いつでも行けるぞと背中で語っているようだった。


「よし、出来たようだな!じゃあ行くか!」


「わかった。行こう……!」


 その言葉を聞き、私たちは家の外へと歩き出す。

目指す場所は、ここから何日か歩いた場所にあるという国、アシエーラ共和国。


その、"アシエーラの玄関口"とも呼ばれている、シーアシラ港町へと向かう予定だ。

地図はルフの家の中にあった書物で確認済みなので、恐らく迷うことはないだろう。


......ただ、ルフはまだ子供だし、私だってあまり強くない。

ルフに聞いた限りだと、外には魔物がいるらしいし、普通に危険だ。

極力戦わないようにしながらゆっくりと進み、途中で馬車などを見かけ次第交渉して乗せてもらおうという算段である。


こんなことなら、ふとんスキルの走行を取っておくんだったな……と思わなくもないが、まぁしかたない。


ふとんポイントも便利なスキルも、ないものは無いのだ!


ふとんスキルポイントが溜まりしだい取るということにしよう!


「なぎゃみ、どうしたの?」


「あ、いや。なんでもない。進もうか!」


「ん……わかった!」


 私はルフに村の中心を見せないよう務めながら、街道を歩き出す。ルフの村に起こったことを伝えるためにも、早く街へ行かなければならない。


───おそらくルフを守って殺されてしまったのであろうルフ家族のためにも、私がルフを守らなければ。


そんな気持ちを胸に秘めながら、名も知らないこの村を後にするのだった。

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