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第十一話『ごはんと箸』


「魔法って、珍しいのか?」


 そう私が問いかけると、目の前で目を輝かせていたルフがこくりと頷く。

その表情はいままで見たことないようなもので、そわそわしているというか、きらきらしているというか……おそらくこれが羨望の眼差しというものなのだと私は理解した。


こんな目を向けられたのはいつ以来だろうか?

どんな時でも大体寝ていたため、周りからよく思われないことが多かった。なので、こんなふうに見られるのは本当に初めてだ。


純粋な気持ちでここまで憧れられると、さすがの私も少しばかり照れてしまうな……!


 私はそんな気持ちを隠すように、丁度いい具合に切った干し肉を、フライパンのような調理器具で炒めていく。


干し肉は、軽く火を通すと肉の旨みが増して美味いのだ。

あとは、煮込むと良い出汁もでる。これだけで色んな料理に使える最高の具材なのだよ。


……そうだ。非常食として持ってきていたヴリエの実を混ぜて、干し肉とヴリエの実のスープを作ってやろう。

ルフは心底お腹がすいているようだし、きっと喜んでくれるに違いない!


そう思って、私は家にあった深鍋を手に取った。


「───なぎゃみ、みずはかまどのとなりの桶に入ってる」


「ん?おぉ、ありがとう」


 すると、どうやら私の行動を見て予測したらしいルフは、聞くより先に水のありかを教えてくれた。


なんていい子なんだろう......加えて賢いときたら最強じゃないか?

そんなことを考えながら、桶の水を鍋に入れておく。干し肉を炒めるのが終わったらこっちを作り始めよう。


「なぎゃみは、どうやってまほう覚えたの?」


「スキルポイントで取ったぞ?」


「スキルポイント……すごい!さいのうだ……!」


「才能なのか?」


「うん、さいのう。まほうは取るのがむずかしい……らしい」


「へぇ……そうなのか」


 好奇心が抑えきれないのだろう。

私の隣から離れようともしない彼女は、次々に質問をしてくる。私が動けばとことこと後ろをついてくるその姿に、ふわふわとした優しい気持ちに包まれた。


私が幼少の頃に憧れて、よく遊んでもらっていた親戚のお兄さんもこんな気持ちだったのだろうか?


しかし、あまり感情を表に出さなさそうな彼女が、ここまで興奮しているのだから魔法を使うのは本当に珍しいんだろう。

異世界ということもあり、魔法なんて珍しいものでは無いと思っていたが、認識違いだったのだろうか?


煮込み鍋をかき混ぜながら物思いにふける。


そんな私を、ルフはずっと眺めていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【ルフ視点】


 ながみがごはんを作り始めてから少し時間がたった。

今私は、ながみのとなりに立ってごはんを待っているところである。


最初は魔法におどろいてたくさん話しかけてしまったけど、ながみが何かを考え込んでいる様子だったので、めいわくかなと思って見ているだけにした。


 私も、考え事をしているときに話しかけられるのはにがてだし、きっとながみもそうだろう。

なんとなくおなじにおいがするから分かる。


それに、ながみは私のためにしっかりとした料理を作ってくれている。すごくやさしい。

だから、めいわくをかけちゃだめなのだ。


でも、ながみが魔法つかった時は驚いた。

私のむらでは、魔法なんておとぎ話の存在だったから。


……そういえば今思い出したけど、昔おとうさんに魔法の話を聞いた時、「じゅうじんはまりょくを外にほうしゅつするきかんがない。そのかわりに気がつかえるんだ」みたいなことを言ってた。


意味はわからなかったけど、嬉しそうに胸を張ってたおとうさんはなんだか頼もしかったのを覚えてる。


なつかしいおもいで。


なつかしいけど……


しかし、そうやって考えていると、村のみんなのことを思い出してしまうことがわかった。

いやな気分になる。思いだしたくない。


私はおもいでをふりはらうように頭を振った。


でも、なかなか忘れられない。


「よし……このぐらいでいいだろ」


 私が村のみんなのことを忘れようと必死になっていると、私の耳に嬉しそうなながみの声が聞こえた。


ハッとして、元の私が戻ってくる。


「ルフ。ちょうどいい器を出してくれないか?」


 ながみがそう言って棚をゆびさした。

私はこくりと頷き、うつわを取りに行く。


これでいいかな?


私は棚にあったうつわの中から、綺麗なものを探していく。

そして、スープが入れられそうな木のうつわと、お肉をいれる用のおおきなうつわをもっていくことにした。


「うつわ、もってきた」


「おぉ、ありがとう!じゃあ、そこに置いといてくれ」


 ながみがゆびさしたテーブルの上にうつわをおく。

……いや、たぶんここで食べるとおもうし、並べておいた方がいいかな。


私はテーブルのうえにふたり分のうつわを並べると、おとなしく席にすわってながみを待つことにした。


「器並べてくれたのか、助かるよ」


 しばらく待ってると、作っていた料理が完成したようでながみがスープをついでくれる。

それに、うつわを並べたことにも気づいたみたいでお礼を言われてしまった。


「ううん、べつにふつう」


「そうか……ルフは偉いんだな?」


そう言って、頭をなでられる。

私のみみがぴくぴくと動くのを感じた。


「んぅ……」


 動くのが恥ずかしくて、みみをおさえる。

すると「あ、悪い」といって、ながみは手をひっこめてしまった。


えらいってほめられた。


頭をなでられた。


手のぬくもりが、まだあたまにのこってる。


こころがぎゅっとされるような感じがして、顔があつい。


「ルフ?どうしたんだ?」


ながみが心配そうに声をかけてくる。


「……なんでもない」


「それならいいんだが……うむ、ならごはんを食べようじゃないか」


そうだった、ごはんがあるんだった。


私はまだ少しあつい顔をあげて、目の前にある料理に手をのばす。


 料理は、いつもたべてるお肉と、なにかのやさい?がはいったスープだった。

どちらもゆげがあがっていて、できたてほやほやだ。


「じゃあ、いただきます」


 ながみは手をあわせてそう言うと、木でできたふたつの棒をとりだした。

そして、その棒でじょうずにごはんをつかんで食べてる!?


「なぎゃみ、きようだ……!」


 おどろいて食べる手が止まってしまった。

片手のゆびだけで、あんなに棒を動かせるなんて……


「いやいや、全然そんなことないよ。私の国ではこれが普通だったし」


 そう言いながら、うすく切られたお肉を棒でつかんで口にもっていくながみ。

とちゅうで落とすなんてことはなく、お肉はきれいにながみの口のなかへと入っていった。


「これが、ふつう……?!」


 口に運ぼうとしていたお肉を、おもわず取りおとす。

しかし、今の私はそれを気にしているよゆうなんてなかった。

ながみが言ったことばを理解するのに、せいいっぱいだったのだ。


あんなに動かせるのが、ふつう……?


私は、そんなことができる国を想像する。


いったいどんな国なんだろう……?


だけど、いっこうに答えはでない。それどころか、どんどんわけのわからない、えたいの知れないものへとなっていった。


もしかしたら国の人たちぜんいんに、ゆびを動かすくんれんが課されるのかもしれない……!


きっとみんなゆびがムキムキなんだ……ながみはすごく細く見えるけど、きっとムダのないしなやかなムキムキだ!


きっと、あの棒をつかえなかったら死ぬんだ……!


使えなかったひとが消されちゃうから、ふつうだと思ってるんだ……!


なんておそろしい国だ……!


私は、未知との出会いによるきょうふで、ぶるりと体を震わせる。


心をおちつかせるために、スープをのむ。


お肉についていたお塩と、お肉本来の味がしっかりとでていて、すごくおいしい。

かんそうしたお肉だから油っこくないし、なかに入ってるやさいともよくあっていた。


なにより、ほっとするあたたかさを感じる。


「……おいしい」


そのことばが、しぜんと口をついた。

ふだんぜんぜん食べないのに、今日だけはどんどん口にはいった。


そのぐらいおいしくて、あたたかかった。


「それは良かったよ!喜んでくれて何よりだ」


そう言うと、ながみはにこりと笑った。


出会ってはじめてしっかりとした笑顔をみたけど、ながみは笑うとすごくかわいいことがわかった。


しかも、すごくやさしい笑顔だ。


見ていると、なぜかわからないけどあんしんする。


なんて言ったらいいかわからないけど、心のおくがあったかくなるような気分だ。


「……」


目があつくなるのをかんじる。


それを隠すために、ごはんをくちにはこんだ。


おいしい。すごくおいしい。


そういえば、きのうはごはんをたべてなかった。


わたしは、お腹がすいたことに気づかないぐらい疲れていたのかもしれない。


あぁ……あったかい。


すごくあたたかい。


村のみんながいなくなったときから、もう一生味わえないんだろうとおもってた。


そんな、あたたかいきもち。


このきもちをくれたながみに、ちゃんとお礼しなきゃいけない。


でも、今は……


今は……そのあたたかいきもちとおいしいごはんを味わいながら、気がつけば私は、ゆっくりと眠りにおちていくのだった。



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