城塞都市ハーゲン
鬱蒼とした森の中からヨロヨロと草を掻き分けて街道に姿を現した一団が居た。
街道に出るなりパタパタと先頭から順に逆ドミノ倒しみたいに倒れて行く一団。
よく見ると少々……いや、かなり薄汚れているが、見た目麗しい少女達が5人。
街道に出たとはいえ盗賊にでも見つかれば、陵辱され尽くした挙げ句に奴隷商人に売り飛ばされてもおかしくない容姿をした少女達だった。
唯、彼女達の倒れた場所は城塞都市の門から少し離れただけの目と鼻の先とも言える拓けた場所だった。
運が良いのか倒れた少女達を見つけた門番が中に声を掛けた直後に、中から数人の兵士が駆け付け彼女達の身柄を手厚く保護して門の中へと運び込む。
「良く頑張った。何があったか知らないが、もう大丈夫だ。」
少女の一人が薄っすらと目を開けるが、再び気絶した様で反応が無い。
一体何が有ったのか兵士達には解らない。しかし、此処までボロボロになり辿り着いたのだ、今はゆっくりと休ませてやろうと門の隣に併設されている救護所へ運び込んだ。
「ん……ここは?」
「目が覚めたか?此処は城塞都市ハーゲンの救援所だ。」
辺りを見てみると部屋の中には六台のベッドが並んでおり、向かい側3台には桃子、柚子、林檎が寝かされて居るようだ。
自分のベッドが真ん中で左の窓側のベッドには蜜柑が幸せそうに涎を垂らして寝ている。年頃の乙女として男性には見せてはイケない程のだらしない寝姿なのは如何な物だろうか。
けど、数日を一緒に過ごした仲である、健康そうな寝姿に心の底からホッとする思いだ。
「どうやら助けて頂いたようですね。有り難う御座います。」
「命は助かったが、無事かどうかの判断はまだはやいぞ。」
「どう言う意味でしょうか?」
兵士の不穏な言葉に目付きを鋭くする。しかし、兵士は笑いながら手をパタパタ振りながら告げて来る。
「ははは、いや済まない。脅かす積りは無かったんだ。単純に入街審査を受けて貰わなければならないってだけさ。それに、そんな可愛い顔で凄まれても効果無いと思うけどねぇ。」
言われて今の自分の顔の状態を再確認する。確かに目付きは鋭くなっているのだろうが、同時に両のホッペもパンパンに貼っているのだった。
部屋の入口を警護している若い兵士さんも笑いを堪えるのに必死な様子。
いや、完全に笑っているな、声に出さずに笑っている。中々器用な真似をするが、救けて貰った手前我慢のしどころだろう。
「さて、腹は減ってないか?粗末ではあるが、スープとパン位なら御馳走しよう。」
「あ、有り難う御座います。」
すると、モゾモゾと桃子達が目を覚まし始めた。皆さん、このタイミングで目を覚ますのは乙女としてどうかと思いますよ。
兵士さんも笑いながら若手の兵士さんに五人分の食事を用意する様に指示を出している。
食事も終わって隣の門番詰所に通された。
「さあ、この石版に手を乗せてくれ。」
「此れは何ですか?」
「おいおい、此れを知らないのか?どんな田舎からやって来たんだ。こいつは賞罰検査版だよ。聞いた事位あるだろう?」
「あぁ、此れが……。実物は初めて観ました。」
曖昧に笑顔で答えておく。確か召喚されて変態王子に連れて行かれた後に桃子さん達が司祭の人から情報を聞き出していたのを森の道中に聞かされていた。
「うんうん、分かったなら順に手を置いてくれ。」
結論から言うと全員賞罰無しだった。当然だが、異世界に来て初めての街に着いて賞罰がある訳が無い。
入街には一人に付き大銅貨一枚が必要だそうだが、事情込みで仮身分証の発行してくれ、明日の夕刻迄に冒険者ギルド、商人ギルド、魔術士ギルド、生産ギルドの何れかに登録して西門に戻って仮身分証を返却する様に言われた。
此れは魔物や盗賊等に襲われた人達への救済措置であり、大銅貨一枚を惜しんで踏み倒す人はまず居ないそうで、各ギルドで簡単な雑用を一日こなせば簡単に稼げる金額らしい。
早速ギルドへ登録に向かう所で意見が別れた。
それは僕の登録先だ。
「歩、私等は冒険者ギルドに登録しようと思うが、歩は生産ギルドか商人ギルドに登録するのが良いと思う。」
「………え?」
「正直歩は戦闘に関する能力を持ち合わせてはいない。必然的に生産職か商売人として仕事をするしか無いと思うぞ。」
頭をガツンと殴られた様な気分だった。此処まで一緒に行動して来たのだから、此れからも一緒に居られると思い込んでいた。
「歩、そんな捨てられた仔犬みたいな顔をするなよ。適材適所だってたけだよ。
何なら今すぐ結婚して専業主夫してくれても良いんだぞ!」
桃子さん狙いはそこですか?僕を飼い殺しにしてなし崩し的に結婚しようとしてます?あぁダメです、抱き締められると胸が顔に……あぶぶムゴムゴ……くっい、息が……あぁ意識が。
「姉さん姉さん、そろそろ歩っちが文字通り昇天しちゃいますよ。」
「え?あぁ歩ゴメン!生きてるか?まだ生きてるか?」
「良いんじゃないっすか?息はしてるし、幸せそうに気絶してるし……ちっ。」
蜜柑が恨めしそうに自分の胸をポフポフしながら舌打ちする。
仕方ないじゃん、物凄く柔らかかったんだから。




