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僕は聖女じゃありません!  作者: 神内 焔
第一章   異世界生活の始まり。
8/10

ドリアード





 ー翌朝ー




 ムクリと起き上がり辺りを見回す。草で寝床を拵えたとはいえ、やはり自宅のベッドの様に快適な寝心地とは行かないようだ。

 身体のあちこちが痛いのを解し、少しずつ頭が覚醒していくのを感じる。此れが家であれば目覚めにコーヒーの一杯でも飲めば直ぐにでも意識はハッキリして来るのだが。残念ながら砂糖とミルク無しでは飲めないので、大人の様な格好良さは程遠いと思う。


 改めて辺りを見てみると自分に腕枕をして優しく抱きしめて寝ている桃子が隣で寝ている。

 予想はしていたものの、予想通り隣まで移動して抱き付いて寝ていたらしい。予想通り過ぎて驚きすら無かった。

 「全く、桃子さんはどんだけ僕の事が好きなんだか……何もされてないよね?」


 衣服は多少皺が付いているが、脱がされた形跡も無く寝た時のままであると確認出来る。

 「普通こんな心配は女性がするもんなんだけどな。」


反対側を見ると、蜜柑が申し訳程度に服の端を掴んで寝ている。その先には柚子が寝ている。

 少し離れた所で木に持たれ掛かり林檎が寝ていた。


 「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 「何だよ歩、朝っぱらから騒がしくしたら近所迷惑だろ。良いからもうちょっと寝てろよ。」

 ムニャムニャと言う擬音がしそうな仕草で桃子が起きて?嗜める。


 「良いからじゃないですよ!見張りは?何で全員寝ているんですか!」

 あっと気付いた様に桃子がガバっと起き上がり、キョロキョロと辺りを見回した後ニヘラと笑顔で謝罪して来た。

 「悪い悪い、歩があまりにも可愛い寝顔で寝てるからちっと魔が指しちまった。」

 謝罪に全く反省が無いが、今は全員の無事を確かめるのが先だ。


 「あら、起きたのですね。」

 仲間の誰でもない声に振り向く。

 「誰?」

 返事をしている時点で歩も警戒心が足りてないとは誰も突っ込まない。

 「おはようございます。私は森の精霊、人々の中にはドリアードと呼ぶ方も居りますね。」

 「そのドリアードさんが何の御用でしょう?」

 警戒心を途切れさせない様に話を聞く傍らで桃子に全員を起こす様に頼む。

 「あらあら、警戒させてしまったかしら?大丈夫です、私は一言お礼に参っただけですので。」

 「お礼?」

 「はい、昨夜トレントに大変栄養素豊かなポーションを分けて下さったのは貴方方で間違い無いと思いますが?」

 ポーション……植物用栄養剤か!確かに枝を切ったお詫びに栄養剤をあげた。

 しかし、それでドリアードが出てくる理由が理解出来ない。

 「確かに植物用栄養剤をトレントに渡したのは僕ですが、そんなにお礼を言われる程の事でも無い気がしますが?」

 ドリアードがニコリと笑顔になる。

 「いいえ、貴方には心当たりが無くても私には大いに感謝すべき事なのです。」


 何でも昨夜のトレントの中で長い間眠っていたらしい。本来なら後十数年は目覚めない筈だったのを栄養剤のお陰で目覚める事が出来た。

 理屈は解らないけど栄養剤が役に立ったのなら良かった。

 「正直この森に逃げ込んだは良い物の、何時復活出来るか分からなかったので本当に助かりました。」

 此処まで話を聞いて僕はもしかしたら大変な存在を復活させてしまったのではないかと焦りを覚える。

 他の皆は"ほぉ〜"とか"へぇ"等と相槌を打っているけど、少しどころか物凄く呑気過ぎるんじゃ無いですかねぇ?


 「何だよ歩まだ警戒してるのか?ドリアードなら大丈夫だ。私等は年中喧嘩してたせいか、根性の腐った奴かどうかは感覚で分かるんだよ。」

 「ダーリンは安心していい……剣士も相手の性質を見極めるのは基本。彼女は邪な者では無いと断言出来る。」

 「私には分からないっすけど、このお姉さんからは嫌な感じはしないっすよ。」

 「大丈夫よ蜜柑、其処まで分かるなら貴方の見る目も養われているわ。歩さん、人を騙し理を得ようとする者は大抵目が濁っている物です。彼女なら大丈夫と断言出来ますわ。」


 皆は凄い。確かに彼女からは嫌な感じはしないけど、僕は其処まで断言出来る程の確証は得られない。

 トレントと相対した時も襲われない様に必死だった。結果としてトレントとコミュニケーションを取る事は出来たけど、襲われる可能性も皆無じゃなかったと思っていた。

 「皆凄いです。僕には其処まで断言出来ませんでした。」

 ションボリしている僕の頭を撫でてドリアードは弁明してくれた。

 「それは貴方が彼女達の安全を第一に考えているからですよ。トレントにしてくれた事といい、貴方は本当に優しい人なのですね。」

 ドリアードの言葉に見る目が無いのではない、責任感が強いのだと言って貰えた気がした。

 その言葉だけでも物凄く救われたのだと思える。彼女の言葉は何故か心の奥まで染み渡る様な不思議な感じがする。


 「寧ろ歩がトレントと意志の疎通が出来た事が不思議に思うぞ。」

 「え?そんなの簡単ですよ。相手の仕草や表情から何を言いたいのかどうして欲しいのか読み取るんです。家には猫を飼っているので何となくは分かるんですよ。」


 何故か皆は微妙な顔で僕を見ている。

 「ま、まぁ歩だしな。」

 「歩さん、それがどれだけ凄い事か理解していますの?」

 「猫好きなら大抵の人が出来ると思いますよ?」

 「あのな、大抵の奴は猫と意志の疎通が出来ている気でいるだけで、実際には何も出来ていないんだよ。」

 「え、そうなんですか?そう言えば、うちの親も"お前は猫と会話出来るのか?"とよくビックリしてますが……そんな訳が無いのにねぇ。」

 あはは…と困った顔をしてみるが、皆の表情は微妙だった。

 「それはあれっすか?猫は言語を介さないとか言うやつっすか?」

 「そうですよ、猫には言語は有りません。人間と違って表情、行動、仕草で何を考えてるか、何をして欲しいか表現するんです。」

 「それで猫の考えている事が解るなら凄い事じゃ……寧ろ研究対象にも……いいえ、もしかしたらノーベル……ブツブツ。」

 あれ?柚子さんが思考の坩堝に突入したような?


 パンパンと手を叩きドリアードさんが皆の意識を現実に戻す。

 「話が進まないのでその話はまた今度にして頂けると助かります。

 用件はお礼に貴方方に加護を授けたいと思っての事です。色々と脱線し過ぎて用件を忘れる所でした。

 ステータスを見て頂けたら既に加護が付いているのを確認出来ると思います。

 あって邪魔になる物では無いので受け取って頂けると嬉しいです。」

 「加護ってよく分からねぇんだけど、何か良い事あるのか?」

 「そうですね、私の加護は森の加護ですから森の中を平地と同じ様に歩けたり、欲しいと思っている草やキノコなんかの群生地に遭遇し易くなったり、要は森の恵みが得易くなる程度ですかね。」


 それって凄い事じゃ……希少な薬草やキノコ、素材何かが簡単に手に入るって事じゃないか?

 「有り難う御座います!凄く助かります。これで森から抜けるまで飢えから開放されます。」

 「逆に無意味に森を傷付けたりすると、加護が消えますから気を付けて下さいね。」

 「はい、分かりました。」

 「では、私の用件は終わりです。旅のご無事をお祈り致します。この度は本当に有り難う御座いました。」

 そう言うとドリアードさんは消える様に姿が薄くなり見えなくなった。




 「はぁ〜凄い体験しましたね。」

 「だよな!私等も初めて見た時はビックリしたぜ。」

 あれ?何か微妙にニュアンスが違うような?

 「今が初めて遭遇したのでは?」

 「いんや、夜中に見張りしてる時に話しかけられてな、見張りは任せて大丈夫だから寝てて良いって言ってくれたんだよ。

 何でも結界とか言う物を張って魔物を寄せ付けないでくれるからって、いや〜助かった助かった。」


 「な、な、何で?見張り中に寝ちゃったみたいな事言ってませんでしたか?」

 「そうだったか?私は歩を腕枕してホッペにチュッチュしながら寝た事を侘びたつもりだったけどな。」

 桃子さんは悪戯が成功した子供の様な笑顔を浮かべる。

 「な、な、な、何してるんですかぁぁぁぁぁぁ!」


 森の中に顔を真っ赤にした僕の叫びが木霊した。





仕事忙しいです。

こんな事なら正月休みにもっと更新したかった。

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