8話 素質
「師匠!」
そう、僕は師匠に言いたい事がある。
「何でしょうか?」
それは……
「修行がしたいです!」
修行したい! ということである。
朝食を採ってから師匠は自分の部屋に戻り僕の事はほったらかしだ。これはさすがにあんまりじゃないだろうか。
「あぁ、そういうことですか、ちょうど良い時に来ましたね」
ちょうど良い時?
「実は、これを探していたんですよ。もう何百年も使ってなくて。探すのに時間がかかりました」
そう言って師匠が取り出したのはオーブの様なもの。
「それは何ですか?」
僕がそう聞くと師匠はハッキリとこう言った。
「素質鑑定用魔術オーブですよ」
何だって?
「師匠、それは僕にはいらなーーーーーー」
「チッチッチ、シュンくんが使われた魔術と今から使う魔術は全く別のもので、鑑定する所も別ですよ」
「え?」
思わず声に出てしまう。
「職業以外に鑑定すべき所なんてあるんですか?」
「えぇ、ありますよ。職業と同じくらい大事な所が」
職業と同じくらい!?
「それは、どこなんでしょうか」
「さっき言いましたよ、今からやるのは、素質鑑定用魔術オーブを使った鑑定です」
「素質? それは何ですか?」
「素質とは、魔術、武術の各属性、武器への適正を10段階に分けたものです。適正が高ければ高いほど、技を安定して使うことができ、魔術なら魔力、武術なら体力をより少ない消費で打つことができ、威力、速度を高めることができるんですよ」
「ん? それじゃあ職業と被りませんか?」
「はい、少し似ているところもありますが、ちゃんと違いますよ。例えば、職業には職業スキルという各職業を極めた人にのみ使える技がありますし、素質には成長速度が上がるという魅力があります」
職業がなかった僕にとって悪魔の誘惑にも匹敵するほどの魅力的な話だった。
「早く、早く僕の素質を鑑定してください!」
「はい、ではこれに触れてくださいね。」
いきなりこんな重要なことをすると思っていなかったため、恐る恐る怪しげなオーブに触れると、皇城で鑑定してもらった時と同じように僕の体が光りだす。
「はい、おっけーです。シュンくんの素質が分かりました」
体が火照ってきた。心臓がドクンドクンと鼓動を鳴らす。全身から汗が流れ、足は小刻みに震える。
こんなに緊張したのはいつぶりだろうか。
「シュンくん、魔術と武術、どっちから聞きたいですか?」
僕は少し考えた後、震える声で
「ま、魔術でお願いします」
と言う。これは仕方のないことだろう。日本で暮らしていた僕には、魔術の方がカッコいい!っていうイメージが根付いているのだ。、
「良いでしょう。シュンくんの魔術適正は、基本属性の火、水、風、土と、希少属性である光、闇が、全て10。固有属性もあるっぽいけど、このオーブじゃあ読み取れないみたいです。」
おぉ、何か凄そうだ!
「続いて武術適正ですね。刀と拳が10、剣が7、弓が5、盾が3。以上です。」
あれ? 魔術に比べると控えめだなぁ。
「師匠、これってすごいんでしょうか?」
「えぇ! えぇ! えぇ! まさかここまでだとは思っていませんでしたよ! 10なんて1つでもあれば英雄になれる可能性が出てくるんですよ? そして、初代英雄様に届くは最低限5個の10が必要と言われていたのですがーーーーシュンくんは8個ですよ! 凄いです!」
おぉ! もしかして、この力を磨けば、聖勇者である健も……
「ありがとうございます! なんか自信が出てきました。」
「シュンくん、ちょっとこちらへ」
僕の言葉を完全無視しながら師匠は僕を庭へ連れ出す。
なんか師匠が変になったぞ!
「シュンくん、あの木に向かって魔術を放ってください」
え?
「僕はまだ魔術を習ってないので使えないかと」
「使えます! 使えないと思うからいけないんです。イメージしてください! そうですねぇ、まずは自分の上に無数の火矢が浮かんでいるのを!」
む、無茶苦茶だぁ! でもーーーー
「わ、分かりました」
目を閉じ、意識を落としていく。そしてイメージする、自分の上に浮かぶ火の矢を。魔力を火力に変換する感覚を。
思い出せ! 師匠が放ったあの一撃を、魔物を貫き殺した灼熱の矢を!
その瞬間、膨大なイメージが流れ込んできた。確証はないが、自分の魂から。魂が教えてくれる、魔術の使い方を。魂が教えてくれる、武術の使い方を。魂が教えてくれる、師匠のいじり方を。
1つだけ変なのが混じっていたが、魂が僕にいろんなことを教えてくれた。だが、それと同時に分かったことがある。
僕は弱い。
今までは師匠と圧倒的な差があったので師匠の力を全く分かっていなかったが、少しだけ魔術の使い方を知り、少しだけ武術の使い方を知り、師匠のいじり方をマスターした僕には師匠の凄さがひしひしと伝わってくる。
もっと頑張らないとな、と思う。そして、まずは手始めに後ろで見ている師匠をあっと言わせよう!とも思う。
だから!
「火矢ッッッ!!!」
僕の上に50本位の火矢が浮かぶ。師匠より全然少ない。けど、
「凄いです! 凄いです! 凄いです! そのまま放ってくださぁい!」
師匠は光悦とした表情で叫んでいる。なんかヤバイ物を見た気分になった……じゃないじゃない! 課された課題はきっちりやる。それが弟子ってもんだぜ!
「穿てッッッ!!!」
ドドドドドドドド!!!!!!
木に僕の放った火矢が突き刺さり、やがて木は………灰になった。森、大丈夫かなぁ、燃え移ったりしないかなぁ、って! その前に、
「師匠、どうでし……た、か……?」
「しゅごいでしゅう! シュンくんぅ! 」
師匠が大丈夫じゃなかった。どうしよう、なんだか師匠が抱きついてきている。僕も健全なる男子な訳で、そういうのはちょっときついかなぁって……
僕は急いで先程マスターした師匠のいじり方に師匠が発情した場合の対処法がないか思い出す。すると方法が3つ出てきた。
1 師匠の耳を甘噛み → しばかれる
却下!論外! 破廉恥! はい、次!
2 師匠の耳元でピーーーーーー(自主規制)、と囁く→しばかれる
却下! 論外! 破廉恥! 僕の魂はエロのことしか考えてないんじゃないか? 次!
3 師匠の頭を撫でる→照れられる
決定! 即決! 最高! 僕の魂よ、悪いことを言ってごめんな、大好きだぞ!
ということで、行くぞ!と、思うのだが、なかなかタイミングが見つからない。
「シュンくんのモノすごいぃ! もっとほしぃですぅ! 」
シュンくんのモノ(魔術)すごいぃ! もっと(見せて)ほしぃですぅ! (指導のために)っていう意味ですよね? そうですよね? 異論は認めません。
あぁもう!仕方ないなぁ。い、いくぞ!
ナデナデ ナデナデ ナデナデ
すると師匠の呆けていた顔に理性が戻り始め、顔が真っ赤に染まっていく。
「ふ、ふぇぇぇぇぇぇ?シュ、シュンくん、恥ずかしいですぅ!」
全く。
「師匠、さっきの事覚えてます?」
コクコク
「なんであんなになったんですか?」
「シュンくんの魔術に興奮しちゃって……でも、シュンくんすごいです!始めてで詠唱も教えてないのに魔術を使うなんて!」
魔術に興奮って……
「きっとかの聖勇者よりもずっと強くなれますよ! 私が保証します」
その瞬間、他の事がどうでもよくなった。健に勝てる、その言葉だけで。
「もっと魔術の練習をしましょう! 時間は有限、ですよ!」
僕は絶対に、健に勝つ!
「はい!」