7話 師匠の料理
夢を見ていた。
僕は辺境にある騎士の家に生まれた。僕は幼い頃から兄に劣等感を持っていて、いつか見返してやろうと修行に励んでいた。
でも、兄が嫌いだった訳じゃない。ライバルとしての兄は倒すべき相手だけど、家族としての兄は好きだった。
とても温かい家庭だった。でも、それはすぐに壊れた。温めすぎたガラスみたいに。
ある日、父が死んだ。戦場で魔王に殺された。悲しかった。悔しかった。だからより一層修行に励んだ。
そのうち、俺は修行の事しか考えなくなっていた。修行に熱中すればするほど感情がなくなっていった。楽になっていった。
そして、強くなっていった。感情が磨り減って、俺の精神が悲鳴をあげればあげるほど、俺は強くなっていった。
気付いたら、兄は弱くなっていた。とても弱くなっていた。片手で相手が出来るくらいに。
兄は家を出ていった。母もそれに着いていった。最後に「化け物」と言われた。何も感じなかった。
それからは更に訓練に没頭した。寝る間も惜しんで訓練した。強くなっていった。更に強くなっていった。
強者を求めて、皇国で行われた武闘会に参加した。服装のせいで孤児と間違われた。別にどうでも良かった。
自分の前の試合を見て、落胆した。なんでここまでレベルの低い武闘会にここまで人が集まるんだろうと思った。
案の定、優勝した。俺を馬鹿にしたやつは俺に頭を踏みつけられていた。
王に近衛騎士にならないかと誘われた。昔の夢だった。だが断った。こんなにレベルの低い場所にいる必要はないと思った。
魔の森に家を建てた。ここなら国からの嫌がらせは受けないし、レベルの高い魔物がいると思った。
それは正しかった。魔の森は良い環境だった。あの少女が来るまでは。
奴は唐突に現れた。近くの村で飢饉が起こり、口減らしとして捨てられたらしい。ひどく汚れていた。奴も家族に見限られたんだと思うと勝手に体が動き、助けていた。お互いに15才だった。
家事でもさせればいいと思って、やれと命じた。彼女は仕事を完璧にこなした。しかし余計なことも、同じくらいした。
時間になったら帰ってくるように言われた。飯はきちんと食べろと言われた。しっかり寝ろと言われた。
なんでそんなことをするのか聞いてみたら、
『では、アル様の今の自分の状態を考えても、同じことが言えますか?今の貴方の状態で訓練をしたとして、それが効率的なものになると本気で思いますか?』
と言われた。家族みたいだな、と思った。バラバラになっていたピースがくみあがっていく気がした
すっかり忘れていた。これが、思いやりなのか。
その日の夕食は、すこし塩味が強かった。
「おき…くだ…ーい!」
声が聞こえる。
「おき…くださーい!」
僕を呼んでいるのか?
「おきてくださーい!」
師匠だ!
僕はガバッと布団を投げて、そのまま師匠にダイビング土下座をキメた。
「すいませんっしたぁぁぁぁ!」
「別にいいですよ、疲れていたでしょうからね。」
(ヤベェ、師匠マジ天使!)
僕はそう思考を飛ばす。
すると師匠は腰をクネクネとさせて上機嫌になる。
あれ?僕、いつの間に読心術を克服したんだろう。ーーーーーーーーーーーーまぁ、そんなことはどうでもいいか。だって…………
「じゃあ、ご飯食べてもらいましょうかね。なんと、私の手料理です!師匠にもかなりの好評だったんですよ!」
今から師匠の手料理を食べられるんだもん!
いやぁ、本当に楽しみですなぁ。だって師匠だよ!師匠の手料理だよ!不味いわけないよね!
「はい!お召し上がれ!」
そう言って師匠が僕の前に差し出したのは、黒色のナニかであった。これを食べたら死ぬと、本能が言っている。
あれ?これって何かの冗談かな?
「あれぇ?唖然としちゃってぇ!そんなに美味しそうだっんですか?」
違う!チガウチガウチガウ!これ、マジモンや!なんてエセ関西弁が発動するほど僕は混乱していた。
早速、対読心術が役に立ったな。じゃないじゃない。ここは、なんとか打開策を……
「師匠、最後に料理したのはいつですか?」
「えぇ?普段は魔物肉を炙ってるだけだから、最後にちゃんとした料理をしたのはーーー200年前位ですね。」
師匠って何歳だよ!
って、ちぃがぁうぅだぁろぅ!こうなったら秘技だ!使いたくはなかったんだがな。致し方なし!
(師匠の料理食べたいなぁ、けどお腹減ってないなぁ、どうしようかなぁ(棒))
フッフッフッ、これでどうだ!
「シュンくんお腹減ってないんてますか?でも駄目です!ちゃんと体力つけなきゃ!お残しは許しまへんでぇ、ですよ!」
終わった。いや、まだだ!おれはこんなところで終われない!
「師匠!ちょっとお花を摘みに行ーーー」
と、逃げ出す。
「逃げるのですか?」
耳元で囁き声が聞こえた。そちらを向くと、
「私の料理、あんまりシュンくんの好みじゃなかったんですか?」
と、泣きそうな顔で呟く師匠がいた。このシュチュエーョン何回目だよ!と、心の中で叫ぶがもう遅い。僕の中で答えは出てしまっているのだから。
「そんなことないです。やっぱり花を摘みに行く前に師匠の料理を食べたいです!」
「そうなのですか?どうぞどうぞ!一杯食べてください!」
師匠のキラキラとした笑顔に対して悔しさの念を持つ。可愛いなちくしょう!
「では、いただきます。」
黒い色のナニかをスプーンですくい、口に運ぶ。どんな材料でつくったらこうなるんだよ!というような匂いだ。
その間も師匠は顔をキラキラさせながら僕を見守っている。ここでやめたら師匠、悲しむだろうな、と思うとやめられない。
もう覚悟は決めた。それを、口一杯に、頬張る!
すると、口の中にイケない味が広がっていく。うん、これはあかんやつだ。
しかしここまでやったのだ、と、なんとか自分を制し、飲み込む。
「どうですか?」
「お、美味しいですよ。」
「そうですか?よかったぁ、シュンくんのお口に合って、嬉しいです!是非もっと食べてください!」
うん、もういいや。と、やけになった僕はこのあと気絶するまで師匠の料理をたらふく食べさせられましたとさ。
修行してぇ!