3話 無能力者
え? ーーーー頭の中が一瞬真っ白になる。だって異世界召喚された奴は全員加護を持っているはずなんじゃないのか? おかしいじゃないか!
「大丈夫か、俊?」
いきなり現実に引き戻される
「あぁ、健、ちょっと現実逃避してただけ。でも、もう大丈夫だから。」
「そうか! それはよかった。加護がなくても、他の所で役に立てれば良いから、落ち込まないでな。」
うぅ、おれは本当に良い親友を持ったなーーーーそれはそれとして何だ! この刺すような鋭い視線は。シャーロットさんが僕の加護がないという鑑定結果を口にしてから騎士さんや魔術師さん達、おまけに王様からの視線がマジパネェんですけど!
何でだ? たぶんタイミング的に理由は十中八九俺の加護だろうけど、別に加護がなくても別の所で役に立て………あ! ここで僕の脳内に先程あった王様とのやり取りの一部が浮かんだ。
『この世界ではほとんどのことが職業によって決まるのだ』
うん、始まって早々僕の異世界ライフは終わりを告げようとしているようだ。
やばい、これからどうしよう! いや、まて、この世界ではほとんどのことが職業によって決まる。
しかしそれは裏を返せば一部のことは努力でカバーできるということだ。
よし。明日から誰よりも頑張っていこう!
何て都合の良いことになるわけもなく、
「カゲカワ殿、支度金を渡すので今すぐ出ていってくれないか?」
まぁ、そうなるよな。あんなに睨んできてたんだからこうならない方がおかしいよな。でもどうせ蔑んだ目で見られるのなら中年の王様じゃなくて若い女王様がいいなーーと、考える。
「それはかわいそうです、俊もいきなりこの世界に召喚されて心細いし皆と一緒にいたいはず。なので俊もここにおいてやってください! 皆もそう思うよな!」
「そ、そうね……成績上位者は下の者を守るものが仕事だから……」
「ま、まぁ、そうだね、私もそう思うなぁ……ところで健くん! 夜のベットに私を置いてくれない?イイコトし、て、あ、げ、る!」
「このヤり○ンが! シュンの話は、まぁ、そうだな、うん! それで良いと思う。」
「まぁ、そうだな。いいんじゃね?」
健……お前達……
「う、うむ、そうか! 分かったぞ、ケン殿達の頼みとあらばシュン殿も他の者達と同じ扱いをしよう。」
「ありがとうございます!」
皆には本当に感謝してもしきれない。それを噛み締めながらボーッとしていると、全員の鑑定が終わったようだった。結局加護無しは僕だけだ。本当に何がいけなかったんだろうか、
「では今日はひとまず解散だ。各自に部屋を用意させていただいたので翌日からの訓練に備えてごゆるりとお休みになられよ!」
王様の声が聞こえる。そうか、部屋に行かなきゃな。
この時点になっても王城の皆さんからの僕への視線は鋭いままだ。でも、まぁ、そのうち収まるだろう! ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーって思ってた時期が俺にもありました。あれから1ヶ月がたったが、一向に周囲の俺への態度は厳しいままだ。
努力はした。が、結果がついてこない。皆は努力した分だけ、いや、その何倍もの結果が帰ってくるのに、だ。
初日、王様が話してたことは間違いだ。この1ヶ月で確信した。この世界ではほとんどのことが職業で決まるのではなく、全てのことが職業によって決まるのだ。
努力の意味など全くないと分かった。だから僕は訓練に出なくなり、部屋へと引きこもるようになって、周囲の俺への態度はますます冷たくなっていった。
「これから、どうなっちゃうんだろうな。」
と、一人で呟く。俺っていつからこんな危険な奴になっちゃったんだろう。
コンコンコン
誰かが来たみたいだ、今は誰とも会いたくないのに。無能の自分が恥ずかしい、それで不貞腐れてる自分が恥ずかしい。こんな自分が恥ずかしい。こんな顔、誰にも見せられない。
「おーい、俺だ。健だ!開けてくれ!」
健か、今の俺は健のお陰で生き長らえているようなものだからな。いくら親友とはいえ愛想を尽かされたら俺の人生ごと終了だ。開けるしかない。
ガチャ
「何が用か?」
「いや、元気かなと思って。あと、今度遠征訓練があるんだ。お前もどうだ?皆心配していたんだぞ!」
遠征訓練か。僕なんかが行っても何にもならないだろうし、断ろ……
「まぁまて、今、断ろうとしただろ?」
何で分かったんだ!?
「お前、今度は『何で分かったんだ』って思っただろ?」
こいつは俺の考えていることをピンポイントで理解していた。そして日本での生活の中ではこういうことがなかった。ここまでくれば大体の想像はつく。つまりこいつは異世界に来てから何らかの能力を……まさか、読心術か!?
「その通り、よく分かったな。」
ーーそれで、なぜ俺なんかを誘いに来たんだ?
「心配だったからさ。他意はないよ。」
ーーでも、それでも俺は!
「まぁまて。まだ答えなくて良い。時間はたくさんあるからさ。俺、明日から毎日ここに来てその日あった事とか皆の様子とかを俊に話すよ。それで少しでも俊の気が晴れるとと信じてるぜ!」
まぁ、それくらいなら……
「ありがとう、よろしく頼むよ。」
「何で声に出していったんだ?」
何となくさ。
それから健は毎日僕の部屋を訪ね、その日起こったことを話してくれた。絵里さんは属性魔術師で、氷属性魔術が得意。恵さんは聖戦士で剣技が得意。正は魔戦士で拳技が得意。小太郎は魔法剣師で戦技全般が得意だそうだ。
他の皆もそれぞれ得意分野を見つけて、頑張っているみたいで、次第に僕の中でこのままで良いのか、という疑問が膨れ上がっていく。
そんなある日のことだ。
「それでさぁ、その時王様はこう言ったわけよ、」
「あのさぁ、」
「ん?なんだ?」
「俺、遠征訓練行くよ!」
俺がそう言うと健の顔がパァァと明るくなっていく。
「分かった。じゃ、明日だから準備の方済ませとけよ! いやぁ、にしても来てくれるか! 良かった良かった。」
へ? 明日!?そんなの聞いてないぞ!
「言ってないからな。いつかを確認しなかったお前が悪い。言質は取ったからな! いやぁ、楽しみだなぁ、明日、な?」
クソォォォォォォォッッッ!
こうして僕は、遠征訓練に行くことになった。しかし僕はこの時悔しすぎて目の前の健の顔が醜く歪んでいる事に気がついていなかった。顔をあげれば簡単に見えたもの、されど、それを見ていれば歴史は変わったかもしれないと、後の僕は語った。
「フフッ、本当に楽しみだよ、ねぇ、君もそうでしょ?俊?」