11話 騒動
「師匠、冒険者ギルドがここだなんて聞いてないですよ! というか僕はあいつらの手によって行方不明扱いになってるんでしょうから、僕を知っている人がいるここにいたらまずいんです。師匠には僕の過去を話したはずですが」
「それは……シュンくん、クラスメイトからの誤解を解いておきたいんじゃなかったんですか? 私なら皇国の勇者くらいシュンくんと会わせることができますしシュンくんは絶対に私が守りますよ。」
「今はまだ、早すぎるんですよ。あいつらは僕を追放した時、怒っていた。そして怒りという感情はなかなか薄れることはない感情なんです。そしてそれは僕にも当てはまる。今話す機会があったとして、僕はそれを行かせる自信がない。だからお互いに頭を冷やせるくらいの時間を置いて、会いたいんです」
「そう、ですか。そうですね。ついでに勇者さんたちと私の可愛い弟子を随分と可愛がって頂いた件についておはなししようと思っていたのですがそれはまた今度、シュンくんが覚悟を決めた時に自分でやってもらいましょうか」
「師匠、おはなしってどういう意味ですか?」
「さあ、どういう意味でしょう」
「はぐらかさないでください。」
「ーー早く皇都の中に入りましょうか」
「いや、だから!」
「ーーーー入りましょうか」
「ーーはい」
「よろしい」
師匠に手を引かれて外壁まで歩いていく。するとそこには鉄製の巨大な門があった。そこそこ人は並んでいるがどれくらい待てば入れるんだろうか、と考えていると
「そっちは平民用ですよ、シュンくん」
師匠がその横にある無駄に飾り付けられた金ピカの門に僕を引っ張っていく。そっちの門には誰も居なくて、なんか行ったら駄目な雰囲気がぷんぷんするし、大丈夫なんだろうかと横目に師匠を見ると堂々と歩いている。
も、もしかして師匠はこの門を実力行使で突破しようとーーーーいやいや流石にそれはないか。ないだろう。ないよね? あれ? だんだん不安になってきた。
そんな事を考えていると衛兵が一人走ってくる。
「貴女方は貴族様であらせられますか?」
「いいえ、貴族ではありませんが」
「止まれ、ここは貴族様方専用の門だぞ!」
物凄い変わり身だな。師匠が貴族ではないと答えた瞬間包み隠さない嫌らしい目線を師匠に向け始めた。
「あら、ここは貴族しか通れないのですか? 」
「そうだ、そしてお前らは貴族でないのにこの門を通ろうとした。これは不敬罪にあたる。女、お前はかなりの上玉だ。だから俺達の奴隷にしてやろう。本当なら死刑もあり得るのだが、そうしたら許してやろう。そちらの男もな。大丈夫、優しくしてやるよ。最初のうちは、な。ギャハハ」
「死刑? 私刑の間違いではないですか? そういうのは是非とも遠慮させて頂きたいですね」
「なんだとぉ!? お前が何と言おうとこの事実は変わらん! さぁ、今晩はたっぷりと楽しませて貰おうか」
「おいおい、ちゃんと俺達にも回してくれよ?」
「分かってるって、安心しろ」
衛兵達が下衆な顔でこちらに迫ってくる。
「キャー、シュンくん助けて下さい」
「ヘッヘッへ、そんなヒョロい男に頼っても無駄だぜ?こちらは三大国のひとつであるカテドラル皇国だぞ、指名手配されたら一生逃亡生活になること請け合いだぜ? まぁ、そもそもここから逃げられれば、の話だがなぁ」
その瞬間、世界が凍りついた。師匠から放たれる威圧感がこの場を支配する。
「今、シュンくんの悪口を言いましたね?」
「な、何が悪いんだよ、こんなヒョロい男の悪口を言ったところでよぉ。調子に乗ってんじゃねぇぞ、このアマが! これはお仕置きが必要のようだなぁ」
「この下衆が。基本全属性複合魔術虹矢」
師匠が冷たい声で淡々と魔術を詠唱すると基本属性の全ての矢が衛兵達に突き刺さーーらなかった。
その代わり衛兵達は一人残らず失神していて、その周りの地形は大幅に崩れていた。
しばらくの間、沈黙が流れる。すると師匠が魔術で地形をもとに戻す。
「シュンくんに心労をかけたくないので失神で済ませましたが、あぁムカつきます! どこかに奴隷にされそうになって心に傷を負ったか弱い女の子を優しくなでなでしてくれるシュンくんはいないものですかねぇ」
「ーーか弱いって……」
「何か?」
今、一瞬さっき以上の殺気を感じた。さっきだけに、なんちって。なんて言っている場合ではなくなってきた。さっきの衝撃から少し経っているが、なんだか門の向こう側が騒がしい気がする。
「いえ、別に。で、師匠大丈夫なんですか? 騒がしいみたいですけど。」
「それは大丈夫です。確かに壁の向こうには軍が集結しつつありますけど、指揮官が余程のアホでない限り敵対行動はとってきませんよ。」
「そ、そうなんですか? まぁ師匠がそう言うのならいいんですけど」
「それでシュンくん、私の頭を撫でて下さい」
「はぁ、わかりましたよ」
僕がそう言って師匠の頭に手を伸ばしたその時、壊れた門からたくさんの兵士達が出てきて整列した。すると隊列の後ろから将軍らしき人物が出てきてーー
「この度は誠にすいませんっしたぁぁぁぁぁぁ」
ーースライディング土下座をキメた。
再び沈黙が流れる。そして先手を打ったのは、師匠だった。
「あら、私は奴隷にされるのではなかったのですか? 確かご主人様はお仕置きがなんとか、と言ってましたね。まぁ怖い」
「その件については私の預かり知らぬところで部下が大変失礼なことを致しました。誠に申し訳ございませんでした」
「……」
「20でどうでしょう」
「……」
「25」
「……」
「30」
「貴方の誠意はその程度なんですか?」
「……50、これ以上は無理です。私の権限で動かせる金額じゃありません」
「いいでしょう。今日はとても良い日ですね」
「え、えぇ。そうですね、支払いは後程。」
「じゃあ、私は貴族ではないですがこちらの門から入ってよろしいですね?」
「はい、いらっしゃいませ。英雄エレノア様」