10話 冒険者ギルドへ
あれから半年が経った。相変わらず師匠は魔術フェチで変態だけど、変わったこともある。
まずは光剣を顕現させても倒れなくなった事だ。最近は2本までなら振り回せるようになってきたが、それをするとだいたい10分で魔力を吸い尽くされて倒れてしまうので諸刃の刃だ。
といっても希少属性魔術の超絶級である光剣はなんとか到達者相手に時間稼ぎくらいはできる強さ、とのこと。逆に到達者相手だと時間稼ぎしかできないとは情けない限りである。
しかし師匠曰く
『到達者を相手取るには到達者でないと話にならないっていうのは常識ですしそんなに落ち込むことはないです。到達者は扉の向う、つまり生物の限界を超えた先に至った者の事です。その到達者相手に時間稼ぎできる人なんてシュンくんくらいしかいないです!』
らしい。
次に、基本属性魔術と闇属性魔術が全て超絶級まで使えるようになったということだ。これで魔術はコンプだぜ! というわけでもなく、超絶級はまだ熟練度に伸び代があるらしいので、毎日血の滲むような訓練を行っている。特に闇属性魔術はまだ掴みの部分なので今後に期待である。
闇属性魔術がまだあまり進んでいない訳は師匠が言っていた通り基本属性魔術と希少属性魔術にある隔絶とした差であった。光属性魔術の方が上手く言っている理由は適正値が同じ10でも得手不得手はあるようで僕は光属性魔術の方が得意だったからだ。
神級だが、師匠が使えない! これで察してもらえると助かる。
最後に武術の訓練の開始である。魔術は師匠なりにある程度及第点まで達したようなので次は、ということである。師匠は魔術師なので武術では勝てるんじゃないか、と少し希望を抱いていたのだがその希望は師匠によって完膚なきまでに叩き潰された。(物理的に)
師匠はその華奢な体からは想像のできないような速度で僕を翻弄し、腹パンを連打してきた。その日は一日中悶え苦しんだのだが、やはり師匠は凄い、ということを再認識した。
『これくらいならいけるかなって思ったんですけど、やはり武術は手加減しにくいですね』
と言われたときは危うく手が出るところだった。まぁどうせ手が出ていても一瞬で倒されていたことは想像に難くないが。
そんな師匠に魔術と武術どっちが得意か聞くと、断然魔術! と即答された。自分でもなんでこんな無意味なことを聞いたのかはよくわからない。
もしかして魔術に加えて武術までフェチだったらーーと想像したことは否めないのだが。というか魔術&武術フェチとかキャラが濃すぎる。
そして、この半年で最大の進歩といえることがあった。それがーー
「シュンくん、どう? 美味しいですか?」
「超美味しいです!」
そう、師匠の料理が上手くなったのだ。実は師匠は○○年前まで(師匠の師匠が生きていた頃)は超の付くほど料理上手だったそうで、だんだん感覚を取り戻してきたらしい。
今では料理店で出しても遜色ないような料理が出てくるようになったのだ。あの状態から今の状態に持ってくるには僕の壮絶な努力があってこそだと自負している。
んー、やはりうまい!
とここで、聡い読者の諸君はお気づきだろうが、師匠の師匠はもう結構前に亡くなっていたそうだ。じゃあなんで僕に会えるなんで言ったんですかと聞いたが師匠はその時が来ればわかるの一点張り。
まぁ別にいいんだけどねっていう話である。僕が師匠の師匠に会いたいって言ったのは単純に興味本意だし、そこまで会いたいとは思っていないからな。
そして今日の僕はかなりご機嫌である。なぜかって? 実は今日は師匠が冒険者ギルドに僕を連れていってくれる日なのである。
ここに来てから1回も外に出ていなかった僕としては、外に出られるこの機会はとても貴重なものだ。
師匠が言うには冒険者ギルドというのは簡潔に説明すると魔物を討伐すればするほどランクが上がって給料も地位も名声もアップしていくシステムの組織であり、最高ランクであるSランクともなれば並の貴族以上、つまり上級貴族クラスの生活ができるそうで、平民が出世する数少ない方法の1つだそうだ。
しかしSランク冒険者は時期によるが大陸に10人いれば多い方だそうで、狭き門レベルじゃない競争率なためギルド内では派閥争い、蹴落とし合い、裏切り、吹聴当たり前の超ドロドロした状況が蔓延っているようだ。これを子供が知ったらどう思うやら。まぁ情報統制がしっかりしているからよっぽどの事じゃない限り大丈夫だそうだが。
「ご馳走さまでした。ところで今日は冒険者ギルドに行って何をするんですか?」
「お粗末さまでした。あぁ、その件ですね。先日私に依頼が来たのでそれを受注したのですがシュンくんも見学したら勉強になるかな、と思いまして」
「師匠は冒険者だったんですか? あんなに詳しいギルド内部の情報を知っていたからそうかなとは思っていましたが」
「えぇ。冒険者でもあります」
「じゃあ依頼っていつ受けたんですか? 師匠はずっとここにいたはずですが?」
「遠距離で通話できる魔道具があるんです。あとでシュンくんにもあげますね」
「軽いですね! ところでそれほどの魔道具のお値段って……」
「平民が一生遊んで暮らせる位、と言えばわかりやすいですかね」
「そんな貴重な物頂けません!」
「えぇ? 受け取って頂かないと困ります! シュンくんに万が一のことがあったら、私ーー」
「わ、分かりましたから! 受けとればいいんでしょ! だから泣かないでください」
ニヤリ
「それは良かったです。では早速行きましょうか」
「ウソ泣きですか! 卑怯ですよ師匠、っていうか支度はしなくていいんですか?」
「何を持っていく必要があるんですか? 手ぶらに決まっているでしょう!」
「そういえばこの人は魔術でほとんどの事を代用できるんだった」
「じゃ、行きますよ? 転移」
転移した先は巨大な壁に囲まれた街、皇都だった。