10.雲の立ち込める空の下で
夢の中の真ん中の柱時計の針が、一に向かって動き出している。
桐香は身動きすらとる事ができず、クルクルと音を立てて動く時計を見つめる事しかできない。以前は時計に触れる事ができたのに、今では右手も思うように動いてくれない。夢を見る度に右手が重くなってきているみたいだった。そもそも夢の中で体を自由に動かそうとする事自体おかしな事なのだろうけど……
一本しかない針がとうとう一に差し掛かる。それからどれくらいの時間を眠っていたのか分からないが、桐香はベッドの上ではっきりとした意識を取り戻す。目の前に映し出される自分の部屋の光景は、柱時計の夢から解放されたことを認識させてくれた。
「……」
目を覚ました桐香は、瞼を開けてから一分もしないうちにベッドから体を起き上がらせる。眠くはないのに、体が重い。日に日に実感する鉛のような体の重さが、今日は鋼のように感じられる日曜日の朝……
ふと窓の外を見ると、住宅が立ち並ぶその上空には灰色の雲が立ち込めている。改めて考えてみれば、ここ数日で快晴の日と曇天の日が交互に繰り返されている。いつにも増して体が重いのは、この不安定な気候のせいかと桐香は思う。
「痛っ……!」
ベッドの上で横座りをしていた桐香は、突然走った痛みに思わず右目に手を当てる。先週の火曜日に右目の下に負った傷が痛んだようだ。
桐香はあの日から何度か保健室に通い、右目の下の傷の手当てをしてもらっていた。眼球に関しては一晩で視力が回復したので問題はなかったが、目の下の傷は放っておくと膿が溜まるため、頻繁に手当てをしなければならないそうだ。
このまま二度寝をする気力すら起きない桐香はベッドから降りて洗面所に向かい、傷に触れないように慎重に洗顔をする。櫛で簡単に髪の手入れをした後、一階のキッチンに行き、冷蔵庫の扉を開く。牛乳のパックを手に取りマグカップに注ごうとしたが、カップ一杯分も入っていない事が分かり、パックのままその場でラッパ飲み。冷蔵庫内を探しても、ストックの牛乳は無い。
(また買いだめしなきゃ……でもこれ、どこに売ってるの?)
牛乳は今までは、桐香が純に頼んで買ってきてもらっていた。しかし純のいない今、いつもどこで買ってきているのかが分からない。
弟のありがたみが今更になって胸に響いた桐香は、深くため息を漏らす。
こんな曇り空の日は、一日中部屋に籠ってゲームでもしていたかったのだが、今日はそういうわけにはいかない。なぜなら理沙から誘われた、春宮雪乃のワンマンライブが本日だからだ。
桐香は一度断ったのだが、凪市出身のアーティストとはいえ次はいつこの街に来るか分からないから行った方がいいとしつこく唆されたので、押し負けてしまった。ミュージシャンもアイドルと同じように崇拝されてるのかな、なんて思ったりもしたが、ここ数日不調続きなので、騙されたと思って理沙の趣味に付き合う事にした。
待ち合わせ場所は桐香の自宅から最寄りの凪中央駅、集合時間は午後四時。
公演時間は午後六時からの三時間だが、理沙がこの後に行われる春宮とのハイタッチタイムに参加したいと言い出した。長蛇の列ができるので、終わるのが午後十時くらいになるらしい。だから理沙のわがままの代わりに、彼女が住んでいるアパートに一晩泊まらせてくれるとの事。純がいなくなり、心に拠り所の欲しい桐香は首を縦に振る事にしたのだった。
待ち合わせの時間までかなりあるので、桐香はダイニングでテレビのワイドショーをボーッと眺めたり、スマホの動画投稿サイトで春宮雪乃のミュージックビデオを見たりして時間を潰す事にした。
★
待ち合わせの時間の三十分前になったので、出かける準備をする。
洗面所の鏡の前で改めてメイクを施した後、大きめのナップサックに明日着ていく制服、着替えの下着、化粧品を詰め込む。そして自室に戻り、パジャマから着替えをする。今日着ていく服装は、黄色のポロシャツに黒のプリーツスカート。部屋の中にある姿見鏡で私服姿を映し出してみると、桐香がショートヘアーという事も相まって、自分ってボーイッシュなんだなとふと思った。
しばらくは常に眼帯を着けるようにと先生から言われているが、休日のお出かけの日にまでこれは着けて行きたくなかった。
ナップサックを肩にかけ、通学用の鞄を手に取って玄関でローファーを履く。自宅を出て扉に鍵をかけると、待ち合わせの駅まで足を急がせた。
伊豆半島の東側にある、海沿いに面した単線のローカル線路。その途中に凪中央駅はある。
凪市の中心部であるこの駅は、周囲に商店街が立ち並び、休日は特に賑わっている。タクシーやバス乗り場、観光案内所といった施設も完備しており、この街を観光で訪れた人々も不便を感じる事はないだろう。
駅に到着した桐香は雑踏をかき分け、待ち合わせした少女を探す。五分ほど駅周辺を歩き回っているとスマホにメッセージが届く。理沙からの駅のホームの前にいるというものだった。
三角形の屋根の特徴的な駅のホームの入り口に行くと、黒のポニーテールの少女がスマホを片手に柱に寄りかかっていた。髪型が変わっていたので一瞬話しかけるのをためらった桐香だったが、その見慣れた横顔を見て安心して声をかけた。
「理沙、お待たせ」
声をかけると、理沙はスマホから目を離して桐香の方を向く。
「おう、桐香」
返事をした理沙は会釈をした後、スマホをパンツのポケットにしまった。今日の理沙の服装は下は黒のクロップドパンツ、上はピンクのTシャツの上に青のパーカーを羽織り、左手にはビニール傘を携えている。
改めて理沙の私服を見てみると、桐香と負けず劣らずにボーイッシュだ。かつて友達のいなかった自分が理沙と気が合ったのは、ひょっとしたら服装の趣味の一致もあったのかもしれないと桐香は思う。
「ねえ、理沙。本当に当日券って買えるの?」
桐香は理沙に訝しみながら尋ねる。
「大丈夫だって。ネットで買えなかった人の事を考慮して、多分チケットはいくつかキープされてる、はず!」
「多分って……」
「それに、言い方は悪いけど春宮雪乃ってメジャーデビューして今日でようやく三年なんだ。要はまだ発展途上の状態。確かに最近知名度も上がってきたけど、国民的に有名かって言われればまだまだってところ。だからチケットもソールドアウトされるほどには知名度は上がっていないって事さ」
理沙が説明をするも、若干の不信感を抱きながら首を傾げる。
「じゃあ、もし買えなかったらどうするの」
「そしたら桐香に、ロックチャイムのビーフカレーパン、十個おごったげるよ」
「マジ!?」
桐香はあまりの嬉しさに飛び上がりそうになったが、他の通行人の目に憚られるのが嫌だったのでやめておいた。
ライブ会場に向かう二両編成の電車の中。桐香と理沙は混雑する車内の人ごみの中で、近くの手すりに捕まって、列車の揺れを堪えていた。基本的に一時間に一本しか運行していないので、それだけ乗客もまばらなのかと思いきや、本日が日曜日という事もあり、車内は子連れの若い男女でひしめき合っている。
乗客の隙間から時折のぞかせる車窓の向こうには、雨雲の立ち込める下に灰色の海が広がっている。今にも雨が降りそうな空模様のおかげで薄暗く、日没までまだ間があるというのに、車内には蛍光灯が灯っていた。
「春宮は雨女だ。本人もそれを自負している。彼女がこの街で行うライブの日には必ず雨が降るんだ」
窓の外の海を見ながら、理沙は嬉しそうに話す。その表情はまるで、雨の日に行うライブが当たり前になった安心感が、理沙の顔に表れたみたいだった。
目的の駅を降りて辺りを見渡すと、周囲には春宮雪乃のライブTシャツを着た人たちが散見されるようになる。それからしばらく歩くと、黒と黄色のコントラストで彩られた派手な建物が見えてくる。その入り口は、ライブを見に来た多くの観客でごった返していた。
「うわっ、おっきいね」
ライブハウスを目にした桐香は、高揚した気持ちを抑えながら言葉を放つ。
「桐香はここに来るのは初めてか?」
「うん。今までアーティストとか興味持ったこと、あんまりないから……」
桐香の発言を聞いた理沙は、「そうか」と返事をしただけで、それ以上言及をしなかった。桐香が脚光を浴びる者と支持をする者の関係を好ましく思っていない事は、理沙も理解していた。
「これから好きになっていけばいいさ」
「えっ?」
「人生何事も経験が大事ってもんだ。ほら、とっとと当日券を買いに行くぞ」
二人は広場の隅っこにあるチケット売り場に向かう。皆チケットを予約で購入したのか、チケット売り場に観客の姿はほとんど見られなかった。
本日のこのライブ会場は全てスタンディング席で、キャパシティは約三千人。前列がAからCブロック、真ん中の列がDからFブロック、そして後列がGからIブロックという配置になっている。
理沙が予め購入していたチケットは、演奏者が一番見えやすいBブロック指定になっていた。しかし当日券は演奏者が見えにくい後列の両端、即ちGブロックかIブロックのものしか販売していなかった。これでは二人散り散りで観覧をしなければならない。
「じゃあ、この子がGブロックのチケットを買うんで、あたしもGブロックに変えて下さい」
窓口の女性スタッフに向かって理沙が自身のチケットを差し出すと、スタッフは「ごめんなさいね」と詫びを入れてチケットを受け取る。そして変更後のチケットを発券するために、手元のパソコンを操作し始める。
「えっ、いいの? 見えにくくなっちゃうよ?」
「何言ってんだ。桐香と一緒に見なきゃ二人で来た意味ないじゃん?」
「でも、次いつこの街に来るか分からないのに見えないんじゃ――」
「ああ……ゴメン、ありゃ桐香をライブに誘うための嘘だ。実を言うとさ、春宮は頻繁にこの街でライブを行ってる。来月にも来るから、ぶっちゃけると割といつでも会えるって事だ。だから今回くらい見えにくい席でも別にいいって」
理沙は事もなげに語るものの、自分のために己を犠牲にする考えに桐香は納得いかなかった。理沙だって忙しい中、それ相応の金額を支払ってライブに足を運んでいるはずだ。それなのにあえて見えにくい席を選ぶなんて――親友にそんな事してほしくない。
桐香は鞄から小さなファイルを取り出し、その中から白い紙切れを一枚引っ張り出す。
「あのー」
窓口に向かって桐香が声をかける。申し訳なさそうな声に反応したスタッフが桐香の方を向く。
「どうしてもBブロックのチケット、無いんですか?」
「すみません。見やすい席のものは全て完売してしまっていて……」
「でも……一人くらい……小柄な私くらいが入るスペースって……あったりしませんかね?」
歯切れの悪い口調で話しながら、桐香は白い紙切れを窓口のカウンターに差し出す。スタッフは顔をしかめながら、白い紙切れをまじまじと見つめる。
「株式会社、藤森クロック……代表取締役……藤森幹也」
スタッフが紙切れに書かれている事を読み上げた後、目の前にいる桐香を見つめる。表情が一瞬にして驚愕を現したものへと変化する。
「あ、あなた……ここの会社の社長の……」
「はい、娘の桐香です」
名前を聞かされたスタッフは、再び手にした紙切れを目を見開きながら十秒ほど見つめた後――
「しょ、少々お待ちください……」
スタッフがオフィスの奥へと消えていく。
「おい、桐香。お前何したんだよ?」
隣にいた理沙も、表情に驚きを隠せないまま尋ねる。
「今見せたあれ……お父さんの名刺。いざという時に役に立つかなと思って常備してるの。以前お父さんと喧嘩した時、あまりにムカついてたから、名刺入れの中からこっそり一枚パクっておいた……」
してやったりと言いたそうな顔を浮かべた桐香の頬には、微かに冷や汗が浮かんでいる。
「それってもしかして、親の立場を利用したって事……?」
「うん。初めてやったけど……やっぱ罪悪感ってのが付きまとうわ……」
理沙に問い詰められると、桐香は静かに首を縦に振り、口元ににんまりと苦笑を浮かべる。目は笑っておらず、パチパチと瞬きを繰り返している。
「いや、でもさ、ここの会場と桐香の会社って何か接点あるの?」
「自慢じゃないけどさ、うちの会社、この街の公共施設の設立と改善に尽力してるんだよね。特にここみたいな大きな施設には、結構な寄付がされてるはず。だからきっとここの支配人の人は、お父さんと関わりがあるはずだよ。私の親は、金がないとか娘を育てるので精一杯と言ってるけど、本当は資産なんていくらでもあるはずなんだ。ただ、金持ちである事を鼻を高くして語りたくないんだと思う……」
桐香が話していると、スタッフが息を切らして窓口に戻ってきた。
「あの、ここの支配人はお宅の社長さんとコネがあるんです。娘さんがいらした事を伝えたら、一番見やすい席を用意しろと言われましたので……」
スタッフは名刺を桐香に返却すると同時に、二枚のチケットを窓口のカウンターに並べる。最前列のBブロックのチケットだ。
「社長の娘さんには、チケットを無料で差し上げます」
カウンターに差し出されたチケットを見て、桐香は「えっ!?」と驚愕の表情を顕わにし、スタッフの顔をうろたえながら見つめる。
「む、無料だなんてそんな! 元の金額を払います!」
桐香が首を横に振って否定をしても、スタッフは引き下がらない。
「これは支配人からの指示なんです。逆らったらわたしが怒られてしまいます」
「でも……」
「いいじゃん!」
戸惑う桐香に、理沙が横から話しかける。
「これは桐香の両親が努力で生み出した功績だろ? だったら遠慮せずに、貰えるもんは貰っときなよ。人の立場を妬んで貶めるような奴は器の小さい人間だと思ってさ」
理沙は妬むわけでもなく、嫌味を言うわけでもなく、笑みを浮かべながら桐香を見据えている。スタッフも同じく、桐香に向けて笑顔を見せていた。
「すいません……」
この言葉を何度も繰り返しながら、桐香は二枚のチケットを受け取り、片方を理沙に差し出した。
チケットを購入した二人は、紛失をしてしまわないようにしっかりと握りしめながら、会場前の広場で待機をする。
「桐香はこれ以降、ここに来れば即顔パスか~」
隣で並ぶ桐香に、理沙は何度もやっかみの言葉を投げかけていた。
空の雲が次第に濃くなっていき、遠くで雷の音が轟いたと思ったら、案の定雨が降り出した。理沙の予想通りだ。彼女はそれを見越して傘を持ってきていたので、二人で相合傘をして待った。
やがて会場のスタッフが何人か出てきて、訪れた客を場内に誘導し始める。二人の席は最前列だったので、比較的早めに場内に入る事ができた。
桐香と理沙は入ってすぐにあるエントランスのコインロッカーに、自分の手荷物を入れる。
「どうだ桐香? 春宮の今年のライブツアーのTシャツ!」
理沙が着ていた青のパーカーを脱ぐと、濃いピンク色の下地に白の桜らしき模様が散りばめられたデザインのTシャツが現れる。桜模様の中には、シルエットになった二匹の狐が駆け回っている姿が描かれている。可愛らしさを前面に出す感じではなく、美術館の絵画のようなアーティスティックな印象が感じられた。
「それって春をイメージしているデザインなの?」
「春だけじゃない。春宮雪乃の名前の中にある春と雪、この二文字を主題として、二つの季節が要り交っているイメージなんだよ。ほら、この白い桜、雪にも見えるだろ?」
「……確かに」
「雪は冬が過ぎれば溶けてなくなり、桜は春が過ぎれば散ってなくなる。この二つは時間が経てば無くなる物。今回のライブツアーは、そんな儚さをコンセプトにしてるんだ」
フフンと自慢げに話す理沙を見て、桐香は適当に相槌を打つ。
「そしてあたしのばあちゃんや春宮のじいちゃんだって……」
「……え?」
「……う、ううん! なんでもないよ!」
理沙の心の声として呟いたつもりが口から出てきてしまったので、桐香が反応しても首を左右に振って流す事にした。
理沙からライブ用のタオルを借りた後、二人は近くの売店でジンジャーエールを購入すると、いよいよホールへと入る。そしてステージに近いBブロックのスタンディング席へ。
早めに入場したので最初は観客がまばらだったのだが、ホール後方の入り口からぞろぞろと押し寄せてきて、三十分ほどで満員になってしまった。Bブロックは元々席が無かっただけの事もあり、手を伸ばせば他の観客にぶつかってしまうほどに人で詰め込まれていた。
桐香が辺りを見渡すと、春宮のライブTシャツを着た観客ばかりが目に入った。着ていないのは、親に連れられた小さな子供くらい。
売店で買っておけばよかったかな? と桐香は自分の服装を凝視していると、突然ホール内の照明が落とされ、会場は闇に包まれる。四方八方から聞こえていた観客の喧騒もピタッと止み、静寂が訪れる。
「いよいよだぞ……」
桐香の耳元で、青のパーカーを腰回りに巻いている理沙の声が囁かれる。桐香は他の観客と同じく、ステージの方角を仰ぎ見る。次の瞬間、豪快なドラムの音と共にステージに三本の光が降り注がれる。光の下には、三人のサポートメンバーらしき人物がそれぞれの楽器――ギター、ドラム、キーボードを演奏していた。
観客たちが音楽に合わせて、右手に携えていたタオルをクルクルと頭上で回していると、やがてステージの中央に一際大きな光が降り注がれる。その光の下には、夏の南国をイメージした衣装を身に着け、ピンク色のベースを掲げた春宮雪乃が姿を現す。
彼女が姿を現した瞬間、会場内からは歓声が上がり、「雪乃」の名が立つ続けに連呼される。
「凪市の皆さん、今日は遊びに来てくれてありがとうっ! 春宮雪乃デビュー三周年記念ワンマンライブ! 盛り上げていきましょうっ!」
春宮がマイクで叫ぶと、会場の歓声は更に勢いを増し、桐香の鼓膜を激しく刺激する。桐香が右手でタオルを振りながら隣に立つ親友を一瞥すると、普段は冷静な彼女には似つかわしくない興奮した表情で声援を送っている。理沙の春宮に対する愛が垣間見えた瞬間だった。
春宮を中心にステージでの演奏が繰り広げられると、観客が発する熱気はますます高まり、会場内はちょっとした蒸し風呂にも感じられた。春宮が演奏中にジェスチャーをすると、観客がそれに答えるように合いの手を入れる。何千もの人間が声を揃えるのだから、会場内には激しいエコーが響き渡る。春宮による煽りと観客による受け答えの繰り返しで、ライブは進んでいった。明るくてポップな曲、失恋を題材とした曲、テンポの速い疾走感のある曲、英語を多用した曲――春宮の演奏技術もさることながら、そのレパートリーの多様さに、桐香も舌を巻かざるを得なかった。