ーGravis meridiem: smaller;ー
ーー盆休みというのもあってか今日は少しだけ趣旨を変えて、亡くなってしまった"彼"の墓参りに行く事にした。
…とは言え世の中はまだ流行病による混乱は残っていたし、侑花の力も信者になった者のみに限られていたからか、其れ以外の人間には行使していない様だ。
ーー分け隔て無く行使すれば信者も爆発的に増やせるだろうに、と思ったが、そうしないのはジャンヌちゃんジャンヌちゃんと騒いで狂っている様子から大体は察せた。兎に角自分と自分が認めた仲間本意でやってるから他者の事など如何でも良いのだろう。
もしかしたら、もしかしたらにはなるが、力を行使するのにかなり負担が掛かる、或いは別の意図があって無闇に助けない算段という可能性はあるかもしれないが。
沙和はマスクをしっかり装着し、徹底的に消毒をする。出先でも消毒スプレーを欠かさない。…珍しく正常だった義父から墓参り用の花束を貰って、"彼"の眠る場所まで向かった。
ーー最初、外は30度を超えていたが、午後から少しだけ涼しくなったらしく何とかなりそうだ、と目的地に着いた沙和は墓を探して歩き始めた。
確かあの辺りだった筈…と霊園内の遠くの方を見て、其の場所を目指して歩く。
木陰の下を通り掛かった際、ふわりと長い白髪を風にたなびかせて沙和の隣を横切った。真っ白だった髪に一瞬だけ珍しいなと思ったが、顔を見ていないのでどんな人物だったのかは分からなかった。
後姿のみの限りだが、女性の様だ。全身黒ずくめな辺りから葬儀の後なのだろうか。
沙和の足元を見ると、青い花弁が落ちている。真新しい様子から先程横切った女性が落としてしまったのだろう。
其れから暫く歩いて、やっと"彼"の眠る墓を見付けた。
「ーー来たよ、■」
珍しい位綺麗になっていた為、従兄弟の一が一番早く来ていたのだろうと気付いた。此処まで丁寧なのは彼位しか居ない。
(あ…でも……誰か来ていたのか…)
もっとよく見ると供物の代わりに小さな青い花束が一束だけ置かれていた。花立では無く敢えて供物台の上に置いているのは花束の主なりの考えなのかもしれない。
(青い花……青い花弁………白い髪…)
青い花を見て先程の女性を思い出す。
(そう言えばたまにテレビに出てくるクロって人の後ろ姿に似ていたな…)
侑花がメディア露出する様になった際、彼女やdenden改め張程では無いが美亜やミズノ、ペケを筆頭にクロやAyu達も時折メディアに映る事があった。
或る時に見たクロの後姿と、先程の女性の後姿はとてもよく似ていたーー
「あの人……高村侑花と同じ様にうちのこ動画とか上げて一緒に乱痴気騒ぎに毎日興じてるし…もう彼女の立派な支持者みたいな人だもんね、流石に有り得ないか」
何を馬鹿げた考えを、と自分自身に呆れながら携えた花束を分けて花立に供える。ああでも一番乱痴気騒ぎで自慰行為に耽ってるのは高村侑花とdendenか、と考え直す。
「……………………。」
守る事も助ける事も出来なくてごめんね、と手を合わせながらまるで"彼"の赦しを請い縋る様に両目を閉じた。
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ーー供物台の上の青い花束も分けて花立に供え、周辺の草抜きや墓石を軽く清掃した後、今度は来た道を通って帰路に着く事にした。
先程女性が横切った、あの木陰の下に差し掛かる。落ちた青い花弁は既に風に乗って消えていた。其の代わり、全身黒ずくめの青年が木の上から沙和を見ている事に、まだ彼は気が付かなかった。




