ーYuka exercitatione opus est scriptor splendidisー
すっかり難病なんて嘘である事が明らかになって、いや何者かによって殉教の赤色を得た彼女の日々は薔薇が咲き乱れる様に鮮やかで華やかな日々だった。
…無論、言葉通りの社交辞令に顔を出すお嬢様然とした振る舞いをし続けているのでは無く、蔑んでいる平民の様に敢えて過ごしている。此れも彼女にとっては己の善人さと健気さ、そして寄り添いやすさの為の戦略に過ぎない。
SNSの呟きも大体誇張している時もある。
そんな侑花お嬢様の華やかなルーチンワークをSNSから見る事にしましょう。
彼女は何時も通り自分アピールを欠かさず、出来る人である事を周知にさせる為にあの手この手を駆使し、嫌いな奴や機嫌を損ねさせた相手を上手く悪人に仕立て上げ徹底的に嬲る。
死人が出たら、其の遺族も嬲って楽しむ。嗚呼華やかなお嬢様。高等遊民の嗜みは溝鼠の様な平民共には理解し得ないでしょう。
ーー侑花は■■■の周年記念である事を切っ掛けに活動を広め、より多くに認知を、そして遺族に苦しみを与えるべく活動を増やした。今日もハッシュタグを頼りに上げられているものを一通り見る。
(■■■の周年記念だからいっぱいあるなぁ…嬉しい♡沢山リツイートしちゃお、好きアピール出来るし、上手くすれば私の仲間が増える)
画面の内容を見てそう考えた侑花は慣れた手付きでリツイートのアイコンを押してリツイートし始めた。
(そうだ。私はちょっと弱いってアピールしてから強く振る舞う様な内容にしたら周りの人も私を偉いって思う筈)
『私は自己肯定感がめちゃくちゃに低い人間だけど猫はこんな私を選んで「ママじゃなきゃダメ」と寄り添ってくれるから私は生きていける』
「猫」の話として投稿し、猫好きにも響く様にする。
(完璧!私の事をもっと見てくれる人が増える)
心の中で何度目かの勝利宣言。最早恒例事項で大きな意味など無い。
何日も何日も、遺族を苦しめる事も兼ねて呟いったーに投稿する。
そんなある日、侑花はあまりの出来事に目を大きくして画面を見ていた。
『あ、あっ』
『じゃん』
『あああああああああありがとうありがとう世界ありがとう■■■ありがとうございますありがとうございますありがとうございます!!!!!!!!!!!!』
スクリーンショットの後に荒ぶった内容。明らかに組織票じみた結果だが推しているジャンヌが1位に輝いた事とキャラクター実装が実現する事で大変に喜んでいる。
彼女の中で公式は私の最大の味方であり私の意思を必ず実現させてくれる、と、まるで一番に偉い存在になれた様な錯覚と万能感に浸る。
『信じてたよジャンヌちゃんが必ず一位になるって信じてたけどいざこうして現実を目の前にすると僕は私は』
『駄目だ昼間にお酒飲んだせいで頭が何も働かない』
…どうやら昼間から飲酒して遊んでいたらしい。
『ジャンヌ…ジャンヌ…!
ミニダークジャンヌくる…?ガチャ産になるのかな、それともジャンヌちゃん中心新イベかな、周年復刻でジャンヌちゃん…?』
高村侑花の心は薔薇色、聖女ジャンヌを軸に自分の全てが美しく輝く。当然だろうか。ジャンヌ中心という事は彼女にとって自分の望みの全て思い通りという事なのだから。
『取り敢えずその日の為に口座を作った方が良いかもしれない』
『決勝発表ページ飛んだ時シュコッて呼吸ないなった』
『人の発狂で一句読むんじゃないよ』
『もしかして1キャラでミニ三体出るのって女性だとジャンヌちゃん初?
■■■様は3つあったから男性初として、女性初がジャンヌちゃんになる?』
『■■■の男性代表が■■■様なのは分かってたけど女性は昔から対抗馬が多くて、今回ライバルだった女性の■■■ちゃんも強敵だしそれでなくても近年やっとイベントで日の目を見たジャンヌちゃんに比べ年季入って人気の女性いっぱいいるから、この快挙は本当に嬉しい』
『泣きそう』
『情緒不安定』
『頭冷えてきた
眠れない』
『ちょい疲れた』
目まぐるしく廃人の様に打ち続け、只管荒ぶった後其の呟きを最後に今回は落ちてしまった。
(あ!遺族の人がログインしている。私もログインしてちょっと嫌がらせしちゃお。ジャンヌちゃん嬉しいっ♡)
喜びもあるが遺族への仕打ちも彼女は忘れない。相手のログインに合わせて赤ちゃんがいるので浮上率さがると書いたままのゲームアカウントに何度も何度もログインする。
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…そう言えば最近我々が■■■にログインすると、その後程辺りに彼女がログインか再ログインしてくる事が何度か重なる事が増えた。
沙和が高村侑花ーーC0、或いは汐屋と名乗る彼女を理解しようと彼女に合わせて動いている様に、彼女も彼等に合わせてログインを調整する事で何らかの興味等をもしかして伝えようとしているのだろうか。
私達の動きに合わせ動く事のある彼女の行動について前向きに受け止める事にしよう。
とても嬉しい事だ。




