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Dea Creaturae ーAc revelareー  作者: つつみ
Revolution
96/108

ーDuo somnia. niger et albusー

ーー………………………………………………………………

ーー…………………………………………

ーー……………………






水の底に沈んでゆく様な窒息感と細やかな安寧。






澄んだ美しい水の中では無く、光の差さない暗い水の中。

やがて底に呑まれて、沙和は何も無い闇に横たわった。

























「……………………。」

気怠さから身体を動かそうとあまり思えない。日々の疲労からか、夢の中ですらまともに立つ事も出来なかった。


重い…

心の中でそう呟く。ーー誰にも届かない。まるで現実の中で毎日感じている、侑花達の存在と目に見える活躍に心の苦しさを覚えて吐き出してしまう、あの重さ。

ーーあの人も死ぬ時まで毎日こうだったのかな、と感じながら過ごす毎日。


"彼"の場合は侑花達の存在に心が苦しくなり其の度傷を付けていた事を強く覚えている。

沙和は流石に己の身体を傷付ける程の度胸は無いが、自傷してしまう程の苦しさだったのだと、当人を喪ってから深く実感していた。




高村侑花達の存在によって、目に見える彼女達の動きによって、毎日が削り取られ、心が緩やかに死に、無気力な泥の様に眠りに付く。


沙和は労働があって多少気を紛らわせられるが、"彼"の場合生来のある理由から辛い記憶を忘れる事の出来ない性質を持ち、更に身体も大して強くなかった事もあった為労働等で気を紛らわせられる事も碌に出来ず、さぞ地獄の様な日々だっただろう。


唯一の手段だった絵も彼女達への恐れと心の苦しみから長く続ける事すら出来なくなり、生き甲斐も彼女達に取り上げられた様なものだった。

好きなものを描きたかっただろうに。

けれど、彼女達の存在が好きなものを自由に描く事を許してはくれなかったのかもしれない。




…そういう日々が数年続いて、とうとう彼は死んでしまった。

彼が死んだ時、其の無念は沙和達の中に反響した。





忘れられなくなる程のものだったのは、確かだ。









































ーー其の場で動かず、横たわったままでいる。闇の中なのに其の先の方に誰かが居る様な気がするのを感じる事が出来て、沙和は目を閉じたまま、横たわったまま確かめようと試みた。


目を閉じていても何故か向こうの人物が分かる様な気がして、敢えて動かない。









一人は白い女性。腰辺り迄の長さの髪に、女性らしい白いブラウス、長いフレアスカート。ざっと150にも満たない背丈。

何と無く其の人物が侑花だと思った。…現実の彼女は白くも無いが、夢の中だからだろうか。




ーーそしてもう一人は黒い青年で、何故か薄ぼんやりと発光している。

黒いシャツ、黒いズボン、夢の中の白い侑花とは真逆の姿だった。






二人共後ろ姿のみで、其の顔は分からない。ただ、片方は彼女で、もう片方はもしかしたら彼ではないか、と沙和は感じた。

























『………………………………、……。』

白い女性の方がぶつぶつと何かを呟いている。



『……ーーしが、間違っている筈はありません。何も悪くないんですから。私は正しい事をしたし言っただけ。正当な手段を取っただけ。だから私に一切非は無い』

流石は高村侑花、と思う。


然し其の一方で青年の声もまた確かに聞こえてくる。





『……めんよ。僕が全部悪いんだ。君達にまで迷惑掛けてしまった。僕が何かを好きになる事は彼女達が許さない。僕の絵は下手だ。どんなに頑張っても彼女達にとっては害悪なものでしか無い。己が生きている事は赦されない。僕は彼女達の為にももっと傷付き不幸にならなくてはならない』


誰かへの謝罪と、強い罪の意識と、「彼女達」へ抱く意識。





『…そう。貴方は赦されない。死んでくれて良かったです。ざまあみろ。いい気味。もう絵なんて描かないで。私達と同じものを好きにならないで。()()は全て私達やでんちゃんのものなんだから。…よく分かってるじゃない。自分が害悪クズで生きてちゃ駄目な奴だって』

ーー"彼"の言葉へ辛辣に返す様に語られる、"彼女"の言葉。


『…ああ、そろそろりんさんとあぺでもしてこよっかな。それともジャンヌちゃんの動画でも作ろうかな。うちのこ…アシュリーやルーカスの動画作ろっかな。■■くんやロザミーとか出そうかな』

白い女性の言葉に、黒い青年はぴくりと反応した。




『…■■は君のものじゃないのでは?アシュリーというその女の子も、元は■■■のパンドラだった…よね』

青年は言葉を返す。

『私物になんて、してません。アシュリーはアシュリー。■■くんは■■■の■■くんです。私の所では妹としてアシュリーがいるだけで』

『…元の■■■じゃ、妹なんていなかったよね。そもそもパンドラは彼の妹じゃないよ』

青年の言葉に対して、女性の言葉は半ば強引な暴論じみたものを感じた。




『うるさいな!!うるさい、うるさい、うるさい、うるさい!!!貴方に私のやってる事をとやかく言われる資格無いんですが?私何にも悪くないもん。そんなに言うんならバラバラにして唐揚げにでもしちゃいますよ。憎しみを込めて作るの、楽しいですから!』

女性の方が声を荒げ、そして言葉で青年を殴り付ける。何度も、何度も。


『…僕はもう死んでしまったよ』


『どうでもいい。死んだから何?何度でも死ね。…ああ、そうだ。良い事思い付きました。貴方の遺族を苦しめてあげる。貴方が死んで、さぞ辛いでしょうね。そんな時に私達の楽しくて幸せな光景を思い切り見れる様にしたら………』




『やめろ!!』

今度は青年の方が声を荒げた。

『僕の死を幾らでも踏み躙るのは結構だが、遺族である彼等まで苦しめようとするな!如何して君は其処までしようとする?』

怒気の篭もる声に対して、せせら笑って女性は語る。


『…え?当然でしょう?だって貴方は私に対して酷い事をしたし私やでんちゃんを傷付けた。だからその分を貴方に返しているだけ。でも貴方は愚かにも死んだから、残りの分を遺族の方に流してるだけ、ですよ?』

ふふふっと女性は嗤う。

『侑花…君…いや、お前がそんな奴だと知っていたら、僕は…………』





(…どうして?どうして二人が遣り取りをしているの……?)

状況に追い付けず静観するのみでしか無い沙和は、何故当時の出来事以来接触すら叶わなくなった二人が争っているのか気になった。

其れと同時に、自分達まで彼女達から仕打ちを受け続けている理由も明らかとなり、多少動揺している。


(……確かに、あの人が死んだ後の義両親の…義父の憔悴は酷かった…でも数枚の手紙が届いてから日増しに憔悴は酷くなっていたし、義母の方も体調がもっと悪くなった…まさか…)

どうやら義両親も侑花によって悪化する程苦しめられていた様だ。




『当時僕を「バレると私が不利になる」と言った手段で脅して得た血判書で充分だっただろう。其れで何故納得いかない?』


『ああーー』

女性の方は思い出した様に、軽く息を吸い嘲り笑いながら









『貴方の汚らしい濁血なんて、無価値なゴミクズですもの。徹底して捨てましたわ』

彼女はそう語ると、当時の自分の行動をありありと説明する。先ず手袋を二重に着けて火で焼こうとしたが血で焼き切れず、おまけに匂いがした。だからビリビリに破り捨ててやったの。と。

『保管なんてする訳無いでしょう?あんな汚らわしいモノなんか。貴方を脅して黙らせられれば充分でしたもの。でも…つまんなかったなぁ』

きゃははと女性は嗤う。其の姿は次第に彼女が私物としているあの童女に酷似した姿へと変わり、無邪気に嘲笑い続ける。


『脅すのって、たのしー♡いい大人を脅して黙らせるのって最高!!其れが礼儀も弁えられない平民なら尚更!!流石平民!!馬鹿過ぎて金持ち相手に噛み付いちゃう!!!!!』

きゃはっきゃははっと嘲笑いながらくるくると楽しそうに回る。もう女性では無く童女と化していた()()は青年を罵り続け、悪い部分のみを抽出し更に誇張して周りに吹聴したとまで嬉しそうに語り続けた。

『裏アカで貴方の事を悪く言うのは楽しいわ!!リンさんやでんちゃん達と盛り上がってめいいっぱい皆で貴方を馬鹿にし続けるの!!嫌いな人を徹底的に痛めつけるのって……ほんと最高…♡』

童女の語りはヒートアップしてゆく。其の度に彼女の語りは饒舌に、どうやら青年に対し彼を侮辱し続け心を苛ませながら艶めかしい吐息と紅潮した顔を見せているらしい。




『はぁ♡皆に見せなきゃ♡私の活躍見せて貴方のクズ遺族にも幸せアピールしてあげるっ』

そう言い切った後、先に彼女の方が消えた。

























『……嗚呼…』

残されたのは青年。最早彼女は止められない、と判断したのか諦念の篭もる声だった。

















「…"■"………………」

二人の遣り取りを聞く内に自由を得てゆっくり立ち上がって静観していた沙和は、見知った背姿の青年に何かを言おうとする。然し…


『沙和』

沙和が何かを言う前に、"彼"の方から沙和の名を呼んだ。

夢の中の出来事なのに妙な現実味を覚え、沙和は動きをピタリと止める。

























『運命の女になってしまった彼女達を、彼女(侑花)を止めてくれ。必ず僕が力になろう』


諦めなのか、決意で有るのか、何方とも言えない声は沙和の脳裏に響き、そして彼を揺り籠の中から現実へ引き戻す。









ーーそして、沙和は目覚めた。

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