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Dea Creaturae ーAc revelareー  作者: つつみ
Revolution
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ーsomnium congressuー

「ーー取り敢えず分かった限りでは。有夏はぼかすつもりで書いた名前。本当は高村侑花」

あの後見付けた16進数の内容を何とか解読した沙和と(はじめ)は改めて一緒に正確な情報を洗い直す。


「……"人に有る花"」

ーー言葉遊び。探偵やスパイの様になったつもりは無いが、亡くなった当人が暈して書いた其の意図を汲み理解するつもりでやってみる。

「…それで出身は堺の方で、八つの尾がたなびく青い山」

一が沙和の言葉に合わせて彼女の出身地を話した。

「C4爆弾は今死霊(C0)に、他所で汐やは白菜に粗塩掛けて食べる」

「何ですかその例えは…」

「仕方無いじゃないか…………」

一の呆れに対して少し不服そうに沙和は返す。



「賽の遊びに興じ聖女ジャンヌにお熱」

「……賽遊びの子供を我が物顔で私物化する。彼女の齢おおよそ25上」

「先祖文豪、富豪令嬢、背丈140程、重り低し、乳ダイナマイト」

「いや最後」

「Dカップのダイナマイトですよ、ドレスとかそういうのが分かりやすかったです?」

「ダイナマイトでいいよもう………」

思わず出た言葉に今度は沙和の方が呆れを見せて溜息を吐く。

「私は寧ろ先祖文豪の方が気になりますけどもね。「某ゲームのキャラに私の先祖いる」って発言が本当だとして…苗字から大体予想は付きそうですけど」



「あー…、多分そうかもしれない。けど別姓っぽいし記録の通りなら一般で通るのは高村侑花の方なんだろうと思う」


「男の影に絡みながら女遊びで女を知る」

運命の女(ファム・ファタール)とやらに通じますね。最近殆ど誰かが一緒に居ますし」

「ああ…」

整理中にふと最近のメディア情勢の話が出る。一が知る限りどうやら彼女は仲間の誰かと必ず一緒に居るらしい。


「なお死霊最近鍵開ける。死者と遺族に圧を掛ける事生き甲斐生業とす」

「可能な限り動画のURLや呟きの全てはアーカイブしているしノートの方に記録も取っているが………」


「そろそろ他の所での彼女のアカウントやデータもアーカイブしたり記録するべきかもしれない」

沙和はすっと立ち上がって数々の遺品とノート、そして破り取られた紙片を手に取ってゆく。

















「ーー例えあの人が悪かったとしても、あの人を鬱病にまで追い詰めるのはやり過ぎだと思う」

当時の事情を知る立場ながら、沙和は相手への微かな怨恨と後悔を吐き出した。



「あの人は確かに悪かったよ。けど、彼女にされた事は心の弱いあの人にとっては殺される事の様なもの。あれから亡くなるまでずっとあの人は自分の身体を傷付け続けて、そして耐え切れなくなって自らの手で命を絶った。……その気になれば近くに居てあげられたのに、自分も結局ーー」


「沙和。止めなさい。…もう、"彼"は亡くなってしまった。自傷の動機の大元は彼女達から、そして自殺の決定打は高村侑花達から受けた行為である事に変わりは無いです」

一は沙和の後悔を押し止め、受け入れようとした。そういう彼自身も沙和に気付かれない様に何時もと変わらぬ振る舞いを続けながらも、助けられなかった後悔で拳を強く握り締めていた。






「……取り敢えず高村侑花、大阪府の2月21日生まれ、@C0_………のアカウント、汐屋、白菜辺りで今回記録しておきます」

取り出した小型のメモにサラサラと書き出して、一は玄関へ向かう。

「そろそろお暇します。沙和、どうか貴方も後を追おうとしないで」

たった其の一言だけ告げて彼は帰っていった。

















「……後追いか…」

後追いを心配されていたなんて、と沙和は少し苦い気分になった。確かに、当時は後でも追ってしまおうとすら思った。でも、後を追って死んでしまえば、寧ろ彼女達にとって気分の良い話でしか無い。

(友人を亡くしたから、と言っていたと書いてるけどあの人が死んだ時喜んでいたそうじゃないか。あの人が鬱になった時も、自傷し始めた時も、私の為にやめてくださいって返したそうだけど、そんなのどうせ自分の株が下がるのを恐れただけーー)


こんな奴の為に死んでたまるか、何なら住所割れてるし寧ろブッ殺しに行ってやる、位の気持ちで沙和は今を生きていた。

(一、大丈夫。ぼく…私は死なない。どうせ死ぬなら彼女達を害すつもりだしいっそ彼女達から大切なものを無くす。私達から大切な存在を奪った彼女達を到底許せない)


そして侑花へ対して

「形は違えど貴女の姉の旦那さんがお姉さん達へした事と貴女の行為は殆ど変わらない。姉の旦那さんへ貴女が怒りを感じた様に、今も私達は貴女へ強く怒りを持っているんだ」

と心の中で吐き出した。

































ーー其の日の夜、中々暑さが鎮まる様子は無く扇風機の風だけを頼りに過ごしていた。


珍しくあまりにも暑く眠る事もままならなかった為起きていた。

幸い仕事の方は在宅で済ませられる為ある程度余裕を持って過ごせる。




一が帰った後、"彼"が残した記録の一つ一つを何度も見返しながら、一度も手を付けなかった真新しいノートに手を伸ばす。

「…そう言えば、このノートだけ見ていなかったっけ……」



何の気も無く徐ろに手に取っただけだったが、開いて内容を見て驚きの表情に変わる。

















ーー此れは。


























真新しいノートに書き記された内容。

沙和達の視点では無い、誰かの独白めいた文章の羅列。





ーー其の内容は時系列がバラバラで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、生きているかの様に記録がされていた。亡くなった彼が知る筈の無い内容が。



沙和は誰かの悪い悪戯ではないかと思ったが、そもそも秘密主義だった彼が誰かに悪戯される様にする筈も無い事を知っている。

彼の死後、彼が遺したものの全てを沙和達ですら明らかに出来ていなかったというのに。


幽霊なんて信じたくなかったがーー





心はハラハラとし、僅かに震える手で一頁ずつ捲る。しっかり内容を目で読み進めながら。

















『高村侑花が赤ちゃんを産んだ

赤ちゃんに矛先が向かない様にC0のアカウントでは赤ちゃんの事は話さない様だ。

もしかしたら彼女が話す『猫』が赤ちゃんの婉曲表現だったりするのかもしれないが

…そんな事無いのにね。もう死んでしまったのに』


『彼女は()()の作品を次々と拡散し始めた。

クロさんも彼女と同じ事をするようになり、彼女もより力を入れている

僕は何も作る事が出来なくなってしまった。彼女達との間にあった出来事で、僕が悪い。けど毎日彼女達が僕を苛んできた』


『侑花は悪役令嬢モノの作品を呟いていた。もしかして原作も読んでいるのだろうか。小説投稿サイトの見る方に来ていたりするのかな。…そう言えば二見さんが小説投稿サイトに暇潰しで何か書いてるそうだけど実は侑花は見ていたりして、と思う。二見さんに対しても悪い印象しか持っていなさそうだから、裏垢のあら塩の方できっと僕達や二見さんの事を悪く書いてりんさん達と盛り上がっているんじゃないだろうか』


『彼女は幸せそうだ 僕が死んだ事を喜んでいるみたい。まだ生きていた頃、僕に自傷をやめろと言った。でも、本当はいい気味ざまあみろと喜んでいたんじゃないかと思う』


『でも、僕は今より不幸になるべきなのだろうか』


『僕が不幸になる事や傷付く事を今でも心の何処かで望んでいるだろう

侑花はきっと、無関心を貫き僕を此の世から消し去っても、何処かで小さな恨みや憎しみの芽が残っている。

だから彼女は僕を赦しはしない』


『違う。彼女達は僕を赦しはしない。だから今も僕を此の世に居なかったものとして扱い、何度でも殺してくる』


『僕が何かを好きになったり楽しむ事は彼女達にとって許せない事なのだろうか?』





最初は疑いしか持てなかった。だが読み進めてく内に信じざるを得なくなる。


ーー確かに彼の筆跡だった。文面も彼の書く文面と同じ。

本当に幽霊の仕業なら恐ろしくもあるが、然し亡くなってしまった大事な人物の心に近く感じられて、沙和は恐怖より後悔と悲しみに心を満たした。







有夏ではなく「侑花」であるという前提で、これ迄に書き記した彼女の名前に全て線を引き書き改める。

「"…どうやらこの話が急に進むのが遅くなった事で自分が優位であると気を良くしたのか、侑花はゲームにログインした。前回から1日経った位だが、その前は4日、更にその前は5日………間隔が急に短くなった"」


「"予兆と見て良いだろう"………。……まだ、書き直す所や書き足す所多いな」





ーー結局熱帯夜は落ち着かないし眠れなかったので、ずっとその日は机に縛られる事となってしまったのだった。

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