ーAccurate notitiaー
ーーまださた別の日、前に見た内容の精査と他の内容を見つける為に従兄弟である一を呼び、亡くなった"彼"の部屋を改めて探し回る事となった。
「忙しいのにごめんね、一」
「いえ。呼んで下さっても構わないですよ」
…身内同士ながら多少余所余所しい話し方だが、己のヤンチャを自戒して真面目になったと知っているので特段どうという事は無い。
「血のシミが付いてる」
「自傷しながらですかね。それとも…」
「……そう言えば、有夏はSNSだけじゃ留まらなくて活動範囲広くしているっけ」
話をしながら、手を進める。
「最近になって急に鍵を開けたままにしていると二見から聞きましたよ。何か意図があるのでしょうかね」
「どうせこっちに活躍を知らしめて私はこんなに幸せに楽しんでるんだぞ!!って虐めたいんじゃないの」
「邪推ですよ沙和。…まあ、性格が悪いと仰っていたとも聞いてますから割と有り得そうな気もしなくは無いですが」
有夏…いや、侑花の考えはある程度分かる様でギリギリ分からない。
何と無く活動範囲を広げてアーティストとして大成するのを狙っているのだろう。
其れと更にもっと自分を認知してもらう為にC0アカウントの鍵を開けた儘にしているのだろうと思われるのだが…
ーーかさ、と紙が擦れる音と共に、一番色褪せて一番古そうなノートの一部を見付けた。
「あれ」
こんなのあったっけ?と少し困惑するが、間違い無く「侑花」について書かれている可能性があるだろうと思い内容を見る。
「…苦しみの文章ばかりですね」
「こんなに苦しんていたんだ…………まさか、いや、もしもあの人が死んだ後も………」
フッと嫌な考えが過る。死後の事は分からないが、もし今でも苦しんでいたら。
「…落ち着いて沙和。まだショックか、抜け出せていないのでしょうけど、考えが飛んでしまうのは良くないですから……」
沙和の様子が少しおかしくなったのを見た一が、肩を軽く叩く。
「……。ああ」
彼の其の行動によって飛びかけた思考と意識を取り戻した後、手に持っている一枚の紙を見直す。其の手は、少し震えながら、握る力が強くなる。
握る力が増す度、紙は歪になって、少しずつ剥がれてゆく。
ーーはらり。微妙に手の込んだ方法で隠されていたらしいもう一枚の古い紙が床に落ちた。
「ーー…………。」
握る力が糊を弱め、剥がれやすくしたらしい。
「……………………。」
二人は落ちた紙を拾い上げて見る。
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ーー書かれていた内容は膨大な英数字の羅列であり、暑さと疲れで弱まっていた脳裏は眩暈を覚える。
一応、紙の質から最初の部分の様だろうと思われる。
「16進数ですね」
「数学が絶望的に苦手だった筈だぞ………!?」
従兄弟の一は羅列の正体に気付いたが、沙和は流石に戸惑った。
「紙の状態から一番古いみたいだから………これが"彼"の残した本当の情報なんだろうけど…読めない…………」
「サボりのツケですよそれ」
「うるさい」
只一人を喪って、ありふれた身内の遣り取り。
「でも「侑花」という人物に関して書かれている可能性は高いですよ。一番古い記録では「侑花」だったんでしょう?」
確かに一の言う通りだろう。
「復号化が出来るはずだと思いますので復号化してみてはどうでしょう。手伝います」
「え~……あ、あー、うん…………手伝ってくれるんならお願いする…」
冷えた汗がダラダラと流れる沙和をよそに、一は少し楽しそうな様子だった。
そして更にぐうう~と腹の虫が鳴る。
「……何も食べてないんだった」
冷や汗の流れる沙和の顔が薄っすらと青褪めてゆく。其れを見て一は夕餉の時間である事に気が付き、食事を摂るべきだと判断する。
「ああ、そうでした。……沙和、台所借りますね。ご飯食べましょう」
沙和の有無を問わずして、一はさっさと台所の方へ向かってゆく。
ぐるぐるとした状態で何も出来ずに椅子へ座り込むがーー
(でも…………)
空腹で大変な状態だが、沙和は筆記された羅列のうち下の方へ視線を移す。
(新しく加筆されている気がするのは、気の所為?)
あくまで彼の小さな違和感に過ぎなかったが、其れは何時か一つの確信と結果に変わるだろう。
其の時は気にも留めず、食事と共に出て来た従兄弟と一緒に空腹を満たした。




