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Dea Creaturae ーAc revelareー  作者: つつみ
Revolution
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ーnihil reflectiturー

前回の件以降、彼女が鍵を開けた事で沙和の心はある程度心中穏やかになった。


とは言え彼女について、其の日常から分析すべき個人の情報や気質を知る貴重で最高の機会を逃すつもりも無く、沙和は出来る限り彼女のアカウントの観察を二見や彼の知り合いに任せっきりにしない様に努め、彼女が其のアカウントで何かを呟いたり動画等を上げる度に逐一内容を書き込んでいった。

一斉に過去の内容を消し去って日は浅いものの、有夏はまるで過去己が書き込んだ事など忘れてもらおうとでも考えているかの様に純粋で無害、健全なものですよと振る舞っている様だった。



ただ相変わらず特定の関係者を支持し、また彼女は統一宗教上に出している己のキャラクター達を動かした動画も上げていた。

二つの動画は、ーー嘗て彼女が「幼女」と呼んでいた童女が中心となっている。恐らく彼女のオリジナルであろうーールーカスという男性について言及している呟き中で出た「アシュリー」という名前が今の「幼女」の名前なのだろう。

とは言え見た目は過去の姿から殆ど変わっていなかったので、名前こそ変わってしまっていたが大元は今も変わらないのだろうか。


そして制作途中らしいが童女に加え三人程追加されている画像が上げられていた。

どうやら此の三人とも彼女のオリジナルのキャラクターらしい。









………と思っていたが、沙和はふと『死んでからもずっと弟妹を見守り続ける兄姉』という一言と共に上げられていた童女と男性が写っている画像を見て気付いた。

ーー男性の方は明らかに元になったゲームのキャラクター其のものである。



厳密に言えば童女自体も其の男性と同じゲームのキャラクターに彼女自身が考え加えた設定があり、其の上で「自分のキャラクター」にしている。

所謂『三次創作』というものに該当する行為だが、彼女は『一次創作寄りの二次創作』を自称していた。






ーー彼女の動画では、其の男性も彼女によって創り出されたかの様に有夏という令嬢の愛と夢が詰められていた。

公的に存在しない筈の設定を付け加えられ、彼女のモノにされた、嘗て自害してしまった"(かれ)"も推していた人物。きっと彼女のこういう部分が彼を追い詰め、更に追い打ちを皆で掛けていったのかもしれない。

独占欲。誰にでも在る其れが、彼女(有夏)の中では常人より相当強いのだろう。

























ーー当然有る筈も無いが、童女や其の男性を渡さまいとする、彼女の白い腕が抽象的に見える様だった。


(彼女自身をも喜ばせる為に勝手に首輪を繋がれてしまったみたいだ。この幼女ってキャラも、■■ってキャラも。)


































『動画といいイラストといい小説といい浮気性過ぎて作ってる途中で「あ!これいい!」って思いついたネタの方に取り掛かってしまうのやめたい』


『それで別に完成させないってわけじゃなくて作業進行しながら別の作業も始めて結局制作スピードだけが落ちていく いっそ途中でやめる覚悟も必要っぽい』


『そうやっていろんな作業並行してやったものって達成感がそんなに得られないから完成したら普通に消しちゃうんだよなぁ』


………………………

『おお猫よ 野良の血はどこへいったというのだ まぁ生後2日で拾ったから育ちは純正人間の手だろうけどさ』





ーー…………………………………………

ーー……………………

こうして見れば夢や希望に溢れて向上心のある健気な創作者に見え、猫の事を可愛がる優しく綺麗な飼い主に見えるだろう。


だがそういう彼女の面に、此れ迄遣り取りをした被害者や"■"は騙されてしまったのだ。次第に彼女は残虐な面も見せてゆく。

…特に気に入らない相手に対しては。


「……………………。」

沙和は前回から新たに増えた分を、動画のURLと一緒にノートに書き込んだ。

ノートに染みていた"彼"の血は、とっくの前に赤黒く乾いていた。




ーーそんな間にも彼女のアカウントの呟きは増えており、新しい内容が幾つか上げられていた。

更新の度にしゅぽしゅぽと効果音が小さく鳴り、画面が動く。


『■■■の周年楽しみ 現代聖女ちゃんのイベントはこれまでの■■■像を大切にしつつ現代の風も取り入れた新しい挑戦があってこれまでの周年イベントでも一番好きなイベントでした』


『@C………… クレジットは動画内にて』


『絵…ッ絵か……ッ 絵は完全門外漢……ッ』


『こいつのネコミミを見たいって言われたから』


『仕事の為ならプライド捨ててネコミミつけるのも厭わない男 人権がない』


『現代聖女ちゃんモデルは自作ですん』


………………………………………………………………

…………………………………………

……………………



















































ーー薄ぼんやりと蝶は光る。ひらひらと曖昧な軌道を描き、蝶は飛ぶ。

時間は暗いが、辺りはじんわりとした暑さから少しずつ涼しくなっていた。

大きな施設からはゴウンゴウンと音が響き、そして重い金属音の中に足音一つ。何処かを目指して、辿り着いたのか足音は止んだ。



「お忙しい中参じて頂き感謝致します。シーフォーン様」

白装束に身を包んだ研究者達が広大な施設に集まっている。

「…出来ましたか」シーフォーン…有夏が冷たい眼差しで彼等を見る。誰一人として欠けていないかを確かめる為に。

「全員揃っていますね。問題無しです」有夏はずっと触れていたであろう@C0_………と見えた己のアカウント画面を閉じて、研究者達へ訊ねる。


「"例のあれ"はちゃんと出来てるんでしょうね?」

「はい。貴女様の力を以て知識を与えられた私達で達成出来ました」

有夏の表情はほんの少しだけニンマリとしている。

「そうですか。それは僥倖です。この私があなた達を信じて頼ったのだからには、あなた達にはなし遂げる責任がありますもの」

最後に付け加えられた「えらいわ」という有夏の其の言葉に、研究者達は跪き、皆口々に感嘆や歓喜を秘めて彼女の名を…『シーフォーン様』と呼んだ。


「…でも、私、にーちゃんやアシュリーちゃん■■くん達と遊ぶのを一度やめてわざわざここまで来たんですからね。ぱそこんだって、もっとにーちゃん達と遊びたいのに」

少女姿の有夏は、ぷう、と頬を膨らませて、後は任せたから~帰る!!と研究者達に委ねて足早に立ち去っていった。






…心無しか、有夏の容姿は若返り、情緒は幼くなっている様に見えた。其の髪は例の「幼女」と同じ様に薄くなっていっており、其の目の色は「幼女」の様な青みを帯びつつあった。

























「うふふ…はははっ、きゃははは!!()()が完全に出来上がれば……私は行動にふみ切れる!!」

帰路に着く最中、有夏は子供の様に其の場で燥ぎ、目立たぬ程度に小躍りした。

(これで私達の革命が実現する…皆私達の下で幸せになれるんだ……)

有夏の心は喜びと感動で震えた。









ーー刹那。









『進捗は如何かな、「たかむらゆうかちゃん」?』

街灯が作り出す、建物の影にふわりと現れた意図せぬ存在。

「…「たかむらゆうか」じゃなくて「たかまちゆか」ですが」

『嗚呼そうだったか。失礼失礼。じゃあ…シヨ?汐?ええと…C0と呼ぼうかな』

有夏はムッと機嫌を悪くする。

「どうせ態と間違えたんでしょ?性格悪いですね、あなた」

『はははっそんなの!!君も十分に"わるいこ"じゃないか』


黒い外套の青年はケタケタと笑った後、有夏の瞳を覗き見る様に目を大きく見開いて軽く返した。




『………。「代償」は進んでいるね』

意味深な言葉を吐いた青年を訝しみながら、

「…?私はあなたに言われた内容を覆すつもりで沢山の人を助けてますけど?」

流行り病を治し、人に希望を与え、己等が創り出した世界で人に癒やしを与える。

『そうだね。でも君知らないだろ。其の反面で不幸になって、そして死んでゆく人達を』

「………っ、私は忙しいの!!そんな事、いちいち気にしてられるほど余裕無いです!!!」


怒りの勢いに任せてそうは言ったが、有夏は知っていた。ーー「自分(有夏)が好転してゆくにつれ、世間では自殺者が増え、そして不幸な人間を見掛ける頻度が多くなっている事」を。


でも逃げてもいい事で、直視したくない現実だから、有夏はメディアへ隠蔽する様に操作する。

自身の周りも上手くはぐらかし、誤魔化し続け、上手く証拠を隠蔽する。赤子が死んだ後に過去の呟きを全て削除した様に。

「理解出来ないものにはとことん逃げても良い」が彼女の信条だからだ。





『……………。(理解出来ないものにはとことん逃げても良い…か。「相容れなくとも、逃げずに立ち向かわねばならない時も必要」という事には、まだ気付いていないのか……それとも、気付いているけど敢えて知らない振りを通しているか…まあ、「逃げ」には変わらないね)』

黒い外套の青年は其の場でスマホを弄り始めた少女の姿をした女を一瞥し、影から出る。




『…"君を見ている人達"の事は良いのかい?』

彼の問いに少女の手がぴたりと止んだ。少し息を吸ってから、自信に満ちて彼女は答える。

「…ふん。そんな害虫にすらならない雑魚以下の雑魚。別に痛くもかゆくもありません。ただ私を見ているだけ。無害じゃないですか?叩けばすぐに潰れて死んでしまう」


「私が鍵を開けたのは、私が今を楽しみ、幸せにしている様をまざまざと見せつけて相手を苦しめ続けるため。ほんっと!相手が幸せな私を見て苦しんでいる様を思い浮かべると………っふはは、きゃは、っ、楽しくて楽しくて!!」

"少女の形をした恐ろしい存在"は、どうでもいい、むしろ敢えて鍵を開けて手帳の中身をみせつけてもっと苦しめてあげるつもりだ。と嬉しそうに吐いた。


『…。"わるいこ"どころか寧ろ邪悪にすら思っちゃうよ』

「邪悪?私が?こんなにも素敵で幸せな私が邪悪だなんて。目下の者も猫も皆大切にし可愛がれるんですよ?「善良で素敵」の間違いじゃ無くって?」

黒い外套の青年の呆れた言葉に対して有夏は四白眼じみた眼差しを見せて言葉の珠を返した。少女の中に狂気じみた側面が少しずつ浮き彫りにされてゆく。



ーー青年へ詰め寄った有夏はふっと何かを思い浮かべてか、閃いた!といった振る舞いをし、にこりと先程と打って変わって微笑みながら可愛らしく呟く。

「でも、ずっとこのままではいけませんよねぇ?…ふふふっ、()()が出来たら、ちょっとお灸を据えてあげちゃおうかな」

『…………ほう?』



有夏は遠くを見る。彼女の視線の先にはあの施設。

施設の中に在る()()の方を見ながら、クスクスと可憐で邪悪な笑みを浮かべていた。

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