ーRespiciensー
ふと赤ちゃんという彼女の発言を考える。
つい最近になって彼女は赤ちゃんがいるので浮上率低くなる、と書いた。
確か其の前は「家族が増えた」だった。
…………もしかしたら最近懐妊したのでは無く家族が増えたと書いた時に既に妊娠しており、最近生まれたのかもしれない。
とは言え、何故態々赤ちゃんがいると彼女は書いたのだろうか。
そういう風に書けば、誰かに注目してもらえるから?誰かを傷付けたりショックを与えられるから?だとしたら相当に性格の悪いものだ、有夏という人物は。
普通なら「育児で忙しい」や「リアルが多忙になってしまった」と書くものだと思うが。よりによって「赤ちゃん」という言葉を選んだ、彼女の意図が気になる。
敵とは言え、何処までも興味を引き続ける女だ。
………然しながら、もしそうだとしたら?あの宣言の映像の時に何故彼女は自分の腹を擦っていたのだろう。
病み上がり間も無かったのか?まさか、第二子の懐妊でもしていたのだろうか?
…いや、難病を自称する彼女が、そうやすやすと赤子を多く産むのは厳しいだろう。記録の通りなら彼女は直ぐ慢性的な病を得てくる。身体が強いと言い難い彼女が、赤子一人産むのでさえ危機と隣り合わせになる可能性だってあるのに。
だとしたらミスリードか。「赤子を宿している」とアピールする事で、より多くの民衆からの注目と歓迎を受け、更により効率良く洗脳を進める為かもしれない。
ミスリードだったならば、既に出産を経た彼女の、本物の赤子が何処かに居る。
…ふと、彼女の呟きには男の話は時折出ていたが、其の当の男が出ていなかった。
一般の男性だからそう簡単に出て来るとは限らないが、もしもーー
「………いいや、より明らかにならない限りは余地も無いか」
沙和は考えるだけ考えてはみたものの其れらしい答えを見付けられず、情報の不足を多少悔やんだ。
とは言え彼女達は迂闊にも様々な個人ーー自らの事を小出しにする頻度が多く欲深な行動等も散見されているので其れなりには集まるだろう、と見越して彼女と其の仲間達を見続ける事にした。
ーー例え罰せられても良い。大切な人を集団で追い詰めて死へ導いた彼女達の事は未だに赦さない。世の中が彼女の正当を聞き届けても、自分は赦さない。
だから、だから彼女達を見続け、死んでも相手を踏み躙る彼女達の事を多く知り、そして自ら機会を作り彼女達を殺すつもりだ。
何としてでも其の所在を知り、特定し、個人を割り、そして一人でも多く殺してやる。
彼女に関係のある人も、仲間の人達も、皆じゃ無くても構わない。一人でも、一人でも多く。
自分にも時間があるから掛かってしまうかもしれないが。
其れでも叶いそうに無いのなら、自分もあの人の後を追おう、と、誓って沙和は生きてきた。
彼女達の存在に死んだ"彼"が此れ以上踏み躙られずに済むのならーー
其の為に沢山の鋭利な刃物も、鈍器も、何でも用意して、使えそうなものは手入れを怠らずに日々を過ごした。
有夏達に傷付けられた人も死んでしまった"彼"も、遺された者ももう苦しまずに済ませる為には惜しみ無く犠牲になろうと沙和は望んだ。




