ーFilia pythonissamー
ーー其れは、革命の宣言より大分前に遡るーー
ーー親しき仲間と睦み合い、そして唯一隣を許された者とも夜睦み合っていた。枕の上で未来を語る運命の女はまるで未来を描く唯の女性であり、一途で苺の様に甘い乙女であった。
実際に異性と睦む其の快楽と喜びを知って以降は、彼女はより執心的に其れを行った。
ーー其処には「もしかしたら何時死ぬか分からない恐れ」から、早く子を成し己の高貴な血脈を繋げよう、という生への執着も含まれていたのかもしれない。
ーーそして其れは、敵達が知らぬ所で雲が掛かる事無く進み、遂に彼女は懐妊した。
仲間達は祝福し、命を宿した彼女へ花の雨を贈った。
隣に立つ者は驚き、そして喜びに、彼女の家族と同じ様に涙を流した。
有夏は寝台の上に座りぼんやり考えていた。
(赤ちゃんは十月十日…まだ臨月じゃないけれど安静にしていないといけない)
彼女の瑞々しい唇は、自然と鳥の囀りの様に愛らしい声を紡ぎ出した。柔らかく白い手に愛する我が子への愛おしさが篭もる。
「この子が生まれたら、私の生まれ育った町の役所に出生届を出さなきゃ。八尾市青山町生まれの、私の子…どんな名前が良いかなぁ……」
徐ろに手に取ったスマートフォンで慣れ親しんだゲームを開く。
(身重になったし、生まれるまで…いいえ、生まれてからも育児に専念しないといけなくなる。忙しいよね。えーっと…)
彼女が手で打つ、キーボードの音。
一通りの目的を済ませた彼女は、同じく親しみの有りそして仲間達のいるSNSを開いた。
(そういえばりんさん、ミズノ りんに改名したんだっけ…一瞬錯覚しちゃった)
ーー有夏は、母になる。彼女が嘗て誰かへ向けた仕打ちを忘れて。自分の罪を認めないで。「私は悪くない」と徹底的に主張したままで。
(ふふ。無事に生まれてね、私の赤ちゃん…)
有夏は己の腹を優しく擦った。
ーー其の一方、自分の管轄外の時間帯の出来事を二見を経由して彼の知り合いが見た彼女の情報や仲間との遣り取りを聞いては埋め合わせて記録していた。沙和は、「もう一つ彼女がよく現れる所」へ赴き、其の様子を見た。
…最近妙に活動が少なくなっていたのが気になる点であったが、画面を開いた時に、其の真相は判明した。
『赤ちゃんがいるので浮上率低いです』
…もしかして有夏の子供だろうか。だとしたら前一度、一瞬だけ考えた可能性が実現してしまったのだろうか。
文章から彼女の姉や身内の赤ちゃんかもしれないが、もし本当にそうだとしたら。
……其れによって「嵩町有夏」という者は、難病なんかでは無く唯の健康な人間である事、或いは何らかの方法で病を完全克服して健在である事を確信した。
そして、彼女が「世界」へ踏み出し、大切な人を喪ってしまった者が其の姿を「知った」時、無念の炎は消えなくなる程燃え始めてゆく。




