ーresurfaceー
沙和が今現在の有夏の動きを得られないか、と個人で奔走している中でもう一つの方で動きがあった。
其方の方は1ヶ月程顔を出す事は無く、其の間に複数のイベントが過ぎ去ったが、沙和は諦めはしなかった。
一応、信じて待っていたのだ。
(早朝頃に出てきたのか…)
果たして、彼女の浮上は過去しでかした行いで恨まれる事への後ろめたさがあって逃げていたのを止めたからなのか、其れでも自分は悪くないという開き直った再認識なのか、
何にせよ席替えをしたつもりでも退学を決め込んだつもりでも無かったらしい。お嬢様の戯れ程度の軽い抵抗、百合の花園の中で互いの蜜を吸い合う優雅なお遊び。そういうものだった様だ。
然し彼女の浮上についても思えば少しだけ気になった。
其方の方で沙和なりには頑張っていた際、機会を逃して申し訳無い事があったがやっと一段落して間も無かった状態になって、彼女は暫く後の時間ーー早朝頃に浮上してきた。
まるで一段落して沙和が単独になるのを待っていた様に。
もしかしたら彼女なりの知恵を働かせたのかもしれない。1ヶ月程雲隠れしておけば、沙和ももう自分…嵩町有夏はとっくに死んだものだと勝手に判断して自ずと諦めるだろう、と。
犯した過ちも無かった事に出来るだろう。
恨まれる様な事は無かった、と。
残念ながら彼女がお盛んになっている方も沙和は見る事が出来るので、片方だけ雲隠れしても正直意味は無かったりするのだが…
ーー然し、其れもネットワークの世界だから。
「現実の嵩町有夏」については完全には知らない。お盛んな方の彼女がそういうものを自ら進んで露見してるのである程度推し量れはしなくも無いが、其れでも断片でしか無い。
余命宣告から5年以上過ぎた彼女の「難病」も、時折現れる金持ちのお嬢様という主張も、詐欺師の様に達者な口車を持った彼女なら嘯くのも容易い。
多方面に万能である事からいっそ全能を主張する事だって、彼女は出来てしまう。
鼻に掛けずそんな事無いよ~とでも言えば、謙遜と捉え謙虚で聡明な、優しい気持ち人として振る舞えば美しい花、どんな苦境にも芯を持っているのだと良い事の一つや二つ、己の持論をひけらかせば不屈の精神を持つ気高いお嬢様だとも示せてしまう。
交友関係に、立場に、権勢に、全てに己が優位であると彼女は示す事すら可能だ。
ーー…………………………………………。
ーー……………………。
「それはともあれ、信じて待っていて良かったよ」
沙和が画面を見ながらそう小さく呟いた其の少し離れた所で、点けた儘のテレビが画面を変えて世界を映す。
何者かに支配された映像を、無機物は流し続けていた。
『ーー御覧下さい。世界中の彼方此方で、事件や事故、あらゆる不幸が皆さんを苦しめています。ーー政治、社会問題、紛争、技術的な問題も、何もかもが、不幸其のものとして蔓延り続けている………っ、私は、こんな事嬉しくなんてありません……。でも、其れは皆さんも同じ。皆さんだって、苦しみの中で懸命に生きているではありませんか!!……其処で、私に出来る事を沢山考え、そして辿り着いた結論があります』
『ーー私は、私が持つ力を行使し世界を変えます。…此れは革命です。世界中の皆様、どうか私を、私達を受け入れて下さい。認めて下さい。ーー連盟の皆様方も、何卒お願い致します。どうか私達に世界を担わせて頂きたいのです。』




