ーDissimulatione obsidioー
……有夏の行動を見て、身内を死に追いやった者の事を知ろうとした沙和は、ある時を境に最終ログインが変わらなくなった汐屋ーー有夏のアカウントを今日も見ていた。
どうしたんだろう、や何かあったのかな、等では無かった。何故なら相手である彼女が浮上していない様に偽装しながら活動している事に気付いているからだった。
ーーあの後、彼女の不審な動きについて調べた所、辿り着いた所である程度教えてもらったのだった。もしかすると彼女は"其れ"に当て嵌まった行動をしているのかもしれない、彼は彼なりにある程度の疑惑を彼女に向けていた。
(確証は持ててないし、証拠になる動きがあまり目立たないからね)
突如始まった彼女の此の妙な動きに、沙和なりに考えながらも、然し彼女へ対する「人をしに追いやった女」のイメージは払拭出来なかった。
もし、今回の動きが偽装の為であるのだとすれば、彼女は完璧だと自負してるだろう。
そして其処から沙和を含めた周りの関心を損なわせ、上手く逃れるつもりかもしれない。
自分の犯した行為に対する証拠の隠滅や様々な隠蔽だって、周りからの信頼を上手く得た彼女ならば容易く、まるで幼子への簡単な謎掛け程度だ。
でも、彼女は「人間」ーー
……足りない。まだ、敵を知る為の情報が。
きっと向こうは、特に有夏という人物はあの人を裏で脅していた背景がある。だから私達の事までもしかしたら熟知済みかもしれない。
私が亡くなったあの人のものを引き継いだ事すら。
有夏はお喋りだ。
有夏は囲いが沢山いる。そして特に親しいのがでんでん?ででん??とか言う年下の中国人らしい。
他にも数人居るらしいから、彼女は喋ってしまっているだろう。
……足りない。あの人が遺したノートに書かれていた事じゃ。あの人が過度のストレスから吐き出しても止めなかった日記に書かれていた彼女達の事だけでは。
ーーもし自分が法で裁かれようとも、道徳の罪を犯し他者を殺した彼女に報復を…
法が彼女を裁かず守るなら、私刑で自分が罪に問われようとあの人を喪った苦しさと半ばで自ら身を投げたあの人の無念を晴らしたい。
死の一歩前の時の自分を助けてくれた、命の恩人。
身体に残った傷が思い出させる虐待の過去を、乗り越えさせてくれた人。
どうしてーー
ーー…………………………………………
ーー……………………
ーー彼女側の時が4日前に差し掛かる寸前の頃、別件の遣り取りで遅くなってしまった沙和がふと「汐屋」の姿を見るとーー何とイベント期間中のギルドメンバーの書き込みが一切消えていて、先月24日の書き込みまでにに減っている事に気付いた。
(一切ログインしていないのに最新の書き込みだけ消えてる………気付いていなければ誤魔化せているし、あれが分からなければ不具合なり何なり思い浮かべるかもしれないけどーーでも、こんな器用な事なんて運営の方はしないはず……やっぱり彼女だ、偽装して水面下でやっぱり動いていたんだ!)
突然遭遇した不可思議な出来事に、彼女の行動を見た。
そしてとうとう沙和は「予見」していた事が本当だったのだ、とその尻尾……証拠を掴み出せたのである。
コメントの一覧なんて嫌でも目に付く以上、少しでも変化があれば一瞬で分かってしまう。
特に先月24日以前のもの"だけ"消えていたというのだから、もう彼女の偽装は通用しない。
きっと彼女は自分の偽装が完璧だと思っているのだろうがーー残念ながら裏目に出てしまった様だ。
本当に「人間」らしいと沙和は心の中で吐き捨て、毒づいた。
「…でも、自分の疑惑は確信になった。本当に…「人間」らしい人間だよ彼女は」
そして沙和の傍らに、開かれたノートが新しい頁を露出させたーー




