ーDeinde, revertemurー
ーー12月は10日程に差し掛かった。まだ月は始まって浅く、だけど銀世は少しずつ、ゆっくりと、世の中を静かにしてゆく。
慎ましさと賑やかさで分け隔てられたものがより鮮明になり、苦しめられた者は暗い所へ、皆に囲まれて全てが正しくなる者は明るい所へ。
まるで彼女と、彼女と其の囲いに追い詰められた者達の様だとも思えた。
…クリスマスはまだ先だが、世間は流行り病の中で僅かな喜びを望んで既存のものを欲しがった。
見出した。
選びたかった。
ーー其れは、沙和だって同じだった。大切な友人や家族と皆で年に一度卓を囲んだり遊ぶだけ。其れが楽しみだったのに。
流行り病は無情にも友人と彼を隔てたし、
嵩町有夏は、彼から大切なものを奪い去った。
…いや、有夏だけじゃない。彼女ととりわけ親しいででんや彼女達の囲いも、結局彼女達に与して彼を死に追いやった。其の殆どは其処まで求めちゃいなかったのかもしれないが、有夏とででん、餡、ミズノの4人組はそうじゃなかった。彼女達4人は、"彼"に全ての悪と罪を背負う様に求め、そして其の為に自害する事を求めた。
質の悪い事に衆目には簡単に見えぬ様に、本人に直接そう伝え、そして彼女達は本人の目に見える所で"彼"を散々悪く言った。まだ当時生きていた彼から其の事を聞く度自分がどれだけ役立たずだっただろう、と沙和は唇を強く噛んだ。
ーーそうして慕った者が居なくなった儘迎えた冬の中で、突然静かになった汐屋………いや、嵩町有夏のゲーム情報がどうやら元に戻りつつあったらしい。昨日まで1度しか見掛けなかった彼女を今日は3度も見掛けた。
一言は相変わらず家族増えたとほっこりとした喜びの顔文字が付いたもの。死に追いやった張本人には至上の喜びと幸福だけが常に降り注いだ。
恐ろしくなる程に。
(あーそっか…汐屋…じゃなくって有夏もこのゲームに何回もイン出来る様になれる程余裕出てきたのか、うん、うん……)
一生懸命覚えて、そして少しだけ慣れてきたスマートフォンを時折間違えながらゲーム上の彼女が映る画面をぼんやり見ながら、居なくなった者を輪の中に過ごしたかった冬の日常へ思いを馳せた。
「ーーまさかさあ、"増えた家族"って嵩町有夏の子供だったりしてな」
かっかっか、と笑う二見へ、沙和の従兄弟ーー始がじとりと呆れを交ぜた瞳で見詰めた。
「どうせ彼女の姉か飼い猫辺りでしょう」
「分かんねえかもよー?ほらあのノートに書かれてただろ、"有夏には彼氏がいる"って」
「……まさか」
始が目をぱっと見開いて二見の言葉を軽く疑う。
「無性愛者どうのこうのを自称してたとかも書かれてたけどよぉ、いやもしかしてよ、奴さんは成人して……25歳前後はいってるだろ、たから付き合ってる彼氏さんと結婚してて、息子か娘位産んでんじゃねえのって」
「流石に下衆いですよ」
流石の始も引く。
「でもよくおっぱいだとか■■■■ちゃんのどうたらとかスケベが何とかとかだってもきっちり書かれてたし、案外家訓の厳しさの反動かなんかで実はスケベ大好きな淫乱なお嬢様の類だったりして、的なさぁ。単に性や欲の発散ベクトルが彼氏のみってだけで」
そういう雰囲気になったりとかあるもんじゃん?と兎に角下衆い事を話す二見を見て、酷く呆れて抱えていた大衆雑誌を二見の頭の上に態と落とした。
「同人誌や其の手の書物の読み過ぎでは。第一今の時勢からして恋人関係だとしても其の手の行為を避けようとするでしょう。するとしても対策有りです。そんな事もせず精を貪る程愚鈍な女の方では無いでしょうし彼氏とやらも彼女を大切にする筈では」
「ま、そうだよな。でも一つ言えるのは余命宣告を受けてから少なくとも3年以上経過したって事さ」
「3年以上と言っても余命宣告された年数が長い場合もあるのでは?」
「いや、あの手の人間…もしかしたらそもそも余命宣告自体大嘘で熱り冷めたら「奇跡的に何とかなりました!!」だの「医者の誤診だったようですー!!」で済ませて良かったね!!を貰うつもりだろ」
「疑り深いですね。と言うか顔赤いじゃないですか、仕事中なのに飲まないで下さい」
「おう!?良いじゃねえか飲みたかったんだよ、…じゃあお前はそいつの言った事や記録されてる通りの全てを本当だって鵜呑みにするのかよ」
「………疑念や何らかの嘘はあると思いますよ。貴方程疑ってる訳では無いですが、"彼"が彼女に追い立てられた時に当の彼女が妙な行動や発言をしたと聞いてますからね。それより飲むのやめて下さい」
「嫌だーっ!!俺はまだ飲むんだー!!!!」
ーー不真面目な二見と真面目な始。冬の静かな夜の下で作業に追われながら、沙和より聞いた幾つかの話を元に考え合うのだった。




