ーCallidus Den-den vexationes,ー
ーー世間が有夏の言葉、宣言で賑わっている頃と、そんな出来事が起きている事に気付かないまま沙和の時間は過ぎてゆく。
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「〜♪〜♪」
シュッ、シュッと滑らかに指を動かして自信に満ちた表情と、其れこそ「ふんす!!」という効果音でも付きそうな程の鼻息。
「あれ?でんちゃんもしかしてアプリの方に投稿?」
「うん」
世間を騒がせている当の張本人達は、気鋭も程々にのんびりと過ごしている様だった。
ででんーー張については、どうやらゆっくりと描き上げたのであろう、ソフィアちゃんの新しい絵を各所に上げている最中だった様だ。
「にしても珍しく早い方だね」
「うん」
……集中気味なのか、張の返事は何となく単純かつ短いものだった。
ねえ真面目に聞いてるの?とでも有夏は問いたくなったが、技術的な力で殴りつけるのがお得意で更に苛烈さを持ち合わせた張に火を付けてはなるまいと、友として其の辺はしっかりと弁えていた。
(まあ余程の事でも無ければでんちゃんに燃やされる様な事はなく済むけどもね♡)
でも彼女は「人間」として、お嬢様らしくしっかり、そして淑女的に良く振る舞うべきだと選んだ。どうやら家訓の厳しさはあらゆる面でも遺憾無く発揮し活かせているらしい。
表向きでも人格者たれ、と彼女は彼女自身にでも刻みつけているのだろうか。
「よっし!!終わり!!!」グッ、とそしてよっしゃ!!と勝ち誇った様に張は振る舞った。
上げられた代物を見て、早速「ぎゃーソフィアちゃん可愛いーー!!!ソフィアちゃんソフィアちゃんかわいいソフィアちゃんのオッドアイが〜髪の毛が〜…(中略)……彩雲のドレスとかもう本当語彙力が云々……」と次第に碌な言葉も出なくなる始末。
「もう〜姉ちゃんったら止めてよ〜照れちゃう」
えへへ、と笑う張の表情は、宛らソフィアちゃんの様な笑顔だった。
ーー其の後。
「ねえでんちゃん」
有夏は先刻の事を思い出して、張に問う。
「なあに?」
「今回のソフィアちゃんは上げる時間が早かったよね。18日の12時台でしょ」
「うん。そうだよ」張はにこり、とまたソフィアちゃんの様な微笑みを有夏に向けた。
「よりによって、珍しくって」
「ああ〜…そういう事かぁ。……ふふ、姉ちゃんにだけ、教えてあげるね」
張は口をそっと有夏の耳元へ寄せてーー
「ーーあの時間に上げれば、夕方から夜頃にランキングに載ってると思うの。そして翌日のお昼頃とかその辺りには更新されてる。私ってほらいっぱい努力して、仕事に出来る位にはとっても絵が上手くなったでしょ?だから翌日の更新時にはランキングは1位のはず。そしたらーーあいつの身内が見てるのは分かってるから、長く留まることでそいつの視界に、嫌でも入るでしょ!!」
張は悪戯そうに微笑んでから、にたりと口端を大きく吊り上げ、そして厭らしそうな目付きで嗤った。
「私は自己の能力を証明かつ主張出来て、更に私や姉ちゃんの敵の精神に長くダメージを与えられる。ーー画期的でしょ?私には利益しか無いんだもん。姉ちゃん、姉ちゃんが教えてくれた事、私ちゃあんと活かせてるよ」
「……なるほどね。でんちゃん、しっかりしてるんだね。ふふふ…あははは、ははっ」
「うん♪……きっと、私はもっと沢山有名になるもの」
張はニヤニヤと厭らしく、厭らしく嗤い続け有夏に己の望みを続けて話す。
「何度でも、自分が美味しい思いをしながら傷付けられる最高の苦しめ方であんな奴の身内も家族も傷付けてあげるの!!トドメにさ、私の姿も沢山アピールして、ソフィアちゃんと技術だけじゃない。世間から私という存在そのものを認知されるべきなの!!ソフィアちゃんと言えば私、私、私!!ソフィアちゃんや私の技術で作られたモノに、必ずや私の名前、私の顔や姿を映すべきになる様にするんだ!!」
天使、と扱われているソフィアの様な微笑みとは真逆の、如何にも「人間」らしく業の深い表情だった。




