ーNon sum clamorー
『泣いてないよ』
そう銘打たれた作品の名前。
金色と青色の瞳、彼女にとっては描き慣れた少女。ソフィア。
自負して止まない可愛らしさと、彼女は主張する。
18日、12時35分。或る場所へ投稿されたのは其の日。
別の所では、19日の7時40分。女の子、天使、オッドアイ、泣き顔、吸い込まれそうな瞳。
『今日も明日も大好きだって 言えたらどれだけ良かったんだろうね』
彼女の持つアカウントに上げられた少女の絵には、まるで彼女本人が或る特定の誰かへ囁き紡ぐ愛の詩文が添えられていた。
そして気が付けば、彼女の絵を上げるアカウントの文章は少し変えられ、最初の文章が『絵描いてます 携帯指描きユーザーなので遅筆』という文章へ変わっていた。
ーー淡々と彼女の情報を見返す中、沢和はふとソフィアと云う少女について考える。
(……もしかして、此のソフィアと云う少女は、このででんさんという本人を投影していたりするのかもしれない)
と、彼は薄明かりの中でぼんやり考えた。心がまるで雲の様に散り散りとして霧散しかけてゆく状態で、何をトチ狂ったか、と思われて仕方の無さそうな事を考えていたが、もしかしたら正解かもしれない。
何故なら彼女は嘗てソフィアという我が娘の如き少女と生みの親である自分自身を同一視された時にこそばゆそうにしながらも確かに喜んだ事があったからだ。
無論本人はとっくに忘れているだろうがーー…
(…あ、そう言えば…ノート。あの人のノートに『自分の創り出して描いた女の子が、公式的に存在しているものとして扱われた時相当喜んでいた事があった』って書いてあったっけ)
そして彼は彼女の日常的なアカウントがまた公開されている事に気が付いて、改めて其処にあった、LEONと云う人物の呟きを見る。
「……え、解釈?とかは沿っていても、其の前にソフィアって其のキャラクターは公式的に居たっけ……見たこと無いし…あとノートに書かれてる通りならソフィアちゃんランドって公式の世界観にあったっけ……???」
彼女達の言葉に増々戸惑いを覚え、沢和は困惑した。
そしてもう一方で、妙に極端な動きをする有夏の存在と行動にも目を光らせていたが、そんな事を続けてからなのか、有夏の生活リズムすら掴み通せる様になってしまった事に、何とも言えない気分と共に皮肉を吐きそうになる。
然し難病と言っていながら彼女は健康な人間と変わらぬ程活発であり、最近でもフォロワーらしき人物と夜な夜な、いやもしかしたら毎日遣り取りをし続けていたりするらしい。
難病の事は知らない。彼女はよく『私難病で〜』という言葉を言っていた、とだけしか記載されていない。ノートの本来の持ち主だった"彼"もほんの少しの情報から其れを突き止めようとしていたが、矢張り掴めなかった。
更に彼女は己のか弱さと強さを言葉に乗せて主張出来、衆目を惹きつけるのが殊更上手かった。人心を掌握するのはお手の物なのだろう。両親の誰かから、或いは彼女曰く「先祖」かもしれないであろう有名な作家から引き継いだりもしたのだろうか。
故に、「嵩町有夏は本当に難病なのか」と云う疑惑に辿り着いたのかもしれないが…
(気になる点の多い女性なんだな、夢の向こうへ恋し愛で溺れる大学生と、深窓の令嬢の様にか弱く見せながら強いと振る舞う、秘密多い女かぁ)
今日も彼女達は決まった愛を孕みたがって、胎を疼かせている。
獣よりも飢えている。
誰よりも"人間"らしく、我こそ世の全てと微笑みながら舞台の上でくるりくるりと回っている。
ーー…沙和はまだ気付いていない。此処最近碌にテレビを見なかった事がまるで仇になっている様に。
静かに流れる、消し忘れられたテレビの映像には、『嵩町有夏と云う20代の女性が数人の女性を引き連れて全世界へ革命宣言を行った』と報道されていた。




