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Dea Creaturae ーAc revelareー  作者: つつみ
Ultor_1
59/108

ーIn poenitetー

「あの人の………!!」

沙和と二見が固唾を呑む。

少し俯いた従兄弟の表情に、薄っすらと陰りが見えた。




「特に…沙和、あなたには、特に苦しめたくなかったから、と…」

「何故今更其れを言うんだ!!」

沙和の中に、一瞬だけ従兄弟への怒りが生まれたが、直ぐに消えた。怒ったって、何もならない。

怒りをぶつけても、あの人は帰ってこない。


同じ様に、従兄弟だって悲しんでるじゃないかーー




「でも…苦しい事とか、もっと吐き出してくれても良かったのに最期位、顔出して、何か、何でも良いから話でもしに来てくれても良かったのに、せめて顔位出していたら、」

直ぐ、悲しい気持ちが思い溢れてーー言いたい事がごちゃ混ぜになった。

「ふーん…コイツがねえ」

対して、二見の方はあっさりとした様子で埃を被った一冊のノートに触れた。




「なあなあ、俺、見ちゃうぜ?…良いのか?」

二見は二人の様子を伺いながら、小さな声で二人へ訊ねた。





「……。お願いします」

「どうぞ…」

























二人の其の言葉を始めに、二見が一冊のノートを開いた。







































ーー…………………………………………。



ーー……………………。




ーー…………。





ーー……。

























ーー所々に流血が迸っていた。


『苦しかった。』

其の言葉より始まったノートの内容。


自傷をしながら書いたのだろうか。






「うぉ…エグ…………」二見は色褪せ茶色になった"彼"のものであろう、ノートに付いた血を見てゾッとした。

「あの人……何時頃からだったっけ…自傷、する様になったんだ…」

其れに対してなのか、沙和がぽつりと呟いた。


「…そうだ……長らく虐められていて、味方も居なくて、あの人は………信じていた人、友達ですって言ってくれた人から裏切られて、それで…………」

沙和の口振りからして、恐らくは彼女達に出会う以前だったのだろうと踏んだ二見は、沙和がぽつりぽつりと話す言葉も大切に拾った。




「ん…………」

沙和の言葉を拾いながら、二見は血で染まったノートに書かれた文字を必死に読もうとする。

「んん…でん………でん???でんでん?ででん??どっちだ…」

「…。後は、嵩街有夏、大倉美亜、それと…」

「りん?って書かれてるねぇ」

二見と従兄弟は二人で書かれている人物の名前、住まい、アカウント、細かな個人情報や恐らく生前の"彼"が調べられる範囲で調べた彼女達の細かな情報が記載されていた。



『ーー有夏の支持で処分しろと通達があったが、己の無念と共に複製し記録を残す』と小さく端の方に書かれた儘。









「■……………………」沙和は"彼"の名前を一度出した後、沈黙し只管にノートを読み始めた。

書かれている事は多くの無念、悔しさ、心惜しさ、何かを好きになる事は悪い事なのかという問答、自責、贖罪、

怒り、

哀しみ、

絶望、

未来を望まなくなった一人の黒泥。


そして、彼女達へ許されるなら何らかの形で報いたかった、という文章。

















沙和の心に、深く突き刺さった、命の恩人の抱えた闇。









































「なるほどねえ、あ、じゃあこの携帯は?」

サッと二見が古い携帯電話を取ると、従兄弟が充電を済ませてくれていたのか、ちゃんと起動した。

「2009年のモデルだっけこれ?にしても丈夫だね〜。大体11年ほど前のやつっしょ?」

二見…彼はちょっとしたガジェット好きな奴だったのか如何なのかはさて置いて、慣れた様子で彼是(あれこれ)弄っている。

「お、見っけ」そう言うと、二見はSD内にあった送信用のメールフォルダを開き、二人に見せた。









「ん〜…どうやら亡くなったあの人、SNS…と言っても青い鳥さんの方じゃない所かね?其処であった彼女達と別の人との遣り取りとかそういったのとか、あかうんから見る事の出来る出身地とかしっかり記録していたみたいだ。ほら、此処にこのSNSのユーザーIDみたいなもんあるだろ」

ご丁寧にリンクなんかも貼っちゃってさ、と顎を触りながら二見は画面を見ていた。


「そう言えば…どういう人物なのか気になったらとことん調べる癖がありましたっけ、悪趣味だと自ら言ってましたが」

従兄弟は生前の"彼"の事を思い出しながら話した。





「…………そう…」

ふと、沙和が自らの沈黙を破って言葉を紡ぎ始める。

「?」


「彼女達を辿る為に、知る為に必要な情報をあの人は残してくれた。ぼくは決めた。あの人の無念や苦しみを、あの人に代わってぼくが抱える」

血塗れのノートをぎゅっと強く抱え込んで、沙和は言う。





「ば…馬鹿野郎、そんな事、あんたがしなくっても」

「でもあの人はある意味この連中に殺された様なものじゃないか!例えあの人の方が悪かったとしても、あの人が命を手放す程になるまで苦しめたのは彼女達じゃないか…」

沙和の声は震えていた。

「善人であれ悪人であれ大切な人に先立たれて、残された奴の苦しみなんて彼女達なんかこれっぽっちも理解出来ないだろうさ……ぼくは、ぼくの命の恩人だったあの人に、例え苦しくても…持って生まれたものを抱えていても、エゴだけど、此れはぼくのエゴだって分かってるけど、でも生きてて欲しかったんだ…!」









沙和の言葉は其れは重いもので、残された側である従兄弟の彼も叶うものなら彼女達に報復してやりたい、と何度願っただろうか。

二見は部外者ではあったものの、沙和の気持ちを思うとやり切れない感情に眉を顰めた。





「だから、彼女達へ何時か復讐するよ。必ず、どんなに時間が掛かっても構わない。叶うのなら惜しまない。あの人の無念は自分にとっても大きな喪失を遺した。残された者の苦しみも、喪われた虚しさも知らない彼女達に、報復する」


















沙和の暗い言葉が、声に乗せられて木霊した。

風は、外の枝葉を激しく揺らした。

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