ーpassionisー
病室に戻ってからは淡々と物事が進んでいった。通夜、葬儀、四十九日、一周忌、
彼岸、
整理、
あの人が亡くなった事でぼくの環境も変わってしまった。あの人が本当なら居たであろう実家に、ぼくが身を置く事になった。
「これで良いですか」
淡々と少ない荷物を置いていって、義父母の返事を得る。あの人の遺品は殆どが私の管理下に置かれる事となった。
義父母でも、どうやら捨てたり売る事は出来なかったらしい。
『死んだらあいつの持ち物は全部捨ててやるさ』…なんて豪語していたのに。
特に義父の方は酷かった。義母さんのあっけらかんとした振る舞いにも少しばかり憤慨しそうにはなったが、あの人の死はこんなにもあっさりしていたり、誰かを不幸にしてしまった。
…"彼女達"からしたら、きっと勝手に死んだあの人が悪いって事になっているだろうし、不幸にしたのもあの人の方だと言うのだろう。
あの人をあそこまで追い詰めた彼女達は悪くないんだ、と。
…突然、8月14日の言葉が、頭の中にぐわんぐわんと響く。
『課題が終わらない!!!テストが終わらない!!!!』なんて呟いたとある20歳の人なんか、描いてる絵の進捗なんか上げちゃっていたりして。
「ーーそれ風邪引いてるんじゃね?」
自分より低くて、従兄弟よりは少し明るい男性の声が意識を表に浮き上がらせてくれた。
「いや…熱とかは……無いです……………………」
「ん〜…じゃあやっぱり…精神的に一番ダメージ受けてるだろ?」
そう言って目の前の男は煙草を一服蒸かそうと火を付けた。
……のを、従兄弟が止めた。
「止めて下さい。沙和、昔から煙草の煙が駄目なんですから…」
「え?ああ、そっか。すまねぇな」
…ある程度弁える事は出来るらしく、その人は火を止めると煙草を仕舞った。
「…にしてもあんたやイチが深刻になる程の相手だなんてどんな人なんだい、その連中」
男が彼女達の事を問うと、二人は沈黙した。
生前の"彼"から聞き出せた分はあるが、完全に聞き出せた訳じゃなかった。彼女達にはSNSのアカウントはあるが、月日は流れた。変化位あっても可怪しくは無い。
「いやね、どんな人なのか分かりゃ良いのよ。俺の知り合いがSNSのアカウント持ってる筈だし、取り合って協力してもらうつもりだから」
「名前とか…ですか……」沙和は"彼"かま書き残した遺書に書かれていた「彼女達」の名前を見せた。
「あ、そうでした沙和、見せたいものが。二見も見ますか」
「お?」
「?」
従兄弟が突然、思い出した様に…いや、元から伝えたかったのだろう、奥の方へ一度入って行ったかと思えば、次には手に一冊のノートや古い携帯電話を手に持って出て来た。
「"彼"のものです。親には見せたくないから、と亡くなる前に私に」
静かに置かれた一冊のノートと携帯電話を前に、二人は固唾を呑んだ。




