ーFidemー
ーー有夏が挙げた、三つの言葉。
笑うな。
信じろ。
正直になれ。
彼女の言葉には明らかな魔力めいたものが上乗せさせられ、りりんを呆気無く其の虜に引き入れてしまう。
「うん。ちゃんと信じるよシヨさん」
りりんは未だ理性は残されていたーー後に彼女の言葉をナカに深く深く受け入れてしまったばかりに、あんなにも狂う事になってしまうとは思いもしなかっただろう。
「有夏」と云う女は恐ろしいのだ。前戯の様に滑らかで巧みな言葉遣いで人を籠絡する。
女の身でありながら、親しくする女を貪り喰い、勿論男とも恋愛的な付き合いを行う。
度々「私は〜」と己を語り、そして「自称」無性愛者なんですよ、と言っている事もあった。
但し其の殆どは、私難病なんですけれど、の言葉が明らかに多かった。然り気無く己が富み栄える者・恵まれた者であると主張するのも欠かさなかった。
彼女の無意識の心がよく語っている。「私は天に愛された幸運な存在」だと。
彼女の心の方が、寧ろ其の言葉より正直だった。
何時も聞こえていた、あの声。
「私は誰よりも恵まれているの」
「私は誰からも愛されるの」
「愛されないあなたとは違うのです」
そう言えば、彼女と親しくしている張の無意識の心が話す言葉も、そういうものが多かったなーー
「〜そう言ってくれてありがとう!!りりんさんっ!!!」
シヨ、改め有夏は画面の向こうで目をきらきらとさせながら、画面の向こうのりりんの手をガシリと掴みそうな勢いで迫る。
…否、爛々としていた。
有夏はりりんを自分の女にする為に、彼女から得られている信頼を利用した。
見事に嵌まったし、りりんは自ら籠の中に飛び入った小さな動物や虫と同じ。
有夏が無意識の内に薄っすらと頬を染めて、まるでそそり立つものをしゃぶり尽くしたがる様に、舌なめずりをしていた。
「ーー端的に話そうと思うの。私、でんちゃんも大好きだけど、餡さんやりりんちゃんの事も好き。RIOさんやくろさんもみーんなよ。みんなで…理想的な環境がとっても欲しいの♡」
曰く、今よりもっと素敵にしたいのだとーー
「でも私だけじゃちょっと大変なんだ。私ってほら、やる事多いでしょ。難病は奇跡的に治ったよ。だけどね…………」
何故か服を脱ぎ肌を露わにする。
「りりんちゃん」
そしてズズ…と有夏の手がりりんを求める様に画面へ向かって伸び、ズブズブと侵蝕してゆく。其れはやがてりりんのスマートフォンの画面から飛び出し、有夏の白い手がりりんの頬にそっと触れた。
「あなたの推しがもし現実になったら、嬉しいでしょ」
有夏の極ありきたりな言葉に、りりんは鼻息をふんすと鳴らして
「そりゃ当然だよシヨさんっ!!」
有夏の手が自分のスマートフォンから出てきた事に驚く事より大きく、或いはもう其れ自体への違和感すら感じなくなったかーーりりんは満々に返した。
「…うん。じゃあさ、私達と一緒にこんな世の中変えちゃおうよ」
にこりと微笑んだ有夏が、次の瞬間にはりりんの目の前へ飛び出していた。
「シ…シヨさん!!?」
此れには流石に驚いたらしい。だが、りりんは抵抗する迄も無く彼女の両手を受け入れた。
和やかで淫らな時間からお互いの間に過ぎてゆく。
まるで見てね♡と言わんばかりの有夏の表情に、戸惑うりりん。互いの視線が交わり、交わい、そして有夏はりりんの思考を己の意思で埋め尽くした。
「ーー!!!!!」雪崩の様に押し寄せた有夏のここ最近の記憶と感情。
不治の病の快癒、
世相を突き落とす流行り病、
有夏と出会った黒外套、
彼から与えられた力。
「あ…………あ……………」
りりんはぶるぶると震える。身体中の穴という穴から汗も体液も淫らな匂いのする液体も滴り落ちて、其の下を濡らしてゆく。
何でも叶える力で、有夏が行った事。
己の都合の良い様に周りを捻じ曲げた事。
ででんを自分の仲間へ引き入れた事、餡を自分に仕える仲間にして侍らせる女へ変えた事。
りりんは確信した。ででんの様に迄は行かずとも、餡の様に隷属させられるだろうという事に。
「私ねえりりんさんの事大好きだよ。だからりりんさんも守りたいの♡もしあなたが私達と一緒になってくれなかったら私きっと守れない♡お願い。私に付いて来て♡私をもっと求めて下さい♡奥深くまで受け入れて離さないから♡」
ゾッとする程に際立つ、一糸纏わぬ姿で有夏の愛撫に全身を痙攣させる張と美亜の影。
「あ…いや……いや……………」
「■■■さんがりりんさんだけのものになるんだよ…♡」
甘い吐息が耳に、零距離からの囁き。寵愛する姫を愛おしむ様に桃色の視線が捉え、厭らしく舌がりりんの頬を舐めた。
…「彼女」の言葉は絶大だった。まるで大きく聳え立つ根の様に力のある言葉が、りりんの下腹部を激しく突き上げてゆく様に錯覚させる。
あ、あぁーー
そっか、そっか、で…んさんも、餡さんも………これ…受けたんだ…ぁ…………………………♡
りりんが全てを悟った時には、世界の全てが真っ白になった様に感じられたーー
「……………。」
プツッ、と途切れる音。応答の無くなった相手に最早何も言うまいと閉ざした遣り取りの跡。
「……♡」遣り取りを切った彼女は、目的を達成したと、其の口元が全てを表す。
「りりんさん…今頃凄く気持ち良くなってるだろうなぁ…♡」
長い髪を耳に掛ける其の仕草すら艶めく。有夏は遣り取りを終えた相手の今の状況を想定し征服感と支配欲を満たした。
「ーー…。私の「言葉」がここまで大きな影響を与えられる様になるなんて。あの男は不愉快ですが、感謝しましょう」
己に与えられた複数の力と、与えてくれたであろう青年へ渋々感謝しながら。
「うふふ……うふふっ♡やった、やった!!これでぜーんぶ私の思い通りに動かせられる!!後は……でんちゃん…sk■bで依頼したソフィアちゃんが完成したんだって喜んでたっけ。後で二人きりになっておめでとうってもっと言いたいなぁ♡課題頑張りながら■■くんも描いてるみたいだし、応援しなきゃっ!!」
うふふ、うふふ♡と小躍りしながら、有夏は全てが自分の想定通りに進んでいる事の喜びを隠し切れなかった。
「私のこの力なら悩む事は無いし、あいつの墓にでも顔出して、ついでに骨壷も取り出して墓ごと壊して、あいつの家にあるかもしれない物も位牌もぜーんぶ壊しちゃおっかな…♡あはっ、あははっ、うふっ、ふふふふ」
無邪気な童女の様に、純真な幼女の様に、くるくると回る。
掲げた白百合の旗を振るうジャンヌの様に気高く務めようとし、パンドラの様に禁忌へ手を伸ばし、そしてソフィアの様な彼女と一緒に憎いものを完全に滅却しようと其の足は動き始めた。




