ーRequiritur ad mundi sanitatemー
変わらず彼女は日々を過ごしていたが、其の頃には一つだけ大きな事柄が流行っていた。
ーー世界中に蔓延り、流布した致死の病の存在。
人々は次々と死に絶え、苦しみ、荒れ狂った。
僅かな事にさえ、其の事が纏われば刺激を受けて棘を出す生き物の様に荒れ、元凶ともあれば叩き出した。
無論、彼女の入り浸るSNSでも、所々其の話題に持ちきりとなり、誰かの不幸あれば様々な意味を以って賑わい、仮面の下の人の顔が容易に覗き見られる様な環境だった。
元々病みやすい彼女は事ある毎に病んだり安定したり、情緒が不安定な状態を繰り返した。
ーー最も、りりんにとってはまだまともだろう。
何せ、彼女を大いに病ませた愚か者のロマが居ないのだからーー
危機的な状況にあっても、彼女は人命の為に白衣の天使となり、愛するものを愛し、密かに想いを寄せながらも身を引き、SNSの友達と深く深く結合した。
彼女にとって其れで充分だったのだ。あの酷い酷い馬鹿なロマが居ないのだから、此れ程喜ばしい事は無い、と思っていた。
もしロマの関係者の存在が出て来ても、餡さんやシヨさん、ででんちゃんが報復してくれるだろうし、最終手段としてシヨさんが奴の関係者に対して脅す事も、ロマに対してやった事も、出来る筈。
ーー絵を描きながらSNSを見ていると、ふと「最近良い事が続きますね」と云う呟きを見付けた。
(何この人…色んな人が病気に苦しんでいたり不幸になってたり、悪い報せばかり続く今の状況を嬉しいって思ってるの……?)
ふと、りりんは不愉快な気持ちになった。
…誰かの不幸や苦しみを喜んでいる発言や書き込みをしている人が居るなんて。
誰かを苦しめて苦しめて、死に追いやる様な真似をするなんて。
ーーその呟きをした人物の事を、りりんは思わずブロックした。
突発的な事だったけれども、心の弱く病みやすい彼女にとっては自然な行為だった。
(関係の無い人だけれど、ごめんなさいっ!!)
何せ、人の心が見えてしまう様なSNSだった為に、仕方の無い行為だったのだし、当然であり、穏便だ。
りりんは「穏便」である事を密かに優先した。その方がいい、と。
「…そう言えば、シヨさんも似たような事書いてたっけ…」
ぽつりと呟いた彼女が、シヨのゲームのアカウントの方を見た時の、彼女の書き込んだ一言について思い出しながら整理する為に敢えて声に出す。
「"最近良い事が続きますね"って。シヨさんの■■■のアカウントにそんな感じの一言書かれてたなぁ……シヨさん…SNSじゃあんな感じだけど、どうなんだろうね」
りりんはシヨの今の容態やら何やら、他人事なのに気にしてしまう。そういう関係者だからなのかもしれないが。
たったの一言に、りりんの心は白くも黒くも揺れている。
ーーでも私は許さないよ、ロマさん。
あなたが全部、悪いんだからね。
シヨさん達から受け続ける事は、全部全部あなた自身の行いからだからね。
私達何も悪くない。
ーーだからね、ロマさん、あなたがもうこの世に居なくったって、あなたは苦しめられるの。あなたの関係者のみんなも、シヨさん達、私達が追い詰めるんだからね。
もっと苦しみなさい。私達はあなたも、その身内も、家族も、許さない。
この世からあなたの家族も何もかも、消えてしまえばいいのよ。
消えちゃえ。
ロマさんの大切な全部、この世から消えちゃえ。
ロマさんが全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部、あなたが、あなたが、あなたが、
あなたなんかがこの世にいていい訳無い。死んでくれて良かったよ。死んでくれて嬉しいよ、でも、もっと、不幸になってね。もっと、苦しんでね。
そうなり続けてくれれば、私達、ずっと幸せだから。あなたの幸せを全部貰って、シヨさん達と分け合ってあげる。
私にとっても、シヨさん達にとっても、あなたの不幸と死は、永遠の癒しと幸せになるの。
だから私達はあなたもその家族もみんな苦しめるから。
私達の為に、死んでも苦しんでね…




