ーSunt plures possibilitiesー
「〜♪」
美亜は束の間を楽しむ様にででんの新しいアカウントに興味と関心を持っていた。ポチポチ…という訳では無いが、タイムラインがゴチャついている為彼女のホームへ飛んでゆっくり見る。
…あの後、預けられていた荷物を取りに行き、美亜は帰りにデパートへ寄る事にした。
感染症の流行で不足している物もあるが、我が身の安全と生活は代え難い…!と足りなくなった物を補うべくであった。
宣言が解除されているとは言え、第二波の兆候は相変わらずで感染者も都心部を中心にだが出ていないという状態では無い。誰が感染するかすら、しているかすら分からない様な環境、仕事が早めに終わるのは良い事だがーー
(でも生活に必要なものが無くなっちゃうとね〜…)
と、スマートフォンを眺めながら彼女はSNSで誰かと遣り取りをしたり、繋がっている相手のアカウントを見に行っていた。
デパートは広い上に少しばかり疲れていた為、美亜は休憩ペースで軽い休息を取っていた。
美亜がたった今見ているででんの新しいアカウントは、作られてそう日が浅いのか呟いている内容自体は然程多くは無く、また繋がりのある者も以前の方よりも少なかったが、■■■■ちゃんの絵を多く上げたり、見た所イメージアクセサリーなるものも作っている様だ。
然しながら相変わらず鍵を掛けずに、また一つ配慮も対策も取らずに非公式なものを上げていた様だが…
(何度見てもこれ可愛いなぁ〜、いい値で買いたいぜっ!!w)と心の中で欲しがれば、手に入る訳では無いがででんのアカウントに上げられているイメージアクセサリーの画像を眺める。
画像の上げられている呟きには
deden @dd_s■sp 2月27日
オリジナルキャラクターモチーフのブレスレット作りました( ꈍVꈍ)
等と書かれて、■■■■と彼女をイメージした装身具が貼られている。
「〜♪」
美亜は古い呟きからまた一通り見詰める。彼女の呟く事もシヨーー有夏のとはまた違った面白さがあると思って、ついつい見てしまう。
『Starlight☆☆☆』
『初投稿でしたがランクインありがとうございます人人』
『オリキャラの■■■■ちゃんです(๑>V<)』
『2〜3年前に描いたもの』と過去に描いたアナログの絵を4枚程。
あるものは■■■■ちゃんの差分絵を一緒に上げながら
『どっちもせかいいちかわいい』
と書かれ、
またあるものは
『描いてる途中で手足のおかしさに気づいたけど直す気力はありませんでした!!!!!!!!!!!解散!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
等と荒ぶったものまで。
そして彼女のプロフィールには
『指で絵描いてます(■■…■…イ■…)』やら『星空とアンティークが好き』と書かれている。
日本語も英語も中国語も話せるなんてマルチリンガルで凄いな、天才じゃん、他の人達と一線を画してるわ〜とほぅ…と感心の溜息と共に吐き出され、
「指で描くってのがまず凄いよなぁ」ぼそりとマスク越しに小さな呟きを続けて吐いた。
アナログの頃からも既に上手いし、デジタルに変えたらもっと上手くなっている。上達の早さが尋常じゃない。
(不愉快ではあるけど、アイツの言った「女神様」って言葉が案外しっくりくるのかもね、シヨさんに対しても使ってたし)
美亜は少しだけ眉を顰め、ムッとしたが実力と主張の激しさ、悪く言えばワンマンで怖いと思えてしまう程の、無意識な一番への執心。其の表れ。
其れ等を引っ括めて奴は形容したのだろうか、と不機嫌になりながら考える。そして直ぐ取り止める。だって不愉快極まりなく、もう亡くなった奴の事なんて考えるべきじゃない、と。
少しばかり呟いた言葉は減っていたが、気が付けば彼女を慕う者が22人になっている事に、美亜は気付いた。
無論其の中に自分も込みで。
「学校大変なのに…本当に凄いな〜」美亜はまたぼそっとマスク越しに彼女を賞賛した。
いいね!をし損ねているものも幾つかあったので序にいいねを済ませ、絵はRTもして広める。
「あ、これか!!」と彼女が呟きの詳細を確認すると、『ピカーン!』とだけ呟かれた呟きと、進捗。
其の次の呟きには完成されたものが。どうやら此れがペイントアプリにランクインしたものらしい。
良かったね〜!!と心の中で喜び祝福する一方で、ただ一つだけ薄ぼんやりと美亜は危惧した。
(でも、もしアイツの関係者が「もしも」絵を描く奴だったりして、ででんさんと同じペイントアプリ使ってたらさ…ランクインしてたら見えちゃうんじゃ…)
ペイントアプリの事については取り敢えずででんとシヨの二人から大体聞いていたし、RIOさんや他のフォロワーも何人か使った事があるのも知っている。
特にででんさんはこのアプリを使うし、しかも指で描いているなんて…と、凄いっ!!と思う一方で世の中なんて思った以上に狭いんだという事も知っていた。
(それかアイツのスマホに入ってる可能性とかさ…アイツが死んだ時の事はシヨさん伝で聞いてはいるけど、その後とかは知らないんだよね。でもあのゴミカスのアイツもアプリで絵を描いていたし、もしも「ゴミカスのアイツの身内が」じゃなくて「アイツのスマホに入っていたら」…アイツの残された身内がさ、アイツから遺品として…いやいや、あくまでももしかしたら……もしかしたら、ね)
…何故か、ぶるりと背筋が寒くなった。
ーー……………………。
ーー………………。
ーー…………。
……。
ーー悪い手段だが。
ある意味、彼女達を広めるという形では此れもまた其れなりの宣伝になっているのだろうか?
まあきっと、彼女達の誰かが辺鄙な場所に落ちた粗雑な物語を見付けたのかもしれないし、或いは繋がりを持った名の隠された星が物語を焼き尽くす為に彼女達へ伝えているのかもしれない。
取り敢えず、何らかの形で進んでゆくだろう。




