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Dea Creaturae ーAc revelareー  作者: つつみ
Deinsophia
31/108

ーBeldianaー

「付いて来て」

有夏に誘われる様に張は彼女に付き従い、付いてゆく。

(何だろう?)張は其の答えを知らない。有夏の意図に何らかの喜びが見え隠れしていたが、どうしてなのか。









そんな中張は不意に有夏の創作物の話をぼんやり思い出していた。

Are Your Name?そして黙死録。

数々の魅力的な言葉で綴られた詩の様な物語。三星の遣り取り、借りたタイトルですら彼女の手で彩られる。

途中からタイトルも彼女自身が考える様になったが。


(姉ちゃん…理想の世界になったら、また話してくれるかな……)

憧憬の様に思いを馳せた。

































ーー気が付くと、一つの大きな扉の前。

「でいんちゃんに素敵なものを見せてあげる。やっと出来たんだよ」

妖しい微笑みをチラリと張へ見せながら、彼女は一足先に扉の先へ入った。

































ーーゴウン、ゴウン、と奇妙な音が重く響いている。

(なに、ここ…!!?)

部屋に入った張が戸惑っていると、有夏は傍のスイッチをかちりと押して全体を照らした。




「……………見て」

有夏の一言で全体を見渡した張の視界に収まったのは、巨大な兵器ーー

























「……!?何あれ!!?」

「どう?凄いでしょ?」

視界に飛び込んだ巨大な()()()()()()()に口を大きく開いて驚く張の傍へ有夏は躙り寄り、じっとりと張り付く様に彼女の身体に抱き着いた。

有夏の淫らな吐息が張の耳元を(くすぐ)る。


白百合の様に白い見た目、洗練された形状、

然し鋭利で暴力的とも思える太さと硬さ、

内に秘められているであろう熱量ーー




…何故か外装に描かれたデフォルメされた金髪の女神の顔。

更に青い瞳が正しく有夏の好みに合致する。

















「…ね、ねえ、これは…これは何?」

茫然とする張の質問に答える様に有夏は話す。

「ーーベルトニウム・エクスプロージョン。通称『怒りのベルちゃん塩寒天爆弾』。あっ塩寒天爆弾ってのはね!!私か塩ででいんちゃんが寒天でしょ!!だから一緒にして「塩寒天」!!ほら、ずっと前に二人でタイムライン上でやり取りして塩寒天って出したでしょw」

張の態度とは真逆に有夏はかんらかんらと明るく楽しそうに話し、過去の事を振り返った。









ーーベルトニウム・エクスプロージョン。


彼女曰く『怒りのベルちゃん塩寒天爆弾』。

訳の分からない通称だが其の名に反した恐ろしいモノ。

Beldiana。デフォルメされた女神の顔の近くにそう刻まれた言葉には有夏が考えた非公式の女神の姿が浮かぶ。

ベルちゃん。あの外装に描かれた女神にそっくりな顔をしている。


姉ちゃんが公式のキャラクターに俺設定的なものを付け足したキャラクター。公式のキャラクターの見た目だけど、姉ちゃん所のうちのこ。



確かずっと前に聞いた事があるが、公式のキャラクターを捏造したり改変して自分のオリキャラです!って言ったら本当は駄目らしい。だが考えたのは何せ私の傍に居る、この姉ちゃん(有夏)だ。

姉ちゃんが法に触れる事をするはずが無い。姉ちゃん以外の人がやっちゃ駄目でしょ?


姉ちゃんは正しい、姉ちゃんは正義だ。姉ちゃんは何も悪くない。

姉ちゃんも私達も正しい。

だから間違いなんか……






……間違いなんか無いのに、でも兵器を作った姉ちゃん。

兵器、というか、姉ちゃんの話した内容の時点で明らかに危険な物なのは確かなんじゃないかと思ってしまう。

姉ちゃんは何を考えているんだろう。

どうして姉ちゃんーー









































「…ねえ、姉ちゃん……話した通り、この塩寒天爆弾?ってものが本当に兵器だって言うならさ…兵器って絶対危ないよね?どうして危ないものを作っ……」

張が戸惑いながら全ての言葉を言い切る前に、有夏はバァンッ!!と張の両隣の壁を強く叩き、張が逃げられない様に囲んだ。

そして有夏は自らの手で張の顎を軽く持ち上げ、魅惑的な溜息を吐きながら張へ迫る。




視線が交わり、

鼻先が当たりそうな程に、

唇が重ねられそうな程の距離。


「でいんちゃんなら()()を作った理由…分かるよね……」

有夏の眼差しはとろん、とほろ酔いの如く甘い眼差しで、まるで言わずとも巨大な兵器の意味を知っているだろう、と脅す様。

「………っっ!!」

張はごくり、と固唾を呑み込んだ。有夏の、彼女の甘い眼差しが張の心を掴み取って魅了の底に落としたからだ。


込み上げる奇妙な情欲に抵抗も虚しく、有夏の全てが正しく愛おしいと張は囚われた。









「ーー!!」スッ、と互いが重なり合う。無機質な壁を背にして有夏に押し留められる様に張の顔は隠された。

有夏と張の唇が重なる。「こんなにも愛し合っている仲じゃない」とでも訴えてきそうな有夏に抵抗する意思は既に張の中にはある筈も無く、だらんと下がった両腕は服従の如く垂れ下がった儘。

有夏の大きめな胸がぎゅうぅっと背の高い張の身体に厭らしく押し付けられる。


「んっ…■■ちゃん…っん♡かわいい…♡」

舌舐めずった有夏の上目遣いを受け入れて、張の脳内は完全に支配された。「自分達は完全であり正しい」と、自分達の此れ迄の行いにも()()()()振るわれるであろう行いにも何の違和感も嫌悪感も完全に抱く事は無くなった。

「はは…えへへ、そうだよね、姉ちゃんは間違っていないもん。正しいんだもん。■■■■ちゃんのため、わたしたちのため、姉ちゃん自身の…ため」

魅了の深く刺さった張の瞳の焦点は合わず、小刻みに震えながら有夏へ同意し続けている。

「そうだよ。ちゃんと分かってるんだね。流石でいんちゃん。大好き、大好き、大好き」

有夏は張の言葉に胎がきゅっと締め付けられる様な刺激を得て嬉しそうに張を抱き締めた。






有夏は己の持つ力と手腕で多くを魅了し、籠絡する。

張に今行った様に、

従っている者達に行った様に、

自分達へ信仰を向けている者達へ行った様に。




そして叶えるべき、いや叶えられなくてはならない理想の為に、有夏は地殻変動を意図的に引き起こさせる為の兵器を造り上げた。



ベルトニウム・エクスプロージョン。



有夏にとって、其れが実現させるべき理想の世界(■■■■■■)の為に必要なもので、其の望んだ世界と同じ形に此の世を変えるものである、と自負して止まない。

故に例え張であろうとも、否定されてはならない。

彼女にとって自身のシナリオは実現しなくては何も始まらない。

彼女にとって■■■■が台頭する世界で無くてはならない。

■■■■■が本物でなくては、聖女(■■■■)ちゃんは存在させなければ、災女(■■■■)ちゃんも存在させなければ、■■くんも、あの世界も、何もかも。

私自身の思い通りに、でいんちゃんの描く神話の通りに、

古い世界の全ては撤廃させる。

私達の理想的な幻想の材料に作り変える。

唯一の女神が居るのならば、其れを排斥し■■■■ちゃんを女神に。

■■■■ちゃんを(■■くん)の永遠の伴侶に、

■■■■■が完全で永遠である為に、■■■■ちゃんが創り出す■■■■ちゃんランドも現実にしなくては。



…有夏の頭の中は、常に強く深い欲望に満ちていた。

其れを象徴する様に、兵器は静かに其処に在る。

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