ーDeinde processus pergit Puellaeー
ーー星の乙女が生まれてから、彼女達による革命は更に勢いを増し中期には世界の大半を占めていた。
其れ程迄に有夏を筆頭とした運命の女の快進撃は凄まじく、正しく「神達による革命」「聖女達の進撃」と呼んでも差し支えの無い程だった。
ある存在を除けば計画は着実に進み、滞りも少なく理想へ近付いていた。
有夏達は次第に忙しくなり、そして更なる進撃と支配の達成の為に更なる策を練る様になっていっていた。
……今日も窓の向こうに信奉者達の歓声が聞こえてくる。
「有夏様!!」
「貴女こそ聖女だ!」
「この憂える世界をお救いになさる為に降臨した尊い御方よ!」
「ああどうか私達の事もお救い下さい!!」
「有夏様はかの聖女ジャンヌダルクの再臨だ!!!」
…殆どは運命の女達を纏める有夏へ対するものだったが、張や他の者への言葉も確かに存在し、彼女達の耳に届いている。
「ーー…!!、………!……………!!…、〜…!!!」
どうやら有夏が外の民衆達へ何かを伝えている様だった。
すると途端に民衆達からの歓声は一気に大きく強くなり、更に賑やかになってゆく。
(…ふふ、姉ちゃん、大好きな聖女ちゃんと重ねられて嬉しかったのかな)
張は思わず口元を緩ませて、「私も何時かは■■■■ちゃんと重ねられたり、或いは彼女を生み出した偉大な女神様〜…なんて呼ばれちゃうのかなっ」等と身を小さくふるりと震わせながら胸の内を躍らせていた。
「あっ、いけない…■■■■ちゃんの話をもっと書き進めなきゃ」
張は卓の上の紙と向かい合う。紙には無数の文字がびっしりと綴られていた。
「■■■■ちゃんと■■くんの事…二人の愛の話を書かなきゃいけないのに」
有夏に言われた"神話"を完成させねば、と張は再度意気込んだ。
ーー……………………。
ーー………………。
ーー…………。
ーー……。
「〜…あーっ疲れたぁぁぁぁ〜!!!!!」
暫く経ってから張の部屋に有夏が入ってきた。
「わっ、姉ちゃんびっくりしたぁ…!!……姉ちゃんお疲れ〜」
入って早々大きな声で疲れた等と叫んだ有夏に驚きながらも、張は彼女を労う。
「でいんちゃんありがと。…ほんと私達の計画の通りにいってはいるけど、あんな風に毎日来られてもね〜…」
真面目に言うと邪魔だしうるさいし…等と有夏は愚痴を溢す。
「確かにそうかもだけどそれだけ姉ちゃんの理想通りに物事が進んでるって事だよ。あの人達は皆姉ちゃんの味方なんだから」
「確かに。味方があんなにいればより都合良くなるだろうし、欲を言えば■■■■ちゃんや■■■■■の布教ももっと効果あるだろうし、私達に何かあってもああいう人達が盾になってくれそうだし…」
有夏はソファに転がりながら信奉者達の使い道についてあれこれと考えていた。
「所ででいんちゃんどう?進んだ?」
「うん!姉ちゃんも皆も喜んでくれるかなって!!」
「えっ!?ほんと!!?早く読みたい!!!」
「だーめ!!まだ完成してないの!完成したら姉ちゃん一番先に見せてあげるから!!」
「☆.:*・°\( *´∀`* )/*・°☆.:*」
言葉には出さなかったものの、表情や振る舞いとして有夏は喜びを表現した。「あ。」と有夏は何かを思い出した様な事を言うと、またソファに寝転がって自身のスマートフォンを取り出し、何かに打ち込み始めた。
「姉ちゃんゲーム?」
「うん〜、今イベントでしょ?」
「そうだったね。てかさ姉ちゃん本格的に復帰したんだっけ」
「そうそう。復帰って事にして四六時中張り付ける時は張り付く様にしてるんだ〜♪」
「そう言えば姉ちゃんあんま寝てないんじゃない?」
張が指摘する通り、有夏は殆ど寝ていない。早ければ早朝5時から、そして深夜3時まで殆どを其のゲームに消費している。
更に、深夜3時から翌日早朝5時まで平気でゲームに打ち込み、其処から昼間で、また更に昼下がりの午後も、夕方も、夜も、そして深夜になっても、何かあればずーっとゲーム、ゲーム、ゲーム!!
故に彼女のゲーム内での活躍も恐ろしく早く、図鑑も持ち物も何もかもが増えていったり増減を繰り返している。
しかもイベントを切っ掛けにゲーム内のギルドに所属したらしく、其処での活躍もかなり良いらしい。
世界中に病の風が吹き荒ぶ中、健康を損ない感染の危機に瀕する可能性すら構わず今日も彼女はゲームをする。
「まあ万が一感染しようが私達の力でなんとかできるし、りりんさんの力で信奉者の人達も何とか出来ちゃうでしょ」とは有夏の言である。
「!!!」有夏が驚いた様に飛び上がり、張を驚かす。
「どうした姉ちゃん!!!」
「あ、でいんちゃん大丈夫、何でもない」有夏は淡々とした様子で張へ返し、そしてまた画面に釘付けになった。
『………お疲れ様です!〜……、…………、〜〜、〜、……?』
「おぉ…!!」有夏は小さく溜息を漏らしながら瞳を輝かせ、そして何かを返し始める。返しているであろう文章が思わず漏れている事には気付いていないのだろう、
「〜、えーっと、『おはようございます!新参者の私がですか?!』と」
『………、』
「…『大変光栄な申し出ありがとうございます!私で良ければ』、」
「『喜んでお引き受けします!』…と」
…丁度なのか、直ぐに相手から彼女のマイルームへ返信が来る。
「!!えーと、『了解しました!至らぬ点多々ありましょうがその時は御指導のほど』、」
「『よろしくお願いします!………利を…じ…!』…………………………っと!!」
一通り打ち終えた有夏はにこぉ、或いはニンマリと嬉しそうに微笑む。心無しか厭らしくも見える。
「どしたの姉ちゃん?」
「でいんちゃん聞いて聞いて!!私今所属してる先のギルドの副団長になっちゃった〜っっ♡♡♡」
くーっ!と有夏は嬉しく振る舞う。
「今やってるイベントかなりやり込んでるからかな!?かな!!?」
ウフフッ、と笑い声を漏らす。
「やったね姉ちゃん!!!!!」張も我が事の様に喜んだ。
ーー……。
ーー…………。
ーー………………。
ーー……………………。
ーー張の執筆も、有夏の打ち込みもかなり時間が経った頃、有夏はまるで気紛れな猫の様にソファから立ち上がり張の名を呼んだ。
「■■ちゃん、」
有夏は執筆を休んでいる張の後ろに立っていた。
「ふぁ…。何?姉ちゃん」
「執筆お疲れ様。今日はもう休んで、ちょっと私に付き合って欲しいの」
「?」
有夏の言葉に何の事かと疑問を抱いた張へ、有夏は付いて来いと催促をする。
「姉ちゃん?」
「付いて来て」
慌てて部屋を出る張へ、猫の道案内の様に先に張の部屋を出て振り返る有夏の姿。
少しだけ翳りの掛かった彼女の表情は、何故か恐ろしく冷たく見えた。




