ーCreativity nomen est eius facultatemー
張を寝台に押し倒した有夏が迫る。
「ねっ…姉ちゃん、落ち、落ち着こうよ??」
欲情にも似た形で興奮した有夏を諌めようとするものの、色々な感情が綯い交ぜになって上手く諌められない。
「早く…早くぅ♡■■ちゃんの見たいのっ♡♡」
「……、心の準備が……………」
張は迫る有夏から顔を背けて気不味そうに言葉を吐き出した。
「いいじゃんお願い♡何か減ったりなんかしないってばでいんちゃん〜」
有夏は張の頬にちゅっちゅっと遊ぶ様な口付けをする。
人懐っこい犬の様であり、気紛れに遊ぶ猫の様な振る舞い。
「………でも…」
張が躊躇っていると、扉の向こうから誰かの声が聞こえてきた。
「……〜、また名前変えたのー?」
「うん♡今度はミズノって名義にしたの♡」
「よく変えますね〜」
…餡と木兪、いや改めミズノの声だ。
「最初辺りはりりん、前は木兪…で、今度はミズノさん?」
「そうそう♡」
「まあでもりりんさんはりりんさんだよね」
「えへへー♡名義は変わったけどこれまで通りで良いからね♡」
二人はどうやら有夏と張の様子には全く気付いていないらしい。扉一枚を隔てて和やかな談笑が聞こえる。
「新しく名義変えたの塩さんとででんさん知ってるのかな?」
「はわ!!確かに!!でもきっと私のアカ見てるだろうし気付いてる筈だよ、みんなゆっくりしてる時間だしw」
……其の例の二人が、近くの扉一枚の向こうで非ぬ状態である事には気付いていない。
「………っふ、ねえ■■ちゃん…もし私がさ、■■ちゃんの身体を弄ったりしたら気付くんじゃないかな」
悪戯な童女の様なニヤつきを見せながら、有夏は態とらしく張の膝に己の股を落とした。
「♡」
かくん、と有夏の身体から力が少し抜ける。くちょ、と張の膝に何かが湿り付くのを張は其の肌で感じた。
「わっ待って待って…駄目だってば!!」
張は有夏の悪戯に慌てふためく。
「あっ、■■ちゃん、そんな風に動いたら駄目だよっ♡」
扉を隔てても聞こえてきそうな張の声と、更に拍車を掛ける有夏の声。
「?」
「りりんさんどしたの?」
「あ…いや、塩ちゃんとででんちゃんの声が聞こえたような」
ミズノが少し不安げな様子の声でそう言った。
「あ〜そっかここででんさんの部屋だったっけwお二人共ツイでも仲良しだしいつもの事じゃない?」
餡が慣れた様子で微笑ましいよね、と言った。
「うふふwwそっかwそうだよね、塩ちゃんもででんちゃんもいっつも仲良しだもんねwww」
「そそwwだからみんなのいるとこに行きましょー!!」
「そだね〜♡ぺけさんやくろくろさん達と遊ぼっか〜」
餡の言葉に少し安心したらしいのか、ミズノは餡と一緒に何処かへ向かっていった様だ。声が遠退いてゆく。
「……むぅ、残念」
有夏は少しむくれた様子で残念がった。
「残念、じゃないよ姉ちゃん…!!あの二人に気付かれたらどうするの!!」
張の言葉の通り、そうだ。有夏は何故か薄布一枚になっており、更に張も何時の間にか有夏に衣服を剥ぎ取られていたのである。
もしもあの二人に非れも無い此の光景を見られてしまえば、最悪終わる。何かが。
「良いじゃん、別にさ。私とでいんちゃん、あっちでは嫁とか旦那とか呼び合ったりしてるんだし…」
どうせ単なるじゃれ合いにしか見えないよ、と彼女は語る。
一見して異常にも思えるのは、有夏自身の「欲」へ対する理性的な箍が既に失われつつあるからだろう。此の一刻一秒の間にすら。
「…でもさ、でいんちゃん。もう…準備は出来てるんだよ。だから怖がらずに、その力を使ってみて欲しいの」
有夏は先程の振る舞いと打って変わって何時もの彼女自身に戻っていた。
「……………でもやっぱり怖いよ……」
張は躊躇った。もし失敗してしまったら、もし上手く出来なかったら、と。
「〜もうでいんちゃんったら!!出来る出来るってば!!!!!」
有夏は張の背中をバシバシと叩く。
「だって■■■■ちゃんの生みの親のでいんちゃんどよ?■■■■ちゃんと言えばでいんちゃん!!■■■■■と言えばでいんちゃんっ!!!これは公式なの!!!!!」
非公式だなんて言わせない!!公式さんと同じ■■■■ちゃんも公式にするの!!と躍起になっている。
「■■■■ちゃんを公式にすれば■■■■■だって公式のものになるんだから…私達にとって最高の供給じゃない?」
江津さんだって喜ぶってー、と兎に角張を励ました。
「………あはは…上手く、いくのかなぁ」張は有夏の励ましに僅かだが気を安らげ、些か不安さは拭えないものの少しだけやる気を出した。
「大丈夫っ!!でいんちゃんが凄いのは私が保証するし」
有夏はふふん、と威張る。
「私が傍に付いていてあげるから」
皆の前ではプレッシャーが勝るなら、と有夏は張へ提案した。
「でいんちゃんの「創造」の力を振るうの、私が傍で見守ってあげる。独りじゃ不安なら、みんなが居ても怖いなら、…私となら、大丈夫」
有夏は張の手をそっと取る。
彼女の瞳を見て、張は、■■■■を現実にする為に創造の力を振るう事を決意した。




