ーQuaeritur sine querela permissum esse ac munus esseー
ーー某日、関係者は彼女と遣り取りする事になった。
理由は一つだけ。関係者の内容に張が一つだけ返したからだった。
「…うわ、………「すみませんあまり見ないもので」とでも文頭に付けておいとけば良いか。良いだろ、うん」
一目見て"お義理で"文を返す事にしたのだ。
「言い訳は…えーっと……」
スッスッと軽やかにフリックしながら、彼女は一文を書き上げた。
『こんにちは、ごめんなさいあまり此方の方には来ないもので…』
そして彼女は柔らかに、然し徹底とした拒絶を織り交ぜてゆく。
『何度も〜……たが結論として■■■■さんがどうされたいのか〜私の方から……握できませんでした〜』
『具体的な案を提示して頂か〜』
「しかしまあ五月蝿いなぁこの人。虚しくならないのかなw馬鹿じゃないの?きっと私より学無いんだろうなwww」
現実の方では相手をただただ嘲笑していた。
「あそうだ!頭の良い書き方で返してやろーっとw」
慣れた指を滑らかに動かす。
『…………さんが仰る〜容は見た限り議論ではなく一方的な論破です』
『■■■示してください。その内容を聞い……から議論しましょう』
「そして相手の文章を抜粋して然り気無く見下す…っと。ふふふっ、馬鹿そうだから私の所謂「こうどなけいべつ」ってのは絶対気付かないでしょwww」
下等な民族を見下した事で気分が舞い上がった彼女は、自分が如何に優れているのかを再認識していた。…画面先の相手が大好きな「姉ちゃん」と同じ人種なのにも関わらずだ。
……いや、もしかしたら彼女にとって相手なんて「姉ちゃん」達とは違う劣等種だと決め付けていたのかもしれない。
ーー然し、張は後悔した。
(送るんじゃなかった)
端末を片手に彼女は頭を無造作に掻き毟る。
「姉ちゃんに内容見せようかなぁ…」独り言は誰にも聞こえない。もし誰かが聞いたとしてもきっと有り触れた事柄であると受け止めるだろう。
(でも送っちゃったし返信を求める様な書き方しちゃったもんなあ…絶対相手から来ちゃうよ……)
とは言え、張には有夏達と同じ「無視する」という大の得意技があった。
勿論彼女は書いたっきり返信など読まず、書き逃げたのである。不誠実だと罵られ不名誉を被る事よりも、己の保身に逃げたのである。
嵩町有夏と同じ様に。
彼女も、有夏も、圧倒的な恵みがあった。
生まれも育ちも言えば幸せな方だし、才色兼備だし、家庭的な能力もある。
人格は多少おかしな所はあるが愛嬌として、または面白さとして受け止められ見過ごされている。
きっと、どんなに望んでも殆どの者が得られない「普通」というものを彼女達は、張は持っている。
其れなのに、なのに。
彼女達はとても愚かだった。学歴やら何やらなんて恐ろしい程無関係だったのだ、人間性を顕すと云うものは。どんなに優れていてもこんな人間であった。
半数以上から最低だと罵られる事も、平気で出来てしまう女達だったのだから。
ーーそうして冬が忍び寄ってきた10月は12日の23時が迫る頃。後に「ニルスィ」と呼ばれシーフォーンの追従者となり数奇な運命を辿る或る人物が久方振りに小説を上げた。
…と云うのは一つ、別の話となるので置いておこう。…が、来る日も来る日も、張は返さなかった、逃げ続けた。己が可愛過ぎるがあまりに、現実からも問題からも目と背を向けてどっぷりと甘く優しくねっとりとした快楽の夢の中に浸かっていた。
一糸纏わぬ乙女が肉欲の限りにも似た白濁の海の中を漂う様に。
張は、何処までも逃げ続け、無視し続けた。怨恨が深く這い寄って来ている事すらも無視をして。




