ーImprobus in gaudium minorumー
さてとある201■年の09月14日は正午に差し掛かった11時頃、張はある大型投稿SNSに一つの絵を上げた。
『■■君 は いいぞ』
其のたった一言だけだったが、同胞者が持って秘めていた怒りの感情を暴いてしまった。
何故ならば元凶にして主犯者の一人である彼女が存命にして健在であった事が明らかになったからだった。
…同胞者の怒りに理由はある事を既に御存知だとは思うが、彼が怒りに狂うのも有夏や張達がある人物を自殺に至らしめ、死に追いやってしまった事にある。
同胞者にとって、亡くなってしまった其の人物は命の恩人だったし、兄の様に慕っていたし、先行きを見出だせなかった彼に未来をくれた人でもあった。
…彼女達は、其の人間の心を壊し、殺し、そして本当に死なせた。
残された者が其れを許せるか。…彼等の場合、許す事は出来なかった。例え亡くなってしまった者の方に非があったとしても、彼には確かに家族や義理でも兄弟が居て、親しくしていた者だって確かに居た筈なのだから。
有夏と張達は、自分達自身もそういう身にありながら、人を結果的には殺してしまったのである。
何度も言うがーー
ーーそんな同胞者の怒りも物ともせず己達で楽しみ、笑い、自己の欲情を好きなもので発散した。
時に同胞者の怒りを嗤っては亡くなってしまった者の其の死を彼女達の本性はギャハギャハと嘲笑った。
(まーた吠えてるw)
張は呟くタイプのあるSNSで他の者や有夏と遣り取りをし、ゲームで遊びながら苛立ちと嘲笑を混ぜた感情を心の中に湧かせていた。
ーー張と云う少女は。
其の性格は明るく語彙に長けており、
知識があり造詣は豊か、
語学は堪能でありマルチリンガルに話せて、
容姿への言及はあまり見られなかったが、170cm台と云うモデル並みの身長の高さとピアノを上手く弾く程の能、
更には絵を描き、物を作り、
愛は異常に深く、
そして知識を創作に注ぎ込む。
同じ程位の水準を持つと思われる、家柄の立派な令嬢こと嵩町有夏とは現実でも交友を持っている。
ーー唯一香ばしい所を除いて、挙げてしまえば比類無き(恐らくは)美少女の部類なのだろう。
其れだけならば性別は流石に違うが、僕としても純粋な憧れを向ける程だ。
有夏と並んで世に言う素晴らしい人間というものなのかもしれない。
………但し、其の秘めた攻撃性の高さと喧嘩っ早さと、有夏同様に排他的で選民的な思想が無意識に無ければ、無ければだ。
まあ彼女も有夏も、自身の中に選民的な意識や思想があると指摘されればかなり否定する事だろう。
其れ程迄に彼女達二人は無自覚だった。
考えや好みの近い者同士群衆を作る弊害は、軈て彼女達の回路を溶かした。
自分達が総じて一人を死に追いやる行為について彼女は「悪い事じゃない」と主張した。
死んだ者の同胞がどれだけ悲痛と憎悪を述べても、彼女は同胞までもを無視した。
死んだ者の死を、残された者の不幸を悼む事も無く。
彼女の心は態度の向こうに主張した。
「先に姉ちゃんがやられたんだから、私悪くない。私達のした事は姉ちゃんの為なんだから、姉ちゃんや私達の方が被害者。そんな馬鹿なんか死んで当然だよ。■■さんなんてこの世に居ない方がいい。不幸?私や姉ちゃんには関係無いでしょ。何で私や姉ちゃん、りりんさんや餡さん達が責められなきゃならないの、キレるよ?」
キレてキレて、社会的にあなたの事も殺してあげましょうか?と、態度の向こう側から透けた本性は死んだ■の同胞達に強く脅迫したのである。
其れでも、彼女は己の立場を危うくしたくなくて敢えて彼の同胞をも無視していた。
張。彼女という存在は普通の中に溶け込みつつ、上手く持ち前の悪意を包み隠していた。
…寧ろ、同じ主犯者である有夏達を含めた周りの共犯者達が本性を知って尚包み隠してくれていた。そういう意味でも恵まれていたのだろう。
1月1日生まれ齢19の異人の少女は、己が最も最高の環境にいる事を、人を不幸に突き落とす行為の楽しさへ対する無意識の喜びと共に噛み締めていた。




