ーRegnaturiー
長生き出来ない、と告げられて。名に咲く花が薄命の象徴と知って。其れでも己の好きな事はしていて、然し普通に好きな儘死ねずに、聖女も災女も愛していながらずっと其の儘では居られないのだと悔しんで、
願って、
選んで、
そして彼女は永遠を得た。
愚かな程に生に執着して縋り付いて、甘い誘惑に潜んだ毒すら理解しないで彼女は強毒の塗られた百合を取り、女である事を選んだ。
普通の女では無く、選ばれた運命の女を。
只でさえ恵まれていた彼女は、より傲慢に神の星を取った。
ーー違う。
いや、違う、取ったのは確かだが奪ったのだ。
他者から幸福を奪い取り、代わりに自分に降り掛かる筈の不幸を押し付けた。
集団で。自分達の数よりも多くの人間に。
簒奪者となった有夏を筆頭に彼女達は、自身の全てのみを受け入れ信奉する信者を集め、己等の尊さを広め、伝え、そして其の布教は何時しか「仲間の一人が作った、ある煌星の民の少女騎士の物語」を伝え広めて強制的に信仰させる行為へと変わっていった。
既存の教えを捨て去り、古い神と排斥し、此れからは己達と其の少女騎士を神と崇めよ、と有夏は宣告した。
時には甘美な囁きで、時には脅迫的で、更に暴力行為すら厭わず。
とりわけ意欲的だったのは彼女だけでは無い。彼女の次に運命の女となったとある異邦の血を持った少女ーー其の創作、少女騎士の生みの親が時に有夏を上回る火柱の如き意欲で、恐ろしくなる程の脅迫的な態度で信奉者を増やしていった。
ーー異人の血の少女については有夏の次に話すつもりので此処では割愛させて頂こう。
長きに経てあらゆる手段を酷使して多くの命を手に掛け疲弊させていった彼女達は、本当に世界の支配者として君臨してしまった。
魔術という失われた概念を理想の為に心血を注いで再現し、そして既存の優れた技術は徹底的に規制を施しては独占した。
自分達だけが優れた技術を恒久的に利用出来る様にしたのも、理由はある。
…常に優位に立っていたいという願望、レベルの低下した人間達に敢えて無償で施す事で己等への絶対的な畏敬を損なわせないという欲望の孕んだ策略だった。
「………うーん!見晴らし最高!!」
童女の姿の有夏が涼しい風を受けて気持ち良さそうにしている。彼女は自分の為に造られている新たな場所の最も良い場所から、変わり果てた世を眺めていた。
「いい景色だなー、ちょー最高だぞ!!■■ちゃんと眺めたかったなぁ」
此の場には居ない異人の少女の存在を惜しみながら彼女は独り語った。
「うーん…街の名前はどうしようかな…アルテ・イリアルも良いし、マイステシャ…とかもなんかエキゾチックってやつで悪くないな!」
容姿の元である童女に合わせた話し方で無邪気に振る舞いながら、彼女は自分の統治する場所の名前を真剣に考える。
「むむむ〜」態とらしく頭を抱えしゃがみ込んだ彼女の背後から少し距離のある場所で、
『ならば、間を取り"ミストアルテル"では如何かね』
ーー嘗て聞き覚えのあった、青年の声が聞こえてきた。
「!!?」突然の声に有夏は振り向き、大きな瞳を驚きで更に広げた。彼女の視線の先に、殉教の赤を与えてくれた黒外套の青年が確かに立っている。
『二世紀程振りだね、嵩町有夏』
口元だけが覗いた彼の姿に、有夏は人であった頃の姿に無意識の内に戻って彼と対峙した。
「………………………貴方は…」有夏は出会ったばかりの頃と変わらぬ姿と声で、青年に問い掛ける。
「何のつもりですか。今更になって何故出てきたのですか」
『別に。先ずは世界支配御目出度う』
「此方の質問にちゃんと答えなさい!!」
青年は悪びれも何もせず、パチパチと拍手を贈りながら歩み寄ってゆく。
『いや、本当に思い通りにしてしまうとは!!』
青年は拍手次いでに彼女へ感嘆の言葉も贈る。
『素晴らしい!!素晴らしいよ有夏!!本当に有言実行してしまうなんてね、君は"誰かさん"に対して自分の事を馬鹿だと卑下していたがやっぱり学のある格式高いお嬢様じゃないか!!!実に人間らしい!!!!!』
言われている事自体に含みがあるのは何と無く察しつつも褒められているのだという事への喜びの方が勝り、悪い気もしないでいると彼は有夏に対して続ける。
『矢張り君がお嬢様という御身分なのも理解出来てしまうよ、高飛車、傲慢、強欲!!正しくお嬢様という立場の者に抱かれ易い心象。君は立派な典型例だ』
深窓の令嬢はどうやら欲と承認の塊であったらしい、と彼は楽しそうに褒めに見せた揶揄の様な言葉を繰り返す。まるで己の立場を態と貶めようとしている様に。
彼は息を深く吸って、語る。
『さあ僕を破壊し給え。…出来ないんだろう?僕を殺せば煩わしさも消えるが得た力が失われるとでも思っているから出来ない。残念だ。君なら僕を殺してくれる気がしたのに。昔精神を破壊し尽くすだけ破壊して、心が壊れる程の暴力を皆で振るった癖にね』
「っ………」己の心に過ぎった事をズバリと言い抜かれて、有夏は少し狼狽えた。
『まあ僕も君にそんな事出来るとは思いもしちゃいないから安心するんだ。僕としては大変に不本意だが君はしないだろう。まるで無視する様に、君は態と僕にはしない。…そうだ、例え僕に明確な殺意があったとしても、君は僕を更に苦しめる為に僕の望みは叶えようとはしない』
生かさず殺さず、嫌って憎い相手が只管苦しむのを喜んで見ている正しくとも恐ろしい人間だと彼は有夏を、其の仲間達を定義付けた。
『ーーさあ有夏、もう一度あの時の様にしてみよう。君の名前は?そして、君が選ぶべきものは?』
彼は手を伸ばし、有夏に問う。
「……私は嵩町有夏。……いいえ、私はもう、有夏であって、有夏じゃない。…シーフォーン。由縁は私が使っていた名義から。そして私が選ぶのは殉教の赤!!これ一つだけ!!!」
有夏はーーシーフォーンは、己の選択を徹底する。
『そうかい……君は絶対に変わらないんだね。ならば、"殉教の赤"について話そう。もう一度』
君が選んだ嘆きと憎悪と哀しみの赤を。
君が背負わなくてはならないものを。




