ーQuid nobis et tibi prae oculis habesー
墓参りを済ませ、仕事の準備等を進めていた沙和の元に一本の通話が入る。相手は二見からだった。何時もなら其れなりに期間を空けて掛かってくる事が多いのだが、今回はどうも間隔が短い。
何かあったのだろうか、と通話を開始する。受話口から聞き慣れた声が聞こえる。
『あっもっし~?ごめんね~ちょっとさあ』
……二見さんだ。この妙に緩い感じは彼しか出せない。
「はい、何かあったんですか?」
『あっいやね~お前さん明日辺り予定は空いてるかな~って』
予定?と疑問符が浮かんだが、沙和は正直に返す。
「ああ、特に予定は無いです。午後からで良いのなら」
『おっ分かったぜ、じゃあ明日の午後に○○通りの………○に……………で、此の辺りで…!』
二見から言われた場所をメモし、書き終えて返事を返してから、彼の『じゃあ明日な』という言葉を聞いて通話を終える。
急に会う事を持ち掛けてきた彼の意図が読めないが、彼なりに発見があったのだろうか。
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市内某所にて。
「おおー!会うのは久し振りだな!!」
手をひらひらと振り居場所を知らせている。
「お久しぶりです二見さん」
「まあまあいいからここ座ってくれよ!!」軽い挨拶を済ませたら二見に促される通りに席に着く。
「…それで呼んだ理由っていうのは?」
「これさ」
サッサッと指を動かして見せた画面。
「…?」
唐突な行動に意図が読めない沙和に、二見は説明をする。
「ちょっとした暇潰しと仕事のストレス発散のつもりで始めたんだけどな、イチやお前さんから聞いた事を参考に…」
…と、自分の端末を操作しながら二見は画面中の文章の塊を沙和に見せる。
そう、所謂小説というものだった。
ーー暇潰し、と言った通り、あまり深く考えずにただ並べただけのものもあれば、ある程度纏まった表現や内容になっているものか並ぶ。
気紛れ、という言葉が丁度合ってるのだろうか。タイトルはーー『Kill the goddess』。
粗筋は『星の美少女天使ソフィアちゃん教なる新興宗教を立ち上げた女達にかつて大切な人を殺された友人が「ソフィアちゃんを守る偉大な女神サマ」を自称する彼女達と関係者をみんな殺す話』…という、兎に角かなり雑な書かれ方だった。
ざっくりしている所は或る意味二見さんらしい。
「そんでこいつを見てくれないか」
…と、二見が見せたのは小説のアクセス数だ。アクセス数を見た限りでは特に気になる点は無い。…いや、意外と見ている人がいるという事に少し驚いた。
「ただなぁ、ここの…ユニークアクセスっつー所でな、変化が無いのに特定の奴が見に来ているっぽいんだよな」
二見はこう続ける。
「…で、俺はお前さんに協力したいから奴さん等のアカウント見てるだろ?そしたらさ…俺が書いた部分を無かった事にする様にこの侑花って奴は呟きを消しただろ?あとdendenも文章のみの呟きを極力減らして、んて多くの文章は画像にして投稿している」
更に彼は語る。
「あと証拠を消す様に呟きを消した辺りの前後から閲覧数がどっと増えてね。ユニークアクセスに変化が無かったから俺は閲覧者の正体は奴さん本人か誰かが見ているんだと思ってんのよ」
「敢えて彼女が自分の赤ん坊を育児放棄して死なせた~って書いた頃辺りと奴さんの鍵開けは大体近いし、見ようによっちゃあ一致してるんだよ、時期が」
また彼は一週間単位のアクセス数も沙和に見せた。
「ほれ見ろ、更新の度の前後辺りにさ、数人分位のアクセスがある。でもユニークはほぼ変わっちゃいない。同じ奴が何度も此処に辿り着いて、何度も見に来ている訳さ。ちょいと第1部を書き終えてその後第2部じゃん、並行で前日談みたいなの書いてるけどどっちの話の方にも同じ様な状況、そしてほぼ同数のアクセス数なんだわ」
ただ最近は第2部の方のアクセスが妙に多いんだけどな、と付け足す。
「…でも、一の様に二見さんがこういう事をしているのを知っている方からの可能性もあるんじゃないですか?」
「そそ、イチとかは知ってる。けど俺のリアルの友達に最近これ知ったって言われてさ~だっはっは!事情は詳しくは知らないらしいけど悪い人じゃないから大丈夫」
二見は"リアルの友達"の事を沙和に話し、その人は大丈夫だと言う。
「イチやその友達のアクセスは何と無く分かるんだよ、「あ、これあの人だな」ってさ。でもな、時間帯が集中していて、特定の条件に当て嵌まる奴からのアクセスは恐らく奴さん達なんだろうと俺は確信している」
ーー何時もと違い真面目な顔をして話す彼の様子に彼の疑惑は間違ってはいないのだろうと沙和も確信する。彼女達の呟きや振る舞いは、もしかしたら彼の暇潰しの内容にある程度影響されていたり反応しているのかもしれない。
(最終的にあの人の事を無視して、存在を殺した癖に二見さんが暇潰しで書いたものに小さくとも反応してるのか…結局完全に無視し切れていないんだな)
度々見に来ているとするなら、何だかんだ気にしてしまうんだろうな、と彼女達の行動や発言の不完全性に感情の冷めた部分が心を包む。
「…んでさ、あの~……」
二見が目を泳がせながら、改めて沙和を見る。 「……俺、イチには話したけどお前さんには言わずに書いちゃっただろこれ……駄目なら消すからさ…」
軽く冷や汗を流しながら、ポリポリと顔を掻いている。
「……………………。」
「良いですよ」
あっさり、と。沙和は少しばかり青褪めた二見の顔を見返しながら然程気にしてはいない様子で答えた。
「…え?は?いいの??」
「はい。もう今更だと思うし」
「うっ」
「と言うか二見さんからその様な事を聞けたのは一つの…良いかはともかく、報せですし」
次第に目線を沙和に合わせる二見に対して、淡々と沙和は話した。
「それに二見さんにとって仕事のストレスの発散になるのなら、それを取り上げる訳にもいかないですからどうぞ。その第1部や第2部とかいうのは脚色はしてるんでしょう?なら問題には思わないです」
そう言い切ると沙和は何時の間にか頼んでいたカフェラテを飲み始めた。
「ああ…でも一つ良いですか」
「?」
カフェラテを少し飲んだ沙和が、二見に一言。
「折角だしこれは二見さんの奢りで」
サラッと言ってまたカフェラテを飲み始めた沙和を見て、二見はまあ仕方ねえなあ、と財布の中の所持金を確かめるのだった。




