一対
二つで一つのものを、二人で一つずつ分け合って、「おそろいだね」と笑っていた。
花嫁の右耳では、ドレスと同じ淡いピンク色の真珠が光を弾いていた。
幸せで織られたようなドレスを身に纏い、きっと一生で一番美しく着飾っているであろう親友の姿を、私は親族席から見詰めていた。
親友である流美は、私の兄の時雨と結婚し、今日、式を挙げている。
誓い合うのを止めようとしたのは、つい先程の事だ。
けれど私は結局何もせず――出来ず――ずっと大人しく座っている。
流美とは小さい頃から姉妹のように育ってきた。流美はいつもやわらかく笑っていて、穏やかで優しい春の陽射しのような子だった。大学が別になるまで、学校の日も休日もほとんど毎日一緒にいる仲だった。趣味が合うわけではないのに、何故か一緒にいると心地良くて、たくさんの時間を一緒に過ごしていた。流美が作ってくれたお菓子を食べながら、何をするわけでもなく自室でだらだらと過ごした休日は、平凡だけれど大切な日々だった。
大切な時間を一緒に過ごした、大切な子。だから。
だから、幸せになって欲しいと、幸福を願い笑みを浮かべたのは幾度目か。
流美の隣にいる兄、時雨に目を向ける。
兄は妹の私から見ても出来た人間で、何事も要領良くこなせる人だった。人の輪の中心にいる訳ではないけれど、堅実に支えとなり、円滑に物事を進められる人。ただ人当たりが良いだけではなく、誰かが間違っている時にはちゃんと正してくれる、本当の優しさを持っている。
私もそうなりたいと、目標としてきた人だ。そんな人だから。
だから、流美のことをきっと幸せにしてくれるはずだと、テーブルの下で自らの手を握りしめたのは何度目か。
私の見詰める先で、二人はリングボーイから受け取った指輪を互いの左手の薬指に通していく。
同じ意匠の、揃いの指輪を。
不意に左耳が痛んだ気がして手を遣った。
雫型のピアスが指に触れる。
流美と二人で買った、一対のピアス。
流美と二人で一つずつ着けた、ピアス。
分け合った片割れは、行方不明。
静かに深く呼吸をして、手を降ろす。
それから、微笑んでいる流美の表情に似せるように、自らの唇を吊り上げた。
美しい花嫁姿。幸せそうな表情。きっと一生で、一番美しい姿。
けれど、それでもきっと、一番美しく笑っていたのは、互いに「おそろいだね」と笑い合ったあの時だと、信じている。