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希う  作者: 十楽游理
1/1

一対


 二つで一つのものを、二人で一つずつ分け合って、「おそろいだね」と笑っていた。




 花嫁の右耳では、ドレスと同じ淡いピンク色の真珠が光を弾いていた。

 幸せで織られたようなドレスを身に纏い、きっと一生で一番美しく着飾っているであろう親友の姿を、私は親族席から見詰めていた。

 親友である流美(るみ)は、私の兄の時雨(しぐれ)と結婚し、今日、式を挙げている。

 誓い合うのを止めようとしたのは、つい先程の事だ。

 けれど私は結局何もせず――出来ず――ずっと大人しく座っている。

 流美とは小さい頃から姉妹のように育ってきた。流美はいつもやわらかく笑っていて、穏やかで優しい春の陽射しのような子だった。大学が別になるまで、学校の日も休日もほとんど毎日一緒にいる仲だった。趣味が合うわけではないのに、何故か一緒にいると心地良くて、たくさんの時間を一緒に過ごしていた。流美が作ってくれたお菓子を食べながら、何をするわけでもなく自室でだらだらと過ごした休日は、平凡だけれど大切な日々だった。

 大切な時間を一緒に過ごした、大切な子。だから。

 だから、幸せになって欲しいと、幸福を願い笑みを浮かべたのは幾度目か。

 流美の隣にいる兄、時雨に目を向ける。

 兄は妹の私から見ても出来た人間で、何事も要領良くこなせる人だった。人の輪の中心にいる訳ではないけれど、堅実に支えとなり、円滑に物事を進められる人。ただ人当たりが良いだけではなく、誰かが間違っている時にはちゃんと正してくれる、本当の優しさを持っている。

 私もそうなりたいと、目標としてきた人だ。そんな人だから。

 だから、流美のことをきっと幸せにしてくれるはずだと、テーブルの下で自らの手を握りしめたのは何度目か。

 私の見詰める先で、二人はリングボーイから受け取った指輪を互いの左手の薬指に通していく。

 同じ意匠(デザイン)の、揃いの指輪を。

 不意に左耳が痛んだ気がして手を遣った。

 雫型のピアスが指に触れる。

 流美と二人で買った、一対のピアス。

 流美と二人で一つずつ着けた、ピアス。

 分け合った片割れは、行方不明。

 静かに深く呼吸をして、手を降ろす。

 それから、微笑んでいる流美の表情に似せるように、自らの唇を吊り上げた。

 美しい花嫁姿。幸せそうな表情。きっと一生で、一番美しい姿。

 けれど、それでもきっと、一番美しく笑っていたのは、互いに「おそろいだね」と笑い合ったあの時だと、信じている。



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