九話
えぇ、どうしよう。なんかリーネルちゃんが、漏らしながら泣きじゃくり始めたんですけどぉ。
うん、困惑はするけど、だからどうしたとしか思えないのは、感情が鈍い竜族だからだな。本来の姿である竜形態だと、一番強く作用する感情は『怒り』位なんだよね。後は『恐怖』のどっちかという両極端。
逆鱗に触れる、って言葉がある様に、竜族は怒りに燃える(あるいは恐怖にプッツンしちゃう)とバーサクモードに入っちゃってステータスが爆上がりするのだ。そういう状況って、大抵戦闘に身を置いてる場合だから不都合はないんだけどね。
竜族って番の時を除けば、皆ソロ思考なんで世界のどっかに自分の巣を見繕って、大体引き籠ってるのさ。だから理性を無くして暴れ狂う状況になっても、同族を巻き込む危険性は殆どない。
巣は、俺みたいに自然のままを利用する竜が多いから、地形を変える程度の被害で済むし。え、巻き込まれる周辺生物の安否? そんなもん誤差誤差(竜的感性が出る部分)。いや実際、バーサク入ったらもう自分じゃどうにもできんしね、時間経過で解除されるまで。後は結果を受け止めるしかないんだわ(溜息)。
まあ稀に、巣をダンジョン化させて他の種族と遊ぶ竜もいるらしいけどね。財宝とか用意して。ただそれらも、他種族の町やら国やらを襲って奪ったり、貢物として差し出させたりしたものらしいけど。凄まじいヘイト稼いでそうだよなぁ、あいつらって。
しかし『巣作りド●ゴン♪』って楽し気な音声が、あの押しの強い騎士のおっさんの声で聞こえてくるようだぜ!
はい、前世でやり込んだゲームですが何か?
実際俺も、竜に転生したと分かった時に、一瞬やってやろうかな!ってワクドキしたけど、すぐにめんどくささが勝って、思い止まったし?
自分、生前から自堕落ですしお寿司。などと現実逃避に浸っていたりしたものの、目の前の光景は変わってくれない訳ですよ。
エキドナは勿論、村人たちは俺の意思があるまでは反応しないだろうし、肝心の当人はアレだしなぁ……もうほっぽって巣に帰っちゃおっかな~。
はぁ、本心からそうしたいものの、問い質すといった手前、それは頂けない選択だろうよ。分かっているさ。
『耳障りだ、囀るな小娘』
「ぴぃっ?!」
そろそろ泣き止め、と言った気持ちを込めた念話を一方通行で送り込んで見たんですがね、ハイ。結果、リーネルちゃんは白目を向いて、色々と人様に見せられないお姿で、また気絶ししちまったYO!
いやこれ、どうしろと?
『所詮は脆弱惰弱な人の器、我が一言すら受け止め得ぬか。興醒めだ』
「それは、致し方ないかと……。私のように、偉大なる邪竜様の加護を持っていない者が、その言霊に触れるなど、耐えきれるものではありませんから……」
『だとしてもだ。我を狩り殺そうと挑んでくる愚者どもの中では、チリ一つほどマシな部類であったものを……』
そういえば、与えた加護の一つが、俺からの精神的衝撃を受け流せる効果を付加してたんだったな、あの娘には。だとすると念話に耐えられるのはこの場においてはエキドナちゃんだけか。
ん~む、残る手段は何だろう……筆談? いやそれは竜族の威厳的にアウトだな。這いよる折檻の危険性が!
……後はあれしかないか。うん、『人化法』だな。あれなら普通に『世界公用言語』で会話も可能だし。ダメなら『ウルミスト王国語』だな。無駄に長い生の暇潰しに、色んな言語覚えているのが役立つぜ。竜の脳っておかしいレベルで高性能だからな!
人化を最後に使ったのは、エキドナちゃんの母親の代の『禊の儀』か。欲求が復帰する時の感覚って、微妙に不快感を伴うんだよねぇ……。
まぁ、しゃーない。人語でないと尋問も出来ないとなれば、仕方ないな。