表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編他

僕だけに見える月

作者: 桜もち

 僕と父さんは、よく高台の公園で星を見ていた。僕の住んでる町は空気がきれいだったから、真っ黒な夜空に散りばめられた星がよく見えた。

「月が大きくてきれいだね」

 地球に一番近い衛星は、毎日のように僕達の裏側にいる太陽から光を受けて銀色に輝いていた。

「どこかな? あれかな」

 父さんは最近目が悪くなってきたみたいで、月の光さえボケてしまっているようだった。

 この時、月は僕だけに見える特別なものだった。


 真昼にも月は見える。天体豆知識だ。知らない人はきっと多い。僕が指を指して月があるよ、と言っても、月なんか見えないよ、と返される。とても寂しくなると同時に、優越感を覚えた。

 この時、月は僕だけのものだった。


 その日は月がよく見えた。とても大きくてきれいな月だった。

 父さんと一緒に空を見上げて、きれいだね、と言ったら父さんは、何も見えないよ、と返した。父さんはいつの間にか本当に目が悪くなってしまったようだ。

 この時から、月は僕だけのものになってしまった。


 真昼でも月は大きく見える。もう探す必要もないくらいに大きく。

 この頃何だか様子がおかしい。あんなに大きな月をみんなが知らんぷりする。僕が必死に月を指して叫んでも、みんな首を振って見えない、と言っていた。

 月は、僕だけを見てる。


「さぁ、皆さん。遂に最後の日が来ました。最後の晩餐は決めましたか? 大事な人に掛ける言葉は?……そんなもの決められる訳ないじゃないですか!! 嫌だ! 嫌だ! 死ぬのなんて嫌だ! 月! 月! あんなものさえなければ!! ああああああああ」


 なんだ、良かった。みんなにも月は見えていたんだね。見えているのに、見えていないフリをしていただけなんだね。

 地球滅亡の日を告げるニュースキャスターの涙に僕は安心した。月はみんなに見えていて、そして地球に近づいていただけなんだ。

 この日、月はみんなと一緒になった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ